剣のうで(アムロ視点)
予想以上にアトルはいい剣の腕をしていた。
お手本にしたいほど安定した綺麗なフォームをとってみせる。剣の師匠がいるらしいが、その人がアトルの事をものすごく丁寧に仕上げようとしているのが伝わってくる。
多くの人はその時その時で、より力の入る構え、より動きやすい構えと、自分の体に合わせて癖がでるものだ。そしてそちらの方が断然強かったりする。だが、必ず壁にぶち当たり、そのたびに癖を修正していく必要が出てくる。
アトルを教えている奴はそういうのを一切無視して、「今」ではなくもっとはるか高見に照準を合わせて育てている。
今は身に合わなくても最終的に行きつくだろう構えだけをひたすら磨かせているようだ。聞こえはいいが、詰まるところ個性を許さない形だ
このまま磨いていればアトルは必ず将来化ける。後はどれだけ師匠の言うことに忠実でいられるかだ
というわけで危惧していたアトルの剣の腕は申し分なかった。
そうなると週一回の活動だと物足りなく感じる。
是非毎回一緒に来て欲しい。
「なあ、アトル。お前どうしても週一しか駄目なのか?」
「駄目っていうか機会がないっていうか」
詳しく事情を聞いてみると家が町の外にあり、そのため週一の買い出しの時だけフランによることが出来るらしい。
それならアトルの家に迎えに行こうという話になった。
俺達がフランで依頼を選んで来て、目的地に向かう途中にアトルを拾って行くのだ。
そうして訪れたそこには天使が住んでいた。
◆
狩りが終わりアトルを家へと送り届ける。
来た。来た来た来た。
パタパタパタと足音が近づいてくる。
奥から現れたのは、透き通るような白い肌に紅い瞳、美しい銀髪の少女。
はじめて見た時は本気で天使かと思った。
羽が生えてないのが不思議に思えるくらい浮世離れした外見。
「おかえり」
そんな子がエプロンで手をふきながら嬉しそうにお出迎えしてくれる。
見た目はすごく神秘的なのに、大衆感がハンパない。
そのギャップが良いようなとても残念なような複雑な気持ちにさせる。
「頼む!頼むから黙ってジッとしていてくれ」と願いたくなる一方で、親しみやすくてホッとするのも事実。
「怪我せんかったか?」
「おー」
アトルの装備を受け取りながら「危なくなかったか?」「お弁当は食べたか?」といろいろ聞いてくるが、その全てにアトルは「おー」と適当な返事を返している。
「いつも、アトルをありがとの」
さっさと中に入っていくアトルを見届けた後、ちゃんと俺達にもねぎらいの言葉をかけてくれ、家に招き入れてくれる。
美味しそうな匂いが家を満たしていてお腹がグウと鳴る。「やーね。恥ずかしい」というベラのお腹も鳴り顔を赤くした。
そんな俺達を見てニコニコ笑顔で「あんたらも食べて行き」と背中を押してくる。
「いやでも……」
流石にそれは悪い気がする。
「なんじゃ、急いどるんか?」
「急いではないけど……」
「ちぃと作りすぎてしもうての。困っておったところじゃ」
これを断る言葉を俺たちは持っていない。
明らかに二人では多すぎるその量をみて、女の子の心遣いが感じられた。
「遠慮せずに食ってけよ。キクの料理は死ぬほど美味いんだぜ」
「食べたら腰抜かすぞ」とアトルが自慢げに言ってくるので「あ、じゃあ」と勧められるがままご馳走になった。




