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夢の世界で魂を求めて -ソウルメイト-  作者: nusuto
第一章 魂の管理者編
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第四話 魂の行方

 目覚めたら枕の下に3万円が置かれていたことに驚いた。俺は何度も3枚の1万円札が偽札ではないか何度も確認した。財布に入っている1万円札と比較しても、やっぱり本物である。


 それでも疑心暗鬼な俺は近くのコンビニでガムを買うついでに枕の下に置かれていた1万円札を店員に出してみた。これが偽札だったら俺の人生は終わってしまうが、エレアノールからもらった報酬は本当に日本で使用できるお金なのか検証したかった。店員は1万円札を受け取ると何も不審に思わずに会計を行った。もちろんお釣りももらえたし、偽札ではなかった。俺はほっとしながらガムを受け取りながら、なぜ俺に3万円もの大金を渡すのだろうか疑問が湧いてきた。何かの試練が待ち構えているのだろうか。


 今日は昨日よりも授業に集中できたし、指名されても的外れな回答はしなかった。隣の席の安藤誠二も

「今日は普通なんだな。いつもの東條でよかったよ」

と安堵している表情で褒めてくれた。もちろん他の生徒や教師にも昨日みたいに迷惑をかけることなく学校生活を送ることができた。


 放課後は部室で有栖先輩と待ち合わせをしている。ファンタジー部は毎週水曜日しか行わないが、有栖先輩は俺のことを心配してくれて水曜日以外も夢の世界について相談する機会を設けてくれた。部室には有栖先輩が本を読みながら待っていてくれた。

「有栖先輩、遅くなりました」

「東條君、来てくれてありがとう。昨日も夢を見ることができた」

「ええ、色々と驚いた展開が待っていましたが」

俺は席に着くと、有栖先輩に異世界の出来事を語った。夢の管理者であるエレアノール、魂の依頼者がアリアであること、そして3万円を手に入れたこと、すべてを有栖先輩に話した。もちろん彼女も急展開に追いつけず目を丸くしていた。異世界のメイドより小さい胸を机に押し付けながら彼女は身を乗り出した。

「えー、予想できるわけないよ!従者のアリアが本当の依頼者だったの!」

「そうなんですよ、管理者の話が正しければですが」

「話が正しいとすると、本当のアリアの狙いって何だろうね?死んだエルディアに『楽しい世界を見せたい』ってどういう意味なんだろう?エルディアの生活は悲惨すぎたから、肉体だけでいいから楽しい思いをさせてあげたいという感じかな?」

「ええ、アリアとエルディアの関係性が分からないと予想はできませんが、たぶん生前よりもより良い生活をさせてあげたいと思います」

「これも東條君の宿題ね。管理者からアリアとメイド、エルディアの関係性に関する話題は封じられているけど、自分自身から語り始めたら必ず聞き漏らさないでね」

「もちろんです。この問題の真相を解決します」

「よろしくね、東條君。今日も体験記を語ってくれてありがとう」

有栖先輩は俺が語った内容を記載したノートを閉じ、手を振りながら部室から出て行った。いつアリア自身が語ってくれるか分からないが、そのチャンスを絶対に逃さない、俺は強く決意して部室の鍵を閉めて学校から去った。


 そして俺は今日も夢の世界にダイブする。いつもの布団に潜り込むと、いつもと同じ感覚が襲ってきた。いつもと同じ暗闇の空間、色や音が一切ない空間に慣れてきたかもしれない。孤独な空間を自分の感覚で1時間程度過ごしたが、突如真っ白な空間が現れた。


 ここはいつもの出発時の部屋だ。そしていつものメイドの声が聞こえる。

「こんばんは東條様、今日もよろしくお願いしますね」

「今日はすぐ出発できる?早く外に出たいんだ」

「ええ、もちろん。今日はアリアさんもリルさんも待っていますよ」

アリアとリルが入室した。アリアは太陽のように眩しい笑顔を放ち、リルは恥ずかしそうにモジモジしながら部屋に入った。ちなみに2人はメイドよりも胸が小さいが、有栖先輩よりアリアは胸が大きく、リルは小さい。身長はアリアが160センチメートル程度で165センチメートル程度のメイドと有栖先輩より小さい、リルは155センチメートル程度だ。メイドから後から聞いた話だが、アリアは16歳、リルは14歳、メイドは秘密と言われたが見た目から20歳程度だと思う。

