第二十六話 反撃開始
「俺達の国を返してもらうぞ、ガルナドク!」
「お前の生贄になるか、支配者を倒すぞ!」
「『夢の世界』は貴様の物ではない、俺達の物だ!」
俺はエミに駆け寄り話しかけようとしたとき、後方から大きな足音や叫び声が聞こえてきた。後ろを振り向くと血気盛んな将軍やギルド長、魔道学校の教師が引き連れている大勢の仲間に向けて鼓舞しながら、旧アーネストリス帝国に集まった。ガルナドクが乗っ取っている城から10キロメートル離れた場所に3000人を越える戦士達が身分や能力の差別をせず、ガルナドクという1つの敵に対して全員が一致団結して語り合っていた。魔導学校のエリート生徒が弱そうなギルドに対して優しく励ましたり、対立している国同士が握手を交わして共に戦うことを誓ったり、さらには山賊と兵士がガルナドクを倒すために協力し合う、普段では見られないような光景が広がっていた。これなら俺達はガルナドクに勝てるかもしれない、必死に軍隊を要請してくれたデグロードに対して心の中で感謝しつつ、嬉しそうなエミに振り向いた。
「この戦いでゼルガンドとの戦いが集結しますね」
「そうだな。奴らに殺された魂もやっと自由になれるだろう。この世界から長年私達を支配してきた悪が消えるのだから。そのために私達も今日は死んでいった魂のために戦かわないとな」
「ええ、俺も全身全霊でこの世界のために戦います」
俺とエミが話していると、笑顔が素敵なアリアとリルが近づいてきた。
「エミさんやエルディアさんが頑張るなら、私も頑張るわ。そうよね、リル?」
「うん、サポートしかできないけど、できる限り頑張ります」
しかしガルナドクが明るい雰囲気を壊すために大音量の低い声が城から流された。
「雑魚の君達は世界を変えるためではなく、私の実験材料として自ら志願してくれたのだろう。勇気ある行動に感謝する。では君達の要望に私も全力を出さないといけないな、まずは前菜から召し上がれ」
俺達をバカにしているガルナドクの挑発的な声は戦士達をさらに団結させた。
「俺達を舐めるなよ、やっつけてやる!」
「誰が生贄になるものか、俺達は革命者になるために来たんだ!」
のような叫び声があちらこちらと発せられた。するとガルナドクが占領している城から無数の黒い鎧の兵士が俺達に向かって走り出してきた。敵は剣と大楯を構えて、群れをなして襲ってきた。その瞬間、将軍やギルド長、魔道学校の教師は詳細な作戦を立てずに「一斉攻撃開始!」と声を揃えて命令した。剣や槍を構えている兵士は敵の集団に恐れず突進し、敵のバランスを崩しながら隙を見つけて体を突き刺した。銃や弓を構えた兵士は息を合わせながら銃弾や弓矢を放ち、敵に向けて豪雨のように攻撃を降り注いぎ、敵の集団が倒れ始めた。魔導士は常に兵士達に強化魔法や回復魔法を唱え、最大限の攻撃ができるようにサポートしていた。しかし黒い鎧の兵士は城から溢れるほど生成され、攻撃を一切緩めなかった。敵の猛攻に耐えきれなかった剣を構えた兵士は次々と倒れ、銃や弓を構えた兵士に接近されてしまい、銃弾や弓矢の雨が徐々に弱まってしまった。
デグロードは悔しい表情をしながら、俺達に作戦を指示した。
「やはりガルナドクの攻撃を止めるには本体を倒さないといけないようです。私達は集まってくださった戦士の皆様と異なる方法で戦いましょう。敵を避けつつ城に向かいます」
「無数に湧き出す敵はどうする?」
「それに関しては集まってくださった戦士の皆様に全て任せようと思います。私達にできることは『ガルナドクを倒すこと』だけを考えてください。命懸けの危険な戦場は私達で対処しましょう。それとアリアさんとリルさんはまだ戦闘経験が少ないと思うので、クラーラさんとフローレンスさんと一緒に傷ついた仲間の手当てを手伝ってください」
「えー!私も戦えるよ!子ども扱いしないで!」
「いいえ、無茶をして死んでは困ります。ガルナドクの能力は未知数であり、どんな攻撃を放ってくるか私にも分かりません。アリアさんとリルさんを戦場に送り出せません。ですからクラーラさんのフローレンスさんの手伝いをお願いします」
「でも私達は仲間のために戦いたいです。私達は足手まといですか?」
「それは、......」
デグロードが言葉を詰まらせると俺が話を遮った。
「アリアとリルには違う戦い方がある。『祈り』だ。俺達が無事に生きて戻っていられること、そして集まってくれた戦士達の命が消えないように祈ってくれ。これは共に戦ってきたアリアとリルしか頼めない重要な役割だ。これなら頼めるか?」
「いいわよ、でも必ずガルナドクを倒してね」
