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おばあちゃんが異世界に飛ばされたようです  作者: いそきのりん
大切なもの(アトル中心)
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恋心(アムロ視点)

 女の子の名前はキクと言うらしい。

 ばあちゃんと呼んでもいいと言われたが、それはない。

 皆で断固拒否した結果「お菊」で話がまとまった。

 外見のイメージからして「お菊さん」でも違和感があるのだがまあ仕方ない。


 最初は猛反対してくる態度にムッとしたが、いつでも今か今かと自分の帰りを待たれるのは悪くない。

 悪くないどころか、すごくいい。


 見送るときは結界ギリギリまでついてきて、忘れ物はないか、くれぐれも怪我に気を付けるように何度も念をおしてくる。

 最後には、やっぱり自分も行くと駄々をこね始める。すごくかわいい。


 本当にアトルの事が心配で心配でたまらないらしい。


 それを鬱陶しそうに払いのけてアトルは振り返ることなくさっさと進む。


 そんなアトルの姿を見えなくなるまで見送るキクちゃんは、不安そうに目を潤ませきゅっと唇を引き締めている。そんな姿を見せられるととつい肩をもちたくなる。


「おい、アトル。少しは振り返って手でも振ってやれよ」


「べつにいいよ。そんなの」


 アトルの態度は釣れない。



 狩を終え帰ってきた時はそれはもう、嬉しそうに駆けてきて満面の笑みで出迎えてくれる。


 これ、最高だろ。

 代われよアトル。


 そのまま、お風呂に入り夕ご飯を食べて帰るのが日課になり

 たまに泊ってもいく。


 このキクちゃんの料理が驚くほど美味い。

 はじめて食べた時は、あまりのおいしさにおしゃべりする余裕などなく皆夢中で食べた。

 見たことのない料理が多いがそのどれもが絶品だった。


 今日の茶色い衣につつまれた長方形のこれはなんだ?

 一本手に取りかじると、外の皮がパリッ割れて中から肉と野菜でてきた。アトルが言うにはハルマキと言う食べ物らしい。

 驚きだがこれをひとつひとつ自分で作ったのか?すごい手間をかけている

 いつもは丸焼きとか大雑把な料理を口にしているので、キクちゃんの繊細な料理は完成された何かの作品に見える。

 ハルマキのこの外側のパリッと感最高。外側だけでもいいからもっと食べたい。



 俺達が食べたりお風呂に入っている間、キクちゃんは脱いだ鎧をせっせと磨いてくれている。

 汗とか、泥とか、モンスターの体液とかで結構汚れているのだ。

 アトルのだけかと思ったら「ついでじゃ、ついで」と言って全員分磨いてくれる。

 泊ると決まった時は全員分の服の洗濯までしてくれる。

 非常に助かる。

 大体帰ったら疲れ果ててそんなことをしている余裕がないのだ。

 俺達は遠慮なく甘えることにした。



 ある日、ご飯を食べ終わりふと目を向けるとキクちゃんの鎧を磨く動きがとまっていた。

 何か一点を見つめながら眉を寄せていたので、そばに行って覗いてみると

 アトルの胸当てについた深い傷を、白い指でそっとなぞっていた。


 うわっ、ヤバ

 また喧嘩がはじまるぞ。


 帰る前にはジルに治癒魔法をお願いしている。アトルは特に念入りにだ。

 だが、装備の傷はどうしようもない。


 危ないだの反対だのまたヒステリックに言いだすかと思ったが、黙って見つめたまま何も言わなかった。

 アトルが風呂から上がってきても、傷のことは全く触れることなくやわらかい笑顔を保っていた。



 この瞬間、俺の恋心に火がついた。


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