 アリアは俺に近づき、喜んだ表情をしながら冒険の出発を促した。

「エルディア、早く行こうよ。今日こそ獣が城に来ないうちに行くわよ」

「もちろん、準備してくるから待ってくれ。今日こそ冒険に出発しようぜ」

「ええ、楽しみわね。ね、リル!」

「うん、楽しみ。早く行きたい」

一旦アリアとリルは部屋から出てもらって、冒険用の服に着替えた。昨日の戦闘で大量の土が服に付着してしまったが、メイドが新品のように美しく服を洗濯してくれた。肌触りも昨日と全く変わらない完璧な仕上がりだった。武具倉庫から長剣と短槍を取り出して、武器を背負った。長剣も獣の血が全く付着していない状態だったので、昨日メイドが血を洗ってくれたに違いない。メイドに感謝を述べ、アリアとリルと一緒に冒険に出発した。


 今日はアリアの希望で、メイドに御馳走を振舞いたいため城から2キロメートル離れた草原で獣狩りを行う予定だ。俺らは草原に向かう道中、城下町を楽しんでいた。

「武器屋、防具屋、宝石店、薬屋、なんでも揃っているな」

「そう、ここに来れば何でも必要なものが手に入るのよ。私たちはここで魔術書やお守りを買ったり、学校の帰り道ではよくこのお店でおやつを食べたりしたよね、ねえ、リル」

「うん、ふわふわな触感がくせになったよね」

アリアとリルが獣狩りや魔法を勉強していた学生時代を思い出しながら、いつも帰り道に通っていた店を指した。『おやつのエミリー』という屋台を出店しており、30歳程度のお姉さんが一口サイズのドーナツを高温の油で数十個揚げていた。屋台には学生が殺到しており、2人の手伝いが急いで販売していた。俺たちは獣狩りを急いでいないので最後尾に並んだ。

「いつもこの店に来ると安心したよね。獣狩りで失敗して落ち込んだ時も、このドーナツを食べれば嫌なことも忘れるくらい幸福感があるんだよね」

「魔法のテストで最下位になった時もこのドーナツで元気をもらえた。これのおかげで魔法を続けられて魔法学校を卒業できた」

「みんなこのドーナツが好きなんだね」

「そうよ、このドーナツ屋は私たちの正義の味方よ。私たちを元気づけてくれる薬みたいなものかな」

「うん、これを超える薬はないよね」

「元気がないときは必ずここに来る!」

「『おやつのエミリー』は力の源!」

「面白いな、このドーナツだけで悩みを解決するなんて素晴らしいな」

 ドーナツの話で盛り上がり、俺たちに順番が回ってきたが、また来訪者が現れた。いつもそうだ、肝心な時に邪魔者が襲ってくる、どうなっているんだこの国は!

「エルディア、お前生きていたのか!どうやって逃げた!なぜ俺の前から姿を消した!」

175センチメートル程度の黒いスーツ姿の男性が脅すように俺の背後から叫んだ。後ろを振り向くと、エメラルドやダイヤモンドなどのネックレスを大量に首にぶら下げ、右手には金色に輝く短剣を所持していた。髭は濃く、赤色の短髪、顔にはいくつか傷跡が残っていた。ネクタイも金色、ドクロのピアスも金色、金色が眩しい派手な男だ。

「おい、エルディア!てめぇ、すぐに戻って仕事を手伝え!奴隷にやらせる丁度いいお仕事がまっているからさぁ!」

「奴隷?仕事?何言ってんだ?俺は奴隷でもないし、お前に仕事を頼まれたつもりはない!」

「何言っているんだ、俺はお前の雇い主だぞ!いや、もしかしたらお前、魂の管理者と契約しただろ!そうか、てめえの後ろにいるのはアリアとリルか!お前らの仕業か!3人まとめて俺のもとへ戻れ!この裏切者が!」

こんな話あるわけない、人違いだよなと思いアリアとリルを見つめると、2人とも体をビクビクと震わせながら大粒の涙を流していた。彼女らは声が出ない状況で、呼吸をするのが精一杯だった。2人は怯えながら手を必死に離さないように繋いでいた。奴の話は本当かもしれない、しかし俺は奴を潰す。

「戻らねえよ、今からお前を潰す!絶対に逃がさない!」

「奴隷が生意気言いやがって!後悔させてやる、働かせてやる!アリア、リル、お前らもだ!」

奴の目は大きく見開いて、殺気を感じるような表情をしていた。奴を潰さない限り、アリアとリルの未来はない、俺は長剣を抜くと謎の男の声が心に響いた。しかし彼も怯えているような声だった。

