潮時
この日の狩りはとても楽しかった。
報酬もでない討伐歴にも残らない狩だったが本当に楽しかった。
「……なあ、もう十分じゃろうが」
皆で囲んでた火も小さくなり、会話も途切れ途切れになってきた頃キクがふとそう呟いた。
「そろそろ潮時じゃないかね?」
夕日が沈み辺りは夕闇に包まれていた。
「最近のおまいさん達見てるとちいとも楽しそうじゃないぞ」
ゆっくりと全員の顔を眺めたキクは静かに立ち上がり席を外していった。
◆
真ん中の火がパチパチと音を立てる。取り残された俺達は静かにその音を聞いた。
「楽しそうじゃない……か」
アム兄が沈黙を破り口を開く
「お菊さんよく見てるわよね」
ため息と同時にベラも声をだした。
「……そうだね。楽しくないよね最近」
「いがみ合ってて、嫌な思いばっかり」
皆、そのまま心の内を話した。
「これからどうする?」
「Ⅱ群目指すのやめるか」
「そうだね。別に士官目指しているわけでもないし」
「うん。皆で狩が出来ればそれでいいもん」
「今日の狩りは久しぶりに楽しかった」
アム兄が皆の意見をまとめる
「なら、特殊モンスター狩りはやめるってことでいいんだな?」
方針は決まったのに誰も頷かなかった。
「止めるのはいいんだけどさ、なんだかな」
「うん。そうなのスッキリしないの」
「なんだか癪よね!」
「ここでやめたら、あいつらに屈服したようでいやだ」
「そうだな。なんとか一矢報いてやりたいよな」
折れかけた心に闘志の火がついた。
「じゃあ、あと一回特殊モンスター狩りを成功させた後、手を引くってことでいいな」
アム兄の提案に全員が力強くうなづいた。
この後、このメンバーで楽しい狩が行われることも、再びバーベキューを囲むことも二度となかった。
この日の事を「あの頃は楽しかった」と語る日が来ることをこの時の俺達は知るよしもなかった。
ただ、俺達の結論を聞いたキクが「その最後の一回は必要ないじゃろ」と反対していたのは覚えている。「悪いことは言わん。今やめた方がええ」と。
だがどうしても引けない事情があると説明する俺達に
「わかっとるよ。有終の美を飾りたいと考えておるんじゃろ?じゃがそういうのは大抵上手くいかん。どんどん引けなくなってドツボにはまるのがオチじゃ」と言っていた。
キクの先見の明は確かだった。
キクだけは見えていたのだ。この悲惨な結末を。




