悔しい決断
「神に誓って、横取りなどしていません」
堪忍袋の緒が切れる寸前、涼しげな声があがった。
ジル兄だった。
ジル兄はベラとアム兄の間をぬけソタの前に立つ。
「プロスタンか。お前、神官の資格もってるんだったか?ならこいつ等にばかり肩入れしてたら駄目だろう?『等しく救いの手を』ってのがプロスタ・グランジン教だろうが」
「おや、おかしいですね。私はその方たちにも救いを施したはずなのですが」
そうだ。モンスターに襲われて怪我したアミオダロンの奴等を治癒したのはジル兄だ。
そんなジル兄に対しこんな仕打ちをするのか。
「神様は全てご存知です。卑怯者や人を貶める者を決してお許しにならないでしょう」
エセプロスタンのジル兄だが視線をやるだけで、アミオダロンのメンバーがビクついた。
いいぞ!ジル兄!
プロスタ・グランジン教がいかに人々の心に深く浸透しているのかよくわかる。
いつもどこかパッとしないジル兄に後光がさしているように見えた。
「ごちゃごちゃうるせえな」
ソタの手がジル兄の襟首を乱暴につかみあげた。
「お前たちはさっさと獲物を渡せばいいんだよ」
「これは私たちの狩った獲物です。渡す道理はありません」
怯まずに毅然とした態度で俺達の正当性を訴えるジル兄の襟元を締めあげたソタは、ひげ面を近づけすごんだ。
「二度とフランに登録出来なくしてやろうかって言ってんだよ」
「……っ」
続くソタの脅しに、ジル兄は口を閉じた。
閉じたのか息が詰まって喋れなかったのかわからなかったが、信じられない脅迫の言葉に絶句する。
「もう何人も登録抹消に追い込んできてんだ。お前らもあっという間だろうぜ。神官の力で抵抗できるってんならやってみろよ」
そのまま突き飛ばされたジル兄はベラの足元で尻もちをついた。
ニフェカラントの奴等が言っていた。言い合いになったら負けると。
「奴等は各方面に顔が広い。新参者の言うことなんて誰も聞いちゃくれねえよ。それを承知でやってるんだ」そういって彼らは諦めていったのだ。
街の人の反応をみてもわかる。これはもう噂が広まった後だ。
この信用の下がった状態で逆転できるか?たった五人でフランを説得できるだろうか。
最近全く成績を残せていない俺達が。
おそらく無理だ。いくらジル兄が神官の資格もってるからといっても荷が重すぎる。
「どうすんだ?渡さずにフランにでも訴えてみるか?」
どっちの意見が通るだろうなあとニヤニヤ顔で催促してくる。
「……差し出すしかない」
「そんなあ」
「そんなことしたら、私たちが横取りしたって認めたようなものじゃない!絶対いやよ!」
アム兄の出した結論にニフェとベラが非難の声をあげる。
「このままだとフラン活動が出来なくなる」
俺がかすれた声で言うと、アム兄が頷いた。
「モンスターはまた狩ればいい」
「そんな問題じゃないわ!私たちのプライドがかかっているのよ!」
「分かっている!俺だって嫌だ!」
なおも反対のベラにアム兄が怒鳴りつけた。
「悔しいが、こんな獲物にこだわって登録抹消に追い込まれたくないんだ」
怒りで震えるベラの肩をアム兄が優しくなだめる。「ごめんね。僕にもっと力があれば」といってジル兄も背中を撫でた。
俺達は獲物を差し出した。
差し出すしかなかった。




