戦法
あれからニフェカラントは全く姿を見せなくなった。
俺達の狩は順調だ。
俺達が狙う「特殊モンスター」というのは対処の仕方を知らないと非常に厄介で世の中では強敵とされているが、弱点がわかると非常に脆いのだ。
もちろん俺らのような駆け出し冒険者の腕では太刀打ちできない強敵のモンスターというのは存在する
だが、モンスター図鑑のおかげで、自分たちでも倒せそうなモンスターを選び、準備を整えたりと、十分対策を練ることができた。
そして、今日もまた準備万端の俺達は獲物を前に打ち合わせ通りの配置についた。
「よーし!みんな!準備はいいな?練習した通りにやるんだぞ!」
みんな獲物に対しかなり離れた場所から縦一列に並ぶ。
今日の獲物は人食いトンボ。コイツは非常に動きがはやく飛び出したら捉えようがない。動きを止めて休んでいる今がチャンスだ。
「おー!」
「せーのっ」
前から順に上半身を回転させていく。後ろの人は前の人の頭一個分タイミングをずらして回転させ、そのまた後ろも同じく。そのまま回転運動をしながら少しづつ近づいていく。
こうすることでメサドンは目を回すらしい。
バカバカしいと思うが、確かに効果はあるようだ。かなり近づいたのに未だ動く気配がない。
普通ならこちらが少しでも近づくそぶりを見せただけでも飛んで逃げるのに。
いいぞ。このまま間合いに入ったところで一気に叩く。
一番前のアム兄が剣の柄に手をかけた。
よしっ合図だっ
攻撃開始
ザンッ
一刀の元、メサドンが落ちる。
ただしその刃は俺達のではなかった。
「ああ!お前は!」
戦斧を持って立つひげ面の男。
ソイツはソタロールのボス、ソタだった。
「ちょっと!それは私たちの獲物よ!横取りしないでよ!」
噛みつくベラを見てソタはニイと笑う。
「俺様のためにご苦労だったな」
おかげで手間が省けたとメサドンを拾う
他のソタロールのメンバーもぞろぞろと集まってきた。ソタは下っ端にメサドンを投げ渡すとこちらに視線をやってきた。
「まあ、手を回すだけで十分だったけどな」
ぎゃはははは!!!と笑いの渦が巻き起こる
「ば、馬鹿すぎる!」
「随分練習したんだろうな」
いや、俺も手を回すだけでもいいんじゃないかと少しは思った
だが、モンスター図鑑にははっきり図入りで詳細に書いてあったのだ「チュー×2トレイン戦法」と。
俺達はあのモンスター図鑑に絶対の信頼を置いている。
なら、それが一番有効な方法なのだと信じて疑わないだろ。
メサドンはあまり出現報告が上がってこないモンスターだ。確実に仕留めるには書いてある通りにするのが一番だと考えてしまう。
どうやら、あの図鑑にはおふざけも混ざっているようだ。
書いた本人がこれが一番有効だと思っていた可能性もあるが、どうも冗談で書いた気がしてならない。
「楽しいからいいの!」
ニフェが頬を膨らませて抗議する。それをフォローに入るジル兄。
「そうだよ!チーム一丸とならないとできないからね!お前たちには無理だろ」
もういい。もう黙っててくれ。
家で一生懸命練習していた事とか、キクに前からみてもらいながらどうだった?ちゃんと出来てたかと大真面目に聞いていた事とか、もうすべてが恥ずかしい。
嘲笑の中、アム兄とベラも俺と同じく顔を真っ赤にしながら下を向いていた。
キクは俺達の練習をみながら嬉しそうに拍手をしていた。「もっと笑顔の方が楽しそうでええぞ」と見当はずれのアドバイスまでしてくれた。
俺はまとめて記憶の片隅に追いやり、なかったことにした。
誰が書いたか知らねえが恨むぜチクショウ。
この日から、ソタロールの嫌がらせが始まった。




