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夢の世界で魂を求めて -ソウルメイト-  作者: nusuto
第二章 ガルナドク解体作戦編
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第二十五話 決戦前夜

 ライラとの戦いで勝利した俺は疲労によりテントの中に設置された硬いベッドで何時間も睡眠していたが、表情が険しいデグロードの焦った叫び声で起床した。

「魂の管理者がガルナドクに人質として囚われました!これはガルナドクからの挑戦状です、私達はガルナドクを倒さない限り『夢の世界』から抜け出せません!」

魂の管理者が囚われた!?俺は体を瞬時に起こし、デグロードに問い詰めた。

「誰からの連絡だ?事実なのか?」

「はい、ガルナドクから各国に手紙が大量にばら撒かれました。これをご覧ください」

デグロードから渡された手紙の封を開けると、手紙から真珠のように輝く星形の魔法陣が展開され、ガルナドクの音声が発せられた。ガルナドクは低い声で淡々と挑戦状を叩きつけた。

「私達の猛攻から生き残った人間、残念ながら君達は私の実験の生贄になってもらうために『夢の世界』から逃す訳にはいかない。私は魂の管理者のみが入室できる部屋の居場所を突き止め、現世と夢の行き来を途絶させた。魂の管理者を捕らえた証拠に、エレアノールの音声を流そう」

エレアノールの音声が流れたが、いつもの強めな口調ではなく、苦悶しているような弱気な声だった。

「『夢の世界』を守れなくて申し訳ございません。私は皆様の魂を現実の世界へ届けられなくなりました。そして私以外の魂の管理者が殺されました、私もガルナドクに殺されるかもしれません。私を助けてください、皆様の魂を現実の世界に届けさせてください、......」

エレアノールの音声が途中で止まり、再びガルナドクの音声に切り替わった。

「信じてもらえたかな?私は魔法で音声を偽造していない、エレアノール本人から録音した音声だ。もし嘘だと思うなら今から就寝してみてくれ、起床後に現世に戻れないことが分かり、この世界は私によって支配されていることが実感できるだろう。エレアノールは殺さずに拘束しているから安心してくれ。もし現世に戻りたいなら私と戦え、現世に戻りたくない場合も私の私兵を各地に送り込むから私の生贄になってくれ。戦うか生贄になるか、この世界の運命を君達に託そう。アーネストリス帝国の城を改築しながら期待して待っているよ」

音声が流れ終わり、魔法陣が消えると同時に俺は手紙を真っ二つに破った。俺達はガルナドクに支配されてしまった、最悪のシナリオが現実に起こってしまった。俺は抑えきれない怒りと絶望に満たされ、デグロードの鎧に掴みかかり、八つ当たりをしてしまった。

「ふざけるな、信じられるか!