第六話 守りたい人のためにできること(下)
アリア、リル、エミと共に城に戻ると、メイドが口を大きく開けて驚いていた。
「エミ様、良かった、また出会えて良かったです。本当に心配でしたよ、手紙も連絡も何もなくて、死んでいないか怖かったです」
「ごめん、手紙を出す金すらなくて。シルバーオークを倒せば今日の昼飯がやっと確保できるほどお金がなくてね」
「なんで私に連絡してくれなかったのですか!餓死しますよ!」
「危なかったよ、空腹で死ぬところだったよ。でも2年前にここを去って、今度会うときはアリアたちにかっこいい姿でここに戻ろうと思って内緒にしていたんだ。だから連絡しなかった。けどこんな情けない姿で会ってしまうとは、申し訳ない」
「エミ様は十分かっこいいです!」
「ありがとう、クラーラ。何も伝えずにごめんな」
エミは軽く礼をして、感情を抑えきれず泣いているクラーラに何度も謝っていた。
「アリアとリルを保護して頂いて、アリアを立派な狩人に、リルを魔法学校に通わせて、そして私に職を与えていただいて、エミ様には感謝しきれません。出会った3年前からエミ様はかっこいいです!エミ様のようなかっこいい人はいません!」
「そこまで言わてくてもいいよ、私はただの貧乏ハンターだよ」
「違うよ!」
何かを伝えたい気持ちで手を何度も握っていたアリアが2人の会話に大声で割り込んだ。アリアの顔には涙が流れていた。
「エミさんがいなければ私たちは死んでいた。エミさんは私たちの救世主だよ!本当にエミさんはかっこいいよ!」
「大袈裟だよ、わたしは狩りの基本を教えただけのただのお姉さんだよ」
「私たちの人生を一変させてくれたんだよ!真っ暗な世界から光が見える世界につれてってくれただよ!もう何も恐れなくていい世界を導いてくれたエミさんには感謝しきれないよ!」
「そうだったんだ、ありがとう、アリア」
「そうですよ、エミさん!私たちはエミさんが大好きです!だからこれからは必ず連絡せずに去らないでくださいね!」
「分かった、それは本当にすまない」
クラーラが思っていることをすべて吐き出し終わると、笑みを取り戻した。
「エミさん、お腹空きましたよね。今からご飯を作ってくるのでしばらく待っていてくださいね!」
クラーラは部屋から出ると愉快に鼻歌を歌いながら料理の支度に向かった。
しかし、いつも変なタイミングで邪魔者が来た。
「エルディアさん、支援おねがいします!城内に山賊が侵入してきました!」
いつも俺を指名してくる兵士が大声をあげて叫んでいた。兵士は額に大粒の汗を流していた。
「俺だけ行く、アリア、リルはここにいて。エミさん、2人をお願いします」
「いや、私も行く。山賊にはお世話になったからな。私の貴重な食料を奪った奴らを許さない」
食料の恨みが大きいのか、エミは真剣な表情になった。
「エルディア、30分で倒すぞ!さっさと倒して飯を食べたい」
「もちろんです、俺も空腹ですから」
2人はアリアとリルに見送られ、部屋を飛び出した。部屋を出た瞬間、既に戦闘が始まっていた。山賊のリーダーが声を荒げて斧を振り回していた。
「どこにいるんだ!アリアとリルはどこだ!」
きっと昨日出会ってしまった奴隷商人から依頼された山賊だろう。山賊のリーダーは部下20人に指示しながら、兵士を斧で叩き潰しながらいくつもの扉を破壊して2人を探していた。赤いカーペットが敷かれている廊下には数十人の兵士が横たわっていた。エミは静かに愚痴を漏らし、短槍を両手で構えた。
「今度は私達が国の奴隷になるかもな」
俺とエミは山賊の手下と対峙した。山賊は自身の身長よりも大きい斧で叩き潰す戦法だ。威力はでかいが、攻撃後すぐに防御することはできない。俺は右手で長剣、左手で長槍を構え、手下の攻撃を誘った。俺が挑発するように隙をわざと見せると、手下が大きく斧を振り下ろした。その瞬間、俺は手下の腕を長槍で切り裂き、長剣で腹を貫いた。エミは武器が軽いため、手下よりも素早く自由に動ける。その為、エミは手下が斧を持ち上げて攻撃を仕掛けようした瞬間に槍で足を切り裂き、背後に回って背中を刺した。
俺とエミが山賊を倒している際中、エミが話しかけてきた。
「あなたは残り15分しかこの世界にいられない。戦いながら聞いてほしいことがある」
エミは冷静に数人の手下を効率的に処理しながら、俺に静かに語った。
「あなたはこの世界に8時間しか生存できない。それ以外の時間は魂が肉体にないため、16時間ずっとベッドで寝ているだけだ。それが魂のルール。エルディアの魂の持ち主、この貴重な時間を私にくれないか?」
「どういう意味ですか?何か狩りに行くのですか?俺はどこでもついていきますよ」
俺は長剣と槍で数人の手下の手足を切り裂きながら質問した。
「奴隷商売を解体させる。奴隷商人代表ゼルガンドを私の手で処刑する」
「奴がアリアとリルを奴隷にさせた犯人ですか?」
「ええ、そして私の親友クラーラも奪った悪人だ。奴を倒すために協力してほしい。2人で倒す」
