恋人のよう(ラナ視点)
クマリンに連れてきて、キクは少し元気になったと思う。
毎日欠かさずフランを覗いてはいる。
ただ、一人ぼっちでふさぎ込むことはなくなったようだ。
廃墟同然だった家が、キクが住むことで居心地のいい家に変わっていた。
台所の周り以外は膝くらいの高さで家中板張りにしてもらい、靴を脱いで上がる仕様になっていた。
なるほどデノパンの言っていたのはこれか。
そこにローテーブルを置きぺトンと座って生活している。夜になるとローテーブルを退けてそこに布団を敷いて眠っている。固くないのだろうか?
庭の雑草はハロタンがせっせと食べてくれているのでかなりスッキリした。
最近この家はちょっとした噂になっている。前を通るといつもいい匂いがしてくるのだ。
良い匂いを辿って来てみれば、小さな家と、それに不釣り合いな護衛が直立不動で立っているから目立つ。
護衛役の デスラ=ノシド
こいつが全然融通がきかない。
太い眉毛に口は真一文字、全然笑わないし生真面目を絵にかいたようなやつだ。
お城の門番じゃないんだから、もっとざっくばらんにしてくれていいのだが。
もう一人回そうかと提案してみたが「大丈夫です!」と無駄にビシッとしながら断ってきた。
「いや、でも毎日こんな直立不動で見張りしてたら大変だろ?」
「大丈夫です!」ビシッ
「交代要員がいた方が楽だぞ?」
「大丈夫です!」ビシッ
「……」
「おお、ラナかい」
なんだコイツ肩凝るなあと思っていると、キクが顔を出した。
「ご苦労様じゃの」
キクがデスラに声をかけると途端動きがぎこちなくなり「いえ、仕事ですからっ」と伸びきった背筋をさらに伸ばした。
「お出かけですか!荷物お持ちします!」
「いやいや、話し声が聞こえたから覗いてみただけじゃよ」
そう言ってキクはすぐに引っ込んでいった。
温度が下がった目でじーとデスラを見ていると
「この役は誰にも渡しません」
と顔を真っ赤にさせながら本音を漏らした。
ほーーーー
後日覗いてみれば、家に上がり一緒にキクの手料理を食べていた。毎日ごちそうになっているようだ。
なんと羨ましい奴!
並んでご飯を食べながらキクから箸の使い方の指導をうけていた。
「そうじゃない!こうじゃ!」
「こうですか」
「そうじゃない。よう見んか」
手を取り指を添えていく「こうじゃ!」とキクは一生懸命だが
デスラの視線は手じゃなく完璧にキクの方を向いている。
なるほど、これは代りたくないわな。
なんかムカついた。
「キク」
二人の間に割り込みキクをぎゅうううと抱きしめる。
「あたしも欲しいー」とねだると自分のおかずをアーンしてくれた。美味いーーー!!
デスラの前でこれでもかというくらい存分にいちゃついてやった。だからなんだといった感じだろうがムカついたんだから仕方ない。
キッとデスラをにらみつける。
……お前にはやらねーぞ!
キクを狙う輩は日に日に増えていっている気がする
毎日のように差し入れにきてくれるキクに野郎共が集まる。
「うまそう~」とか言いながら近づいているがお目当ては差し入れの方じゃないだろ
「ちょっとお前らキクに近付きすぎだ。離れろ」
あっ!なに腰に手を添えているんだ。馴れ馴れしいぞ!
「はいはい、さぼってないで持ち場にもどれ!!」
にらみを利かせると「おお、怖い怖い」と言いながら散っていく
なーにが「怖い」だまったく!油断も隙もない!
今、キクをクマリンに連れてきたことを少し後悔している。
あのまま森の奥に隠しておくべきだった。
俗世間に出してはならない代物だったのだ。
森の外は危険がいっぱいだ。
「恋でもしているようですね」
にらみを利かせるあたしをみてジゴがそう苦笑した。
うるさいわ。自覚あるわ
キクが他の男に取られるのが我慢できない。
あのキクを。穢れのない純真無垢なキクを、汚されてたまるか。
おそらくアトルはもう死んじまったんだと思っている。
こんなに待っても帰ってこないのはおかしい。
キクも薄々気が付いているんだと思う
異様に目が腫れている日があるから。
ま。認めたくないよな……
あたしがしっかり守ってやらないと。