「うん、みんなが生きて戻ってこられるように必死に祈ります」
「ありがとう、アリア、リル。任せたぞ」
アリアとリルの頭を撫でてからガルナドクに立ち向かう4人を見つめた。エミ、メルマール、セレスト、デグロードは覚悟を決めて真剣な表情だった。俺は無言で4人に握手をしてから戦場へ向かおうとしたが、クラーラが俺達5人に向けて笑顔で叫んだ。
「行ってらっしゃい!」
俺達5人は同時に笑顔で叫んだ。
「行ってきます!」
無数の敵が蹂躙している戦場では大量の負傷した兵士が救護のために設置された大型のテントに運び込まれていた。衛生兵だけでは人手が足りず、ギルドの構成員や魔道学校の生徒が協力しながら戦場を駆けまわっていた。軍隊の士気も衰え始め、「死にたくない!」「助けてくれ!」と恐怖に心が潰されそうな大勢の兵士が将軍の命令に逆らえずに、自暴自棄になって戦場へ飛び出した。この光景を不憫に感じたデグロードは俺に深く礼をしながら、
「仲間を頼みます。私は死んでいく兵士の姿を見ていられません。ごめんなさい」
と言い残し、黒い鎧の群衆へ1人で勇敢に立ち向かった。俺達は4人になった。
セレストは俺達を見渡しながら悔しそうな声で、
「私達の目標はガルナドクのみです。忘れないように」
と小さく呟きながら右腕を城に向けて伸ばした。セレストは心をすぐに入れ替えて、声が枯れるほど叫びながら、
「神よ、勇者のために道を作りたまえ、ゴッド・オブ・アロー」
と唱えるとセレストの右手から直径5メートル程の赤色に輝く魔法陣が出現し、そこからマシンガンのように無限に矢を放った。矢は敵の群衆を突き刺し、城に向かって一直線に大量の敵を地面に叩きつけることに成功した。セレストは冷静さを忘れ、燃え盛るような熱い口調で俺達に命令した。
「今よ、仲間の思いのために城まで駆け抜けるわよ!」
「ええ、行きましょう、セレストさん」
「ゼルガンドの残党よ、私の恨みを晴らさせてやる」
「待ってろよ、ガルナドク!」
俺達はセレストが作ってくれた一直線の道を必死に駆けだした。途中で敵が道を防ごうとするが、エミは敵の足に向けて槍を振り払い、メルマールは敵の頭を狙って短銃で連射し、セレストは俺達に虹色の防壁を作り、俺は許諾を得ずにフローレンスの力を使いながら衝撃波を発動させて敵を吹き飛ばし、一筋の希望の光を絶やさずに戦いながら走った。しかし敵は俺達だけを狙い始め、徐々に敵の数が増えていった。ここで終われる訳がない、俺は魂の中にいる声に頼んだ。
「行くぜ、フローレンス!俺に力をくれ!」
「いくらでも力を渡すから、必ず仕留めろよ」
俺は地面を両足で強く踏み込んで集中力を高めた。この一撃で俺達が城に辿り着けるかが決まってしまう。剣を絶対に放さないように剣を強く握り、左足で地面を蹴ると同時に弧を描くように剣を大きく振り払った。すると骨まで響き渡る風圧の痛みが響き渡ると同時に、俺の目の前に俺の身長の倍くらいある圧縮された空気の塊が前方に向けて解放され、突風で吹き飛ばすように敵を一掃した。メルマールは心配そうな表情をしながら、全身の力が抜けてしまった俺を支えながら共に城へと再び全力で走った。
一瞬も休まずに10キロメートルの長い道を渡り、分厚い扉が開けっ放しになっている城門を潜り広間に入ると、アーネストリス帝国の女王が以前座っていた宝石でできた椅子に足をかけて座っていたガルナドクが俺達に向けて拍手してきた。身長180センチメートル、肩までかかるほど長い黒髪、漆黒のコートを纏っていた30代くらいの髭が長い男は低い声で笑い始めた。
「ようこそ、私がガルナドクだ。君達が最初の生贄だ、率先して会いに来てくれてうれしいよ。さあメインディッシュを楽しもう」
「ふざけるな、貴様のせいでゼルガンドに苦しめられている魂が多く残っている!私の手で魂を自由の世界へに解放してやる!」
エミは自分自身でも抑えきれないほど怒り狂いながら槍を構えてガルナドクに向かって走り出すが、ガルナドクは終始笑っていた。
「おいおい、私の実験を楽しみたいとは良い生徒だな。まずは君から地獄の世界へ連れて行ってあげるよ」
ガルナドクが指を鳴らすと、突如直径3m程の黒い円錐が地面から生えてきた。エミは黒い円錐に進路を邪魔され、素早く後方に向けてジャンプした。しかし後ろに下がった瞬間にエミの頭上に飾っているシャンデリアが無数の黒い針に変化し、エミの全身に向けて針が発射された。エミは悲鳴を上げながら、針の痛みに耐えきれずに仰向けに倒れてしまった。
「もっと脆くない実験台はいないのかな?君はどうかな?」
ガルナドクは残った3人を見渡しながら立ち上がった。