「助けてくれ、奴を倒してくれ、お願いだ」

「もちろん倒す。アリアとリルのために!」

「頼む、君に俺たち全ての力を君に託したい。だから必ず勝ってくれ!」

「俺たち?どういう意味だ?」

「それはいいから潰してくれ!早く!」

謎の男の必死の声、そして『俺たち』という意味深なワード。疑問がさらに膨れ上がったが、今はそんな状況じゃない、奴を潰す。

 奴は叫び声をあげながら剣を振りかざし、俺の胸を目がけて攻撃してきた。俺は右手で構えている長剣で防御し、奴の攻撃を受け止めた。しかしここで『俺たち』の力が発揮された。金色の剣が虹色に輝く長剣に触れると、金色の剣が粉砕した。まるでシュレッダーで紙を破棄するように、金色の破片が城下町に散らばった。これが本当の力なのか?だが安心している場合ではない、奴がどんな攻撃をしてくるか分からない。俺は槍を左手に構えて臨戦態勢に入った。

 奴は恐怖を感じながらも短銃を取り出し、俺の顔を目がけて構えた。奴の目から涙があふれているが、気力でごまかし震えながら脅した。

「撃つぞ、剣と槍を置け!命は見逃してやる!」

「置かない、お前を仕留めるまで置かない!」

俺は初日に獣を狩った日を思い出した。槍を投げて獣の眼を潰して退治することができた。あの時を思い出せ。

「俺の心に響いてくる声の主、全力で戦うから覚悟しとけ」

「ああ、頼んだ!奴を殺せ!」

俺は左手で持っている槍を奴に向かって全力で投げた。左腕が千切れそうになるほどの痛みが襲ってきたが、痛みを叫ぶことによって誤魔化して初日よりも力強く槍を放った。その瞬間、奴も引き金を引き弾丸を発射した。虹色に輝く槍は鉄の塊を粉砕し、見事奴の腹を貫通させた。奴は槍が腹に刺さりながら仰向けに倒れ、城下町に響き渡るように叫んだ。

「アリアの奴隷に成り下がったか、エルディア!見損なったぞ、アリア!結局お前も俺と同じ運命ではないか!てめえ、一生アリアの奴隷でいいのか、やめておいたほうがいいぞ!あの小娘は......」

このセリフにマグマのように怒りを覚えた俺は奴に近づき、顔面を思いっきり踏んづけた。

「アリアの笑顔を奪った、てめえに言われたくない!」


 その後城下町は大喝采が響いた。後でドーナツ屋のお姉さんに聞いたところ、奴は有名な奴隷商人で子どもを無理矢理過酷な仕事をさせることで有名だった。奴の金色の剣は違法な魔法を使用する魔術師から購入したもので、この剣に触れればどんな敵も瀕死にさせるほど危険な剣だったらしい。奴がいる限り城下町は安心して暮らせないほど、奴の影響力は高かった。


 奴の身柄を兵士に任せた後、アリアとリルに近づいた。アリアとリルは何も悪いことをしていないのに、エルディアに何度も謝っていた。

「ごめんなさい、私のせいでこんなことになってしまって、私がエルディアを奴隷にしてしまって。私は実は......」

「もう言わなくていい、今日は帰るぞ。お姉さん、ドーナツ3個くれ。揚げたてで頼む!」

俺らは何も言わず、静かにドーナツを食べながら城へ戻った。ドーナツの味は日本と同じだが、日本で食べるドーナツよりなぜか心が温かく感じた。


 自室に戻るとメイドではなく、ベッドの上で座りながら真剣な目でエレアノールが待っていた。

「お帰りなさい、東條翔吾君。君には私からも感謝しないといけないようだ。アリアとリルを救ってくれてありがとう。私が君の魂を借用して正しかったと思っている。今日はお疲れ様、いい夢が見られますように」

エレアノールは優しく俺に感謝を述べると、ベッドから立ち上がり部屋を出ようとした。俺が彼女に質問しようとすると、手を挙げて静止した。

「残念だけど、この世界の真相については極秘情報。君にお金以外のお礼もしたいが、情報は差し上げられない。これは魂の管理者のルールだ」

彼女が静かに去ると、数分後メイドが入室した。

「東條様、お怪我はないですか」

「大丈夫だ、どこも痛めてない」

「良かったですわ、本当に無事でよかった」

メイドは胸に手を当てながら安堵を浮かべていた。メイドはベッドの支度をし、俺はメイドに挨拶をしてから寝た。今日のベッドはいつもより柔らかかった。


 日本時間7時15分、少し起床時間が遅れた。枕の下を確認すると5万円と1枚のメモが置かれていた。

「エレアノールだ。アリアが東條翔吾君にどうしても伝えたいと依頼されたので記載する。『魂の持ち主様、エルディアのために一所懸命に戦ってくれてありがとう。アリアより』」

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