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苦手な方はご注意ください。

さまざまな恋の短編集:BL版

【BL】「お前だけ」に甘えた結果の現在(いま)なのか

作者: 道乃歩

 定期的に冷凍庫を開けるクセがついてしまった。

 あいつは、俺から見たら異常なほどの果汁入りアイスクリームを愛する男で、規定の数がストックされていないと不機嫌になるのだ。


「やべ、残り三つじゃん」


 ひどいときは一日に十個も消費する。だから互いに確認を怠らず、五つ以下になっていたら補充しようというルールを設けていた。


「なに買うかな……オレンジ味と、グレープ味……」


 スマートフォンのメモアプリを立ち上げて、購入リストを作っていく。四つまで埋めたところで、指の動きを止めた。


「……俺の好きな味ばっか」


 気づけば俺も果汁アイスを好むようになっていた。柑橘類のあの爽やかな酸っぱさは、一度ハマると季節関係なく定期的に食べたくなる。

 ただ、あいつは果汁なら大体なんでも好きなクチだから、偏っていると不機嫌の原因となってしまう。


「一番食うんだし好みもうるさいんだから、いい加減自分だけで買うようにすればいいのに」


 メモを破棄して、ソファに身をだらしなく預ける。スマートフォンのカレンダーをぼんやり眺めながら、同棲を始めた五年前を思い出す。

 あの冷凍庫は、わざわざ単体で購入したものだった。まだ互いに大学生だったから、サイズと金額のバランスをこれでもかというくらい相談しあい考え抜いた末の、いわば思い出の品だった。ある意味受験や就職活動のときより真剣だったかもしれない。



『こんなん、ちゃんと付き合ってくれんのお前ぐらいだわ』


 スポーツ好きにふさわしい短く整えられた髪型のせいか、妙に爽やかな笑顔であいつがそう言っていたのを思い出す。


「そんなの、俺だって言いたかったさ。俺みたいなやつに付き合ってくれんの、お前だけだって」



 物心ついたときには同性しか好きになれない体質だった。大学に入って初めてあいつと出会って、友人として長く過ごすうちにそれ以上の感情を向けてしまっていた。

 自覚したら気持ちを押し殺しておけない困ったこの性格は、あいつに対しても例外なく発揮された。



『……え、お前が、オレ、を?』

『悪い。……気持ち悪いだろ、ほんとごめん。困らせるつもりはなかったんだけど』

『お、おい。待てよ』

『これで何回も失敗してんのにマジ学習能力ねえな俺。……今までありがとう。じゃあ』

『だから待てって!』



 そのとき腕を掴まれた力は、今でも昨日のことのように思い出せる。あんなふうに引き止められたことは一度もなかった。

 さらに、「今すぐ返事できないから少し時間がほしい」と返され、社交辞令かと思っていたら本当に返事をくれて、それが断りでなかったことにもっと驚いた。



『ちゃんと考えたんだよ。お前と離れたくないって思ってるのは友人だからなのか、そうじゃなかったら恋人とするようなことをしたいほどなのかって。

 それで……したいって、思った。多分気づいてなかっただけで、オレもお前が好きだったんだ』


 音は真面目な、あいつらしい返事だった。それが思わず泣いてしまうくらいに嬉しくて嬉しくて、夢なんじゃないかと疑ったくらいだった。

 抱きしめてぎこちないキスをくれたのに、次の日に同じ講義で再会するまでは夢と現実の区別が本当につかなかった。

 ――だから、無意識に甘えてしまっていたのかもしれない。



 この関係はずっと変わらない。

 なにがあっても、隣を見ればあいつの顔がいつもある。

 俺とあいつは同じ想いを抱き合っているんだ。



「……アイス、買いに行くか」


 テーブルの上に置きっぱなしになっていた長財布をポケットにねじ込んで、ゆらりと立ち上がる。あいつが特にうまいと繰り返していた商品を中心に揃えておこう。


 あいつが突然いなくなって、二度目の夏がやって来ようとしていた。

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