デート(アトル視点)
アム兄が、キクに惚れた。
予想外の出来事に俺は大いに動揺した。
キクは可愛い。ただ中身が残念なのだ。非常に残念なのだ。
おかげで、すっかり忘れていた。
本当にアム兄に持っていかれたらどうしようか。
俺のそんな心配をよそにキクはアム兄のアプローチを全部スルーしてみせた。
鈍感すぎてアム兄がどんなにがんばって口説いても伝わらない。
伝家の宝刀「壁ドン」だとか「ちょい悪」だとかまあ手を変え品を変えキクに迫る。
よくもまあ、こんなにいろいろ思いつくものだ。
あのヘンテコキクに、そんな手が通じるわけない
自分の事を老婆と思い込んでいるんだからな。
アム兄の空回りっぷりが滑稽だった。
安定のキクのスルースキルを見て、俺はアム兄の姿を他人事のように面白おかしく眺めるようになっていた。
どれくらいたった頃だろうか
二人一緒に鎧磨きをしている時間が、いつの間にやら穏やかな空気に変わっていた。
アム兄の隣に座るキクが嬉しそうな表情をしている。
それは、アム兄が求めていたようなラブラブバカップルのようなものではなかったようだが、二人が何の力も入れず自然な様子で寄り添っているのだ。
そんな二人の姿を見るとイライラが募っていく
なんだあれ。
たまに自分の名前が聞こえてくるのがまた神経を逆なでる。
だが今更間に入れるわけもなく、遠くから眺めることしかできなかった。
焦りとイライラが続くある日、アム兄がキクに賭けを持ちかけた。
ここら辺では満月がきれいに見えた次の日は必ず雨になる。
外海側で何か起きているのだろうと言われている。何が起きているのかは不明。何せ死の海の話だ。
そんな法則、言われないとまあ気が付かない。
特に街から離れた場所に住んでるキクは知らなかったようだ。
結果は法則の通り大雨。
こうして、アム兄はキクとの一日デートを勝ち取ることに成功した。
ここにきてようやく気が付いた。
俺には笑ってみていられる余裕など無かったということに。
デートの前日、俺と出かける時は少々汚れていようが構わず着ているくせに、アム兄のために服を選ぶキクの姿がとても嫌だった。
二人が町でデートしている間、ジル兄達と共にフランへ訪れた。
フランの依頼の張り紙をみて回るが内容が全く頭に入ってこない。
ジル兄達が話しかけてきても、聞こえているのに聞こえない。何も耳に入って来ない。
キクとアム兄が手をつないで歩いている想像をするだけで、頭がどうにかなりそうだった。
やっと待ち合わせの時間になり、現れたのはアム兄と……
えと……?
アム兄と一緒にいる女の子はリボンやひらひらがたくさんついた可愛らしい服を着ていた。ショートスカートから真っ白な足が伸びてピカピカの靴が履かれている。
髪の毛も高い位置で二つに止められリボンが絡ませてあった。
か、かわいい……
キクだよな……?
いつもの長いスカートと飾り気のない服しか着ない、あのキクだよな?
「かわいい」
「本当!お人形さんみたい!」
みんな絶賛の中、俺は声を発することを忘れその姿に見入った。
やばい。
これは可愛すぎて直視できない。なんだかすげえ照れる。
俺、こんな子と一緒に住んでいるのか。
顔が熱くなるのがわかる。
キクは顔を真っ赤に染めてずっとうつむいていた。
一瞬目があうと何故か俺の視線を避けるようにアム兄の後ろに隠れた。ぽそぽそとキクが何かを言うとアム兄が楽しそうに笑う。
俺の不機嫌スイッチが入った。
そのまま、馬車でアム兄達の住んでいる建物まで行くことになり、皆で馬車にのりこんだ。
馬車の中、アム兄が当然のように隣に座りキクの肩に手をまわしている。
キクはいつもの無遠慮な態度が身を潜め、しおらしい態度でアム兄に寄り添っていた。
なんだこれなんだこれなんだこれ
馬鹿じゃないのか
不愉快だ。
すっげー不愉快だ!!!!




