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妖怪


 鋭い牙の間から大量のよだれがぼたぼたと落ちる。


 耳まで裂けた口が息を吐くと激しい獣臭が鼻をついた。


 わしらの前に現れたそれはオオカミのような姿をしていた。

 だが三つ目で尻尾が二本もついており毛を逆立てるとクマほどの大きさがあった。


 額の大きな目がギョロリとこちらをとらえる。


「よ、妖怪じゃあ!」

「ヨ……ッ? はあああ?!」


「アトル! 逃げるんじゃ」


 家まで走るようにアトルの背中を押し、その後ろをわしも追う。


 妖怪も、よだれを垂らしながら追いかけてくる


 全力で走っているがどんどん距離を詰められていく。


 何かに足を取られ、わしは盛大に転んだ。


 直後妖怪が背中にのしかかってきた。妖怪のよだれが体に降り注ぐ


「ヒィッ」


 鋭い牙が皮に深く食い込んだ。

 そのまま獰猛に左右に揺さぶられ、引きちぎられる



 犠牲となったリュックから中身がぶちまけられた。


「この野郎!!」


 わしのリュックに齧り付く妖怪に向かってアトルが剣を振る。

 それはアトルが唯一、街から持ってきた私物だった。


 剣が妖怪に接触した瞬間、炎が燃え上がった。妖怪は火に包まれ地面をのたうち回る


「ばあちゃん!早く!」


 アトルに手をひかれ、坂道を必死で登る。

 火が消えた妖怪は怒り狂って追いかけてきた。あっという間に追いつかれ飛び掛かる。


「うわあああああああっっ」


 アトルが悲鳴をあげ、わしもアトルをかばいながらも怖くて目をつぶった。


 バシ! と夜紫色の蛍光灯に集まる虫が焼け落ちる音と同じ音がした


 恐る恐る目を開けると妖怪が吹っ飛んでいた。


 一体何が起きたんじゃ!?


「け、結界だ。ここ、結界が貼ってある」


 アトルが息を切らしながらそう言った。


「結界?」

「モンスターが入って来られないようにしてあるってことだよ!」



 起き上がった妖怪は再びわしらに向かって飛び掛かって来たが同じように弾かれる。

 その後も何度も挑んでいたが、そのたびに弾き飛ばされていた。



 本当に入って来られないようだ。

 結界とはなんとすごいものか。

 

 まるで高圧電流の流れる塀だ

 しかも鉄線部分がどこにあるやらわからない仕様になっている。



 妖怪はどう頑張っても入って来られないようなので放置し帰路を急いだ



「何がわしに任せろだよ」


 アトルも安心したのか、早速文句を言ってきた。


「わしもまさかあんな妖怪が出るとはおもわなんだ」

「だから、モンスターだって! なんだよ、そのヨーカイって」

「さっきみたいな化け物のことじゃ」

「だからモンスターだって! たく、死ぬかと思ったぜ」


 怒りが収まらないアトルはぶつぶつ文句を垂れていた。

 本当危ない目にあわせて申し訳なく思う。アトルは道中ずっと心配していたものな


「助けてくれてありがとの」


 もし、アトルが切りかかってなかったらわしはこのカバンのようになっていたじゃろう。

 食いちぎられた革製のカバンを見ると震えが走る。


「べえっつに。俺、男だし?当然っていうか」


「かっこよかったぞ?」


 後ろ姿で顔は見えないが、耳が真っ赤になっているのだけは確認できた。

 機嫌はすっかり治ったようじゃ


 今後はこの辺りにあんな妖怪が出る事を肝に銘じておこう。


 こうして、なんとか無事家に帰りつくことができた。


 出るときは少しも愛着のない家だったが、今は帰って来られてよかったと思い眠りについた









 次の日の朝


 張り切ってお風呂の準備をした。


 といっても湯船らしき物はないので、水を桶ですくってかぶるくらいしかできないが。

 せめて温かい湯になるようにせっせとお鍋でお湯を沸かした。

 まず自分の体を洗った後、寝ているアトルを起こしに行く。


 アトルの垢はすごかった。なんと汚すぎて石鹸が泡立たないのだ。

 しかも汚れがこびりついて取れない。

 濡れても良いようにかぼちゃパンツにシミーズの姿になり思い切り気合を入れる。


 アトルは「自分でやれる!」と言い張っていたが、こんなの一人じゃ無理じゃ!


