BBQ
夢中になってキノコを探していると、イノシシと遭遇した。
イノシシではあるのだが、額に尖った角が生えている。
その角を向けてこちらへと突進してくるので剣を抜き迎え撃つ。
素早くかわしすれ違いざまに下から斬り上げる。
アム兄も同じく反対側を斬りつけたがイノシシは倒れなかった。
イノシシの勢いは全く止まらず血を吹き出しながらも馬鹿みたいに直進していく。
最悪なことにその先にキクが立っていた。
「避けろ!」
とは言ってみたものの、ニフェやベラならともかくキクには絶対無理だ。案の定後退一歩目で躓き転んだ。
血の気がひいた。
どう頑張っても間に合わない。俺とアム兄の叫声が響く。
キクに突っ込む直前、イノシシの目に矢が突き刺さった。
イノシシの悲鳴が上がり、危機一髪で軌道を逸らすことに成功。
立て続けに矢が耳元と胸に刺さる。ニフェだ。
キクに駆け寄り「大丈夫か?離れるぞ」と手を引いたが立ち上がろうとしない。
「オイ、急げ。ここにいると邪魔だ」と催促すると「こ、腰が抜けた」地に這いつくばった状態で俺を見上げてきた。
マジか。
貧弱すぎるだろ
こんな状態で毎回一緒に行きたいといってるなんて聞いてあきれるぞ。
こうなったらイノシシの方を遠くへ誘導するしかない。
「あー坊!」
心配して縋りつくキクを振り払ってイノシシへと向かう。
こっちだ!こっちに来い!
挑発して俺の方へと気を引く。すると一直線に俺の方へと突撃してきた。
キクの悲鳴のような声が聞こえてきたが、この程度の攻撃なら軽くかわせる。
真っ直ぐに向かってくるだけなのだから避けやすい。避けながら反撃する余裕すらある。
イノシシは体中に何本もの矢を受け、俺とアム兄が何度も斬りつけてもなお、倒れなかった。
強いというより、タフだ。
散々血をぶちまけながら爆走を続ける。
ベラの魔法?そんなの却下だ!丸焦げになったら勿体ない。
不死身かコイツと思い始めたころ、ついにその体が倒れた。足は倒れてもなお、宙を走り続けていたがしばらくすると全身を痙攣させて動かなくなった。
今晩のご飯が決定した。
◆
予想外のご馳走が手に入り皆ホクホク顔だ。
早速イノシシを持ち帰りバーベキューの準備をする。
俺、バーベキューは初体験だ。
アム兄とニフェがせっせとイノシシを解体していく。倒してすぐ内臓は取り出してあるので皮を剥いでいくところからだった。
俺とジルで石を積み上げて簡易のカマドをつくりあげる。上に乗せる鉄板は倉庫から適当に見繕ってきものだ。
そのかまどに、ベラが杖をかざし火をつける。
それを見たキクが大変驚いていた。
あれ?そう言えばキクは魔法を始めて見るのか?
キクの驚く様子を見てちょっと得意げな顔をするベラ。
「最近のマッチは大きゅうなったのお」
キクは火が付いたことではなく、マッチの大きさに驚いたらしい。
「マッチじゃないわよ」
「そねえ大きいと持ち運びが大変じゃろうに」
ベラの否定もキクの耳には入らない。もうキクの中ではあの杖は完全にマッチ認定された。
「だからマッチじゃないって!」
「ベラの場合マッチで間違いないよな」
火の魔法しか使えないしとアム兄がこそっと耳打ちしてきて、ぶっと吹き出していると「聞こえてるわよ!」と鬼の形相をしたベラがこちらを向いたので、直ぐに解散した。
イノシシの肉は脂がたっぷりで美味かった。畑でつくった野菜も、山で採ったキノコも美味い。
茶色い甘くてしょっぱいキク特製のソースの味がまた絶品だった。
これソースだけでもご飯が食べれそうだ。
外で食べるって言うのがなんともオツである。
狩に行けば外で飯なんてよくあるが、堅いパンや干し肉等の携帯食料を食べておわる。
そんな中キクのお弁当は本当にありがたい。
味気ない携帯食料を食べる時とキクのお弁当を食べる時じゃあ、皆の口数が全然違う。
今日のバーベキューはお弁当の時以上に皆よくしゃべり笑っていた。