「2人だけですか?兵士も何人か必要じゃないですか!巨大組織と戦うのですから」
「この現実を見て兵士に任せられると思うか?山賊に大勢で戦っても勝てない兵士が必要か?」
「そうですね、私も全力で倒します。もう3人に恐怖を与えたくないですから」
「その言葉を待っていた。ありがとう。お礼に1つだけ、この世界の真実を教えてあげる」
彼女が残りの手下を槍で腹を突き刺し、顔面に蹴りを入れると、怒りがこみ上げた声で語り始めた。
「この国は腐敗している。貴族のためだけに作られた国と言ってもおかしくない、貴族以外は生きていけない国だ。貴族には兵士を何十人も投入して貴族の命を守るが、それ以外の人間には一切手助けはしない。山賊に襲われても、強盗に襲われても、奴隷商人に襲われても、何もしてくれない。そのおかげで毎年私の友達が何人も消えていく。この世界から何人もの魂が消えた。もうこの世界は嫌なんだ!」
怒りを吐き出した彼女は山賊のリーダーの斧をはたき落としながら叫んでいた。
「アリアとリルは人気のないジャングルで倒れていた。クラーラは私達の狩人の集会所に逃げ込んで助けを求めた。エルディアは魂が抜けた状態で山に放置されていた。他にも数多くの友達が悲惨な目にあっていた、しかし国は何もしてくれない、残酷な国なんだ!」
エミの辛すぎる過去を聞いて、俺は怒りに任せて、怯えている山賊のリーダーの腹を槍と長剣で貫いた。
だが山賊を倒したあと、予想外の敵が現れた。王の直属の騎士団だった。騎士団のリーダーは冷酷に語った。
「貴様らは王を侮辱したな。王を侮辱するものは逃さない。排除する」
毎回俺を指名してくる兵士は初めから俺に頼るのではなくて騎士団に頼めよと思いながら、俺は長剣を構えた。
「エミさん、俺が奴らを倒します。残り5分で倒します。アリアとリルの無事を確認してくだい」
「分かったわ、頼んだわよ」
彼女がアリアたちがいる部屋に向かうと、俺は魂に訪ねた。
「お前らの魂をすべてくれ、圧倒的な力をくれ!」
「使え、君にすべてを預ける」
騎士団の鎧は兵士の鎧よりも2倍以上分厚い。その為、剣で切り裂いても騎士にはダメージは与えられない、いや剣が折れるだろう。
俺は山賊が残してくれた斧を持ち上げた。心の声の主から最大出力の力を頂いているためか、山賊が両手で構えていた巨大な斧を右手で持てた。左手には長剣を構えた。騎士のリーダーが大剣を振りかざすと、俺は長剣で防御し、斧で力一杯騎士の鎧を叩き潰した。鎧が簡単に内臓まで押しつぶすほどの威力と轟音を放つと、他の騎士はリーダーがやられている光景を見ながら剣を抜かず
「人殺し、やめろ!」
と悲鳴をあげることしかできなかった。俺はこれをチャンスと思い、騎士団を脅すことを考えた。鎧が大きく凹んでいる騎士団のリーダーの頭に斧を当てた。そして長剣を手放し、斧を両手で構えた。本当は倫理的にまずいが、騎士団を黙らせるにはこの方法しかない。
「騎士団の皆さん、重要な取引をしよう。俺たちの目の前に今後現れないか、それとも俺がここで騎士団全員を抹殺するか?俺は本気で騎士団を排除するつもりだ!」
俺は斧を振り上げた。すると騎士団は膝をついて大声で叫んだ。
「今後貴方様に決して現れません!私たちは武器を捨てます、貴方様と戦いません!誓いますから、デグロード様から離れてください!」
目が真っ赤に充血しているほど恐れている騎士団は所持している武器を捨て、騎士団のリーダーを見放して立ち上がり、何度も転びながら逃げ去った。廊下には宝石が装飾された大剣や短剣が散らばっていた。騎士団は
「助けて!」
と叫びながらデグロードから離れるだけだった。
しかし1人だけ弱音を吐かなかった騎士がいた。デグロードである。彼は過呼吸になりながらも必死に低い声で俺に伝えた。
「この国はもう時期終わる。俺たち騎士団は女王様から報酬を頂くために生きてきた。女王様の為なら何でもやった、汚い仕事も莫大な報酬のために戦った。金貨や美味い酒、権力を得るためだけに働いた。こんな世界にしたのは俺の責任だ。俺がこの世界の原因だ。俺を潰せ、女王様を脅すために、そして新しい国を作る君たちの為に!」
俺は日本に戻っていた。枕の下には10万円が置かれていた。10万円の下にはエレアノールの手紙があった。
「エレアノールだ。アリア達は無事だ、心配しなくていい。デグロードは騎士団からアリア達の護衛兵に自ら志願し、降格処分を受けた。女王様は責任を取り、本日退位した。エミとエルディアは明日、本日新たに就任した女王様から『騎士団団長』に任命される。アリア、リルは騎士団に自ら志願し、入団した。新たに結成された騎士団はエミとエルディアが主導で行動する。女王様は騎士団の評価のみ権限が与えられ、女王様による騎士団の私用目的の運用は禁止された。ただし内乱や隣国に襲撃された場合は例外として使用が認められる。メイドのクラーラはアリア達のメイドをを自ら志願し、続投した。以上だ」