 有無を言わさずゴシゴシ洗ってやった。

 三、四回目ぐらいでやっと石鹸が泡立つようになって、お風呂が終了した。


 茶色くくすんでベトベトだったアトルの髪は明るい金髪になった。


 目は釣り目気味だがパッチリ、鼻筋もスッキリ、さすがに栄養不足で頬はコケていたが、これは将来ええ男になるぞ


 磨けば光るもんじゃの。


 次は散髪じゃ。


 ソファに突っ伏してブツブツいっていたアトルを呼び散髪を始める。

 整えるのは後にして、まず邪魔そうな長い前髪を切り、後ろも適当に短くする。


 この時点ですでに洋画に出てくる「いいとこのお坊ちゃん」的な雰囲気を醸し出していた


 これは切り甲斐がある

 同じ髪型でも元が良いとつい自分の腕のおかげに思えてくる。


 かっこよく仕上げてやろうと意気込んでいたのだが、途中で髪の根本に虱の卵を発見してしまう。


 坊主頭に変更。


 残念ながらバリカンはないのでハサミでばっさばっさ切ってやった。



「終わった」と声をかけると、「なんか頭が涼しくなった」といって自分の頭を触っている。


 もう一度お風呂場で髪の毛を流してくるようにいい、朝ごはんの準備を始める。


 今日は昨日と違い、卵もチーズも果物も牛乳もある。


 パンは発酵させる時間がなかったので準備ができなかったが、かわりにホットケーキを焼こう。




「なんじゃこりゃあ!!」




 早速卵を割っていると、アトルの叫声が響き渡った


「どうしたんじゃ!?」と駆けつけるとアトルが廊下の大鏡の前で涙目になっていた。


「ひ……ひどい」


 どうやら坊主にされたのがショックだったらしい。


「虱がおったからの。追い出すために坊主にするしかなかったんじゃ」

「シラミ?」


「髪の毛に住み着く小さな虫じゃ。血をすって育つから、今まで痒かったじゃろ」

「そうか……なら、仕方ないけど……だけど、これは……いや仕方ないけど……」


 あー坊は鏡の前で一人葛藤していた。


「大丈夫! 似合っておるぞ。男の子は坊主が一番!」


 励ますように背中を叩くと、そのままヨロヨロとお風呂場へ消えて行った。


 上がってきたあー坊は、すっかり立ち直っていた。


 ホットケーキとチーズ入りのオムレツ、ハムサラダとリンゴと牛乳という簡単なメニューだったがあー坊は嬉しそうに食べてくれた。


 やはり食べてくれる人がいると、作り甲斐がある。




 今日はやる事が沢山ある。


 まずあー坊が寝たシーツを洗う。虱がうつっていたら大変じゃ


 それと、パンが作れるように、酵母づくり。

 リンゴの皮でおそらく作れるだろう。蓋つきの瓶を熱湯消毒してリンゴの皮を中で腐らせていくのだ。

 米がない以上パンを作れるようにしておく事は絶対必要だ。


 基本の水汲み、薪割。


 それとカバンの中身を取りに行くこと。

 昨日もんすたに襲われてぶちまけた荷物だ。


 おそらくもういないと思うが、昨日の妖怪に出くわした時に追い払えるように家の中に使える武器がないか探そう。


 やっと、クマリンの人たちがなぜ武器を携帯していたか理解した。

 あれはお洒落でやっていたわけではなかったようだ


 時間があれば家の周りの探索。

 冷蔵庫がないため何か食べられる植物があれば非常に助かる。



 こうして新しい地での生活が始まった


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