飛行訓練は象と共に
――翌日、ポイ・ザ・ラス地下、
「今日もはりきって、いってみようか。もっとこうソフトにちょっと浮くだけのイメージをしてみて」
そう言われても……。
「浮くって難しいよ」
同じところに留まろうとすると、バランスを崩してあっという間に上下にふられることになる。
「うーん。やっぱりホバリングは初心者には難しいかもね。じゃあ、飛び回る方をイメージしてみようか。スピードが出ていればそれなりにバランスもとれるだろうからね」
それなら、なんとかイメージしやすいかも。ふらつきながらも、そろそろと前に進む。ある程度スピードにのって飛ぶ分には問題ないみたい。シアンちゃんに背中を押してもらいながら、同じところをくるくると何周かしてみる。
「あ、なんかコツがつかめてきたかもしれない」
「うん。なかなか良くなってきたね。さすが僕のご主人様だね。
おっと、言い忘れてたけど、飛ぶのには結構な魔力を使うから気をつけてね。魔力が切れるとまっ逆さまだよ。ちなみに今の僕だと支えきれないからね。まあビート版みたいなものだと思って」
「えー、そんな危ない」
「まあ、君の魔力ならそうそう墜ちることはないと思うけどね。でも魔力ゲージには常に注意しておいてよ」
◇◇◇
「変身と武器化は出来たし、とりあえず飛べるようになったし、そろそろ第二段階いってみよう」
また、小鬼かエレメントのザコ敵かな。通常の小鬼なら物理攻撃でも倒せるけれど、エレメントは厄介だな。たぶんスマホのアプリと同じで属性攻撃しかヒットしないんだろう。
シアンちゃんがくるくると頭上を回ったかと思うと、いきなり、目の前に大人ほどのサイズがあるガチャガチャが降ってきた。コインを入れるところはなさそうだけど。
なんだかおどろおどろしい雰囲気をかもし出している。
「とりあえず回してみて」
ガチャんと音を立てて、カプセルが出てきた。中から出てきたのは、ヒトの形をした紙が1枚。ヒラヒラとまったかと思うと、それは鬼のようなものに姿を変えた。
『式神、レベル10、ヒトガタ、動作、反撃』
「ふむ。最初の練習用にはいいものをひいたね。攻撃しなければ、動かないし反撃もしてこないよ。攻撃しなければ、倒せないけどね」
「これって、みんな、こんなのが入っているの?」
「まあ、いろんなタイプがあるけどね飛ぶやつとか逃げるやつとか?まあ似たり寄ったりかな。ささ、倒してみてー」
「倒してみてって、簡単に言うけど……」
意を決して正面からダガーで攻撃してみる。鬼の左肩に入ったけれど、浅い。大振りだけど鬼も反撃してくる。武器を持っていないのは幸いだ。ダガーで受けようとしたけれど、とっさに危険を感じてかわした。
同時に鬼の腕が床を割った。衝撃波だけでもダメージが入りそうだ。
「ちょっと、これ強すぎじゃない?」
「そんなことないよ~。外に出たらこんなのがゴロゴロいるんだし。単に君のレベルが低いだけだよ」
「えー。モンスターはいないんじゃなかったの?」
「モンスターはいないけど、さまよえる霊魂はいるって言ってたよね。もっと魔法を使って攻撃しないと」
そっか。昨日もらった逆引き大辞典があるから、中身を見れば……
えっと、先ずは……、『for』ってのが繰り返しなのね。
『定められた回数だけ反復制御を行います』か、繰り返し回数はこの『n』っていう部分みたいだからとりあえず3回にしてみようかな。
『 for (i=0; i<3; i++){ ……』
これで、ナイフが3個でるはず。インストール『トリプル・ナイフ』。そして、ダガーをふると、魔法陣がくるくると回っている、いつもよりもゆっくりだ。10秒くらいたったあと、ナイフのオブジェクトが現れた。
「遅っ!」
「今の君の放出能力だと、3回の繰り返しでも時間がかかるね」
「えー。どうすればいいの?」
「レベルを上げれば……、かな」
「また、レベル?」
「だって、しょうがないじゃないか。君はついこの間ゲームを始めたばかりなんだからね。1000体くらい倒せば、楽勝だよ」
「1000体って……」
「大丈夫、君の魔力値なら今日中にでも倒せるよ」
簡単に言ってくれるなあ。1体だってまだ倒せていないというのに。
「えっと、1分で1体倒したとして、1000割る60で16時間って、無理よ無理!」
「慣れてくれば、数秒で倒せるようになるから」
「そんなぁ」
離れた位置からよく狙ってオブジェクトを鬼に向かってぶつける。これなら反撃もそんなに怖くはないかな。
◇◇◇
――6時間後、999体目、
インストール、『クアッド・ソード』
『金』属性のナイフは圧縮すればソードへと属性進化することも分かったし、各属性の特性もつかめてきた。
『火』属性は、火力重視の攻撃特化型。大砲とかと相性抜群。でも細かい制御はまだ難しい。
『土』属性は、防御重視。大岩をオブジェクト化すれば守りは硬い。でも攻撃は遅めなので使い勝手が難しい。
『水』属性は、攻防のバランスがいい。水のオブジェクトはバリアにもなるし、今自分が『水』属性だからか、攻撃の強化もしやすい。
『木』属性は、『雷』とか『風』もはいっているみたい。攻撃をイメージしやすくて使いやすい。でも基本の『木』に比べると時間がかかるみたい。
武器もダガーだけだと、常に接近戦になってしまうから、大剣とそれから、錫杖を追加してみた。錫杖は魔力の効率がいいみたいで他の武器に比べると、魔法陣が回っている時間が短いみたい。
いろいろと特性があるんだなあ。
「でえーい」
「おめでとう。これで999体撃破。レベルも20に上がったよ」
「さすがに、しんどいわ」
MPゲージがだいぶ減っているけれど。さすがに999体倒しただけあって、飛ぶのにも慣れたし、射撃もうまくなった。と思う。
「最後のガチャかな」
ガチャん。
『式神、レベル20、カラス天狗型』
「さて、最後の敵だよ」
素早く逃げる敵を、飛びながら追いかける。かなりスピードがてているし、外からみれば敵と自分がとんだところが光の線にみえてるだけかもしれない。
空中戦も、もう慣れた。敵の攻撃を左右にかわしながら、軸線に乗って、クアッド・ソードを叩き込む。
「撃墜完了だね。予想以上の成長スピードだよ。さて、そろそろ今回のゲームのルールを説明しないとね。でも、明日にしたほうがよさそうかな」
「そのほうが、いいかも」
そう言いながらよろめく。身体はそこまででもないけど、精神力が……。
普段の姿に戻り、Logoutボタンを押して、ログアウトする。
また、暗転して、椅子の上に戻った。
完全にこのゲームにはまってしまったみたい。でもアプリの方には戻れなそうだけどね。みんなに内緒なのがなんとも、もどかしいや。
◇◇◇
――翌日学校にて、
「わあ。一颯ちゃん、すごくうまくなってるね。どうしたの?」
「ちょっと、山にこもって修行をね」
実戦にくらべると、カーソルを動かすだけのアプリは簡単だ。バランスをとりながら飛ぶ苦労もない。
「修行って。あっ、レベルも上がってるんだね。いつの間に……」
「昨日ずっとやってたからね」
「ずっと、って。あそっか、あのゲージが減らないバグまだなおっていないんだ」
正確には、ゲージは減ってるけど総量が多すぎて減ってないように見えるだなんて、とても言えない。しかも実践で鍛えたなんて、もっと言えない。