表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の世界で魂を求めて -ソウルメイト-  作者: nusuto
第一章 魂の管理者編
4/31

第三話 魂の叫び声

 あの感覚と同じだ、ほこりを掃除機で吸い込むように俺の体を何かが大穴に連れて行こうとしている。これが魂を借りるという儀式なのだろうか。俺は体を動かせず、一切抵抗できずに暗闇の中へ沈んでいった。深く、光や影がない何もない世界だった。ただ時間の経過とともに俺は何かの力によって下に引きずられた。


 体感では何時間か漆黒の世界を彷徨っていたが、急に眼が潰れるような眩しい光が襲ってきた。

「こんばんは、東條様。今日も東條様の魂をお借りに参りました。どうかよろしくお願いしますね」

女性の声を聴いて、俺はここがどこであるか理解した。この声はメイドの声である、ここはエルディアの肉体がベッドで寝ている部屋だ。目は徐々に光に慣れ始め、俺の顔に巨乳を近づけているメイドがほほ笑んでいた。俺はベッドから起床し、ベッドの真ん中に座った。

「本日も急にお呼びして申し訳ございません。」

「いや大丈夫だ。それより今日は何をするんだ?リルとアリアの初めての冒険の付き添いか?俺もこの世界で早く冒険してみたいよ」

「残念ながらリルとアリアの冒険は後程お願いします。その前に東條様にどうしても会いたいというお客様がいらっしゃいますので、その方との面談から先に進めてもよろしいでしょうか?」

「いいけど誰が来ているんだ?ギルドや政府の関係者か?生前のエルディアの仲間か?」

「いえ、全くギルドや政府の関係者、エルディアの仲間でもありません。東條様をお助けするために参ったと伺っております」

俺を助けるために出向いてきた?いったい誰なんだ?全く見当がつかない。

「分からないけど、呼んできて」

「承知いたしました、では失礼します」

メイドは深くお辞儀し、部屋から出た。


 数分後、何回かノックが聞こえた。

「どうぞ」

「初めまして、エレアノールよ」

「初めまして......」

明るいブロンドヘアーの女性が部屋に入室した。金色のボタンが輝く青色のドレスコート、透明感が美しいハイヒール、煌びやかに輝く三日月のネックレス。細いくびれが特徴的な小柄な女性でメイドよりも胸が大きい、黄色の目もライトのように輝き、腰まで長い髪が発光しているみたいに綺麗なブロンドヘアーだった。

彼女は俺が寝ているベッドまで近づき、俺の隣に静かに座った。

「私は魂の管理者、エレアノール。私があなたをこの世界、アーネストリス帝国に勝手に引きずりだしてごめんなさい。色々と仕事が溜まって、東條さんの魂をこの世界に導いた初日に行けなくて」

彼女は恋する乙女みたいな甘い声で俺に話しかけていた。しかも彼女は俺の膝に手を置きながら顔を近づけて話した、初対面なのに馴れ馴れしすぎる管理者だ。

「あなたは俺を常に管理しているのですか」

「ええ、別世界の魂がこの世界で紛争や略奪、支配などをしないように常に管理しているわ。死んだ人間に別人の魂や遠く離れた世界の魂を肉体に埋め込んで、死んだ人間の代わりに生きる技術が100年前に生まれたのだけど、一般人の魂を魔王や能力者の肉体と結び付けて戦争が起きてしまったから私たちが邪悪な魂と結び付けないように管理しているわ。あなたがエルディアの肉体で戦争や内乱などを犯さないかチェックさせていただくよ」

アーネストリス帝国には既に魂を肉体に結び付ける技術があり、その技術を用いてメイドが俺をエルディアの肉体に埋め込んだ、エルディアの人生のために。

「そして東條さんはアリアさんの願いによって、エルディアの肉体に魂を埋め込んだ。本当は本人の魂の依頼が必要なんだけど、私以外の管理者をメイドと共に無理矢理納得させてエルディアに結び付けさせたわ」

「え、エルディアの魂の依頼じゃないのですか!どうなっているのですか?」

俺は倫理的にまずいが、予想外すぎる回答をくらい彼女のドレスコートを掴んでしまった。彼女は俺がドレスコートを掴んでも一切戸惑いもせず、淡々と語った。

「ええ、アリアとメイドの依頼で間違いないですよ。メイドから話を聞いているわよね」

「話と全然違う!メイドはエルディアの依頼だと聞きました!」

「本当!メイドは嘘をつくのが得意ね!」

彼女は大きく目を丸くしながら驚愕した。俺のほうが彼女よりも驚いているが......。彼女は声を小さくして語り始めた。

「アリアさんとメイドのプライドのために絶対に2人に聞かないでね。アリアさんの依頼の理由だけ語っておくわ。『エルディアさんに世界を楽しんでほしいから、純粋な魂を借りたい』と依頼書に記載していたわ。これ以上の内容は極秘秘密。この内容を他者に質問したら、東條君の魂の契約を終わらせる」

「契約を終わらせるって何ですか?」

「この世界から追放する、この世界の記憶を抹消させる。管理者には邪悪な魂を残さず潰す義務がある」

彼女から笑みが消え、真剣な表情で俺を見つめて話した。彼女の手も俺の膝から離して、彼女の膝の上に両手を律儀に置いていた。

「私からの警告だ。アリアさんとメイドの秘密に関する質問をしたら、君を即刻追放する。そして君がアリアさんから笑顔を消したら、君を追放しないが絶対に許さない。そのときは他の管理者から批判を食らっても絶対に君を処罰させる」

「分かりました。アリアさんを楽しませるようにこの世界で生きます」

「頼んだわ、東條翔吾さん」

アリアから笑顔を消したら俺を潰す。アリアとエルディアにはどんな関係があったのだろう、しかし彼女からアリアにエルディアについての質問をすることは許可されていないので真相は依然分からない。

 彼女は再び俺の膝の上に手を置いて笑顔で話した。

「東條さんの魂を就寝中だけ借りているので東條さんには報酬をプレゼント!1日につきエルディアが活躍した分、日本の東條君の枕の下に何円か置いておくよ!だからアリアさんのためにも東條君のお金のためにもエルディアの人生を頑張ってね!」

彼女は報酬について話し終えるとすぐに手を振りながら出て行った。最低何円なのか、もちろん日本円で置いてくれるのか、報酬について質問しようとしたが彼女は俺が質問をする前に立ち上がり去ってしまった。


 昨日の有栖先輩の予想はすべて大外れだ。いや俺も予想できなかった。アリアがカギを握っていたなんて誰も予想できない、昨日の話を聞いた部員は絶対アリアが依頼したと予想できる人はいないはずだ。

 しかも大きな謎を残して管理者は去ってしまった。アリアは何者なのか?アリアとエルディアに何の関係があるのか?メイドにとってアリアは何者なのか?そして他に純粋な魂があるはずなのに、管理者は俺を選んだのか?この世界、アーネストリス帝国に来てから疑問しか湧いてこない。一体俺は何をするためにここに来たんだ?


 エレアノールが去ってから数分後にノックが響いた。またお客様か?今度は何の管理者だ?

「どうぞ」

「東條様、お疲れ様です。これからアリア様とリル様と冒険に出発する予定ですが気分は大丈夫でしょうか?」

メイドは嬉しそうな顔をしながら話しかけた。本当はエレアノールの話が気になって気分が悪いが、本音は言えない。

「ああ大丈夫だ。着替えはあるか?」

「こちらです!アーネストリス帝国の凄腕の職人に作成して頂いた服なんですよ!着てみてください、きっと似合いますよ」

「こんなに高級な服を頂いてもいいのか!」

メイドから頂いた服は獣の本革でできた高級な服だった。日本ではポリエステルの服しか着ないので、俺にとって革製品は高級に感じる。ダークブラウンの上着や漆黒のボトムは日本の服では出せない光沢を放っていた。まるで宝石みたいに美しい輝きだった。でもこれからの冒険でこの服を汚すことを考えるともったいないと感じてしまう......。

 冒険用の服に着替えると、再びノックが聞こえた。

「こんばんは、エルディア!今日こそ冒険しようね」

「エルディアさん、よろしくお願いします」

「よろしく、アリア、リル!」

再び2人の姿が見られてほっとした。しかし10代前半に見えるアリアが魂の借用を依頼するなんてなぜだ?しかしアリアに心配な顔を見せたくないので一旦はこの疑問を忘れておくことにした。


 しかし冒険の出発の前にまた邪魔者がやってきた。俺に冒険をさせてくれないのか、この世界の獣は!また部屋にノックが聞こえた、もちろん焦っている兵士だ。

「城に獣が侵入しました!エルディア様、援護をお願いします!」

昨日の獣退治の活躍を見た兵士は俺を指名してきた。俺はまた武具倉庫から武器を探そうとすると、昨日壊した槍と剣が綺麗にしまってあった。武器を補充してくれたメイドに申し訳ない。

「あの、昨日槍と剣壊してごめんなさい」

「いいですわよ、武器は何度壊しても、また買えばいいので大丈夫ですよ。どんどん使ってください」

「では遠慮なく使わせてもらいます!」

俺はメイドに軽く礼をしてから槍と長剣を取り出した。もちろん槍は昨日と同じものである。長剣は背中に背負い、槍はすぐに使えるように右手で持つ。

 ドアを開け、汗が雨のように溢れている兵士に庭を案内してもらうと、周囲には昨日倒した同じタイプの獣が3体集まっていた。しかも昨日倒した獣より身長が2メートルも大きい。昨日の獣は子で、今日は親の獣の登場か。俺は気合を入れて槍を構えた。アリアは弓を構え、リルは魔導書を持ってきた。

「エルディアさん、私も戦います」

「こんな大きい獣とは戦ったことないけど、私も戦うわ」

「アリア、リル、ありがとう。でも俺より前に出るなよ。俺が潰す」

俺は獣に向かって走り始めた。その瞬間、昨日と同じ声の謎の男が俺の魂に話しかけてきた。

「君は何をする気だ?」

「獣の目に向かって登るのみ!獣の顔まで登ったら一気に槍で目を刺す!」

「だが相手は3体だぞ!1体なら対処できるが、今回は3対1だぞ。分かっているよな!」

「だから力を貸せ!いや、勝手に使わせてもらうぜ!」

「いいだろう、存分に使え!」

後方からはアリアやリルが矢や火の玉で攻撃してくれている。そのため獣は攻撃が目に当たらないように回避しながら攻撃のチャンスを伺っている。このチャンスは俺にもある!

 1体目の獣の右足に右手で虹色に輝く槍を刺し、獣の動きが止まった瞬間に槍を引き抜いてジャンプする。今度は獣の腹、胸、首に飛び移り、額に槍を刺した。このまま眼を刺せば俺の勝ちだが、獣は左手を俺に向かって近づけてきた。獣自身の顔を叩いて、その衝撃で俺を飛ばすか叩き潰すつもりだ。だが俺にも秘策はある、左手で背中に背負った長剣を抜刀し、全力で獣の左腕を斬り裂いた。強引すぎる方法だが、この策しか考えられなかった。左腕を斬り裂いても獣にはノーダメージだが、隙ができた。すぐに鼻の近くまで移動し、慎重に素早く両眼を刺した。獣は倒れそうになり、すぐに2体目の獣の顔に向かって助走をつけて飛んで移動した。しかし3体目の獣が同じ作戦で眼を潰すだろうと考えたのだろうか、2体目の獣の顔に向かって右手を近づけた。これが当たれば俺の負けだ。

 しかしアリアとリルが3体目を倒した。リルは時速140キロメートルの火の玉を左眼に何度も当て、8回目で左眼を貫いた。アリアは正確に狙いを定めて1発で右目を貫いた。運よく3体目は自分が狙われていないと思い込み回避行動をしなかったので、アリアとリルの攻撃が当たった。

 俺は心の中で感謝しつつ、長剣で2体目の腕を斬り裂き、槍で両眼を刺した。これで3体を退治することに成功した。


 だが俺はタイムアップのようだ。2体目の獣から降り庭に立った瞬間、昨日と同じ強烈な眠気に襲われた。もしかすると日本の俺が起きる時間にエルディアに眠気が発生するかもしれない。

「アリア、リル、ありがとう。君たちのおかげで獣を退治できた。今日は疲れたね。冒険はまた今度行こうね」

「うん、いつでもいいわよ。獣が来ないときに行こうね」

「はい、お願いします」

そう言い残し、俺は庭で寝てしまった。そのあとは分からないが、きっとメイドがベッドまで運んでくれたのだろう。


 日本時間7時0分、俺はいつもの安い布団で寝ていた。念のため枕の下を覗いてみると、日本円で3万円が置かれていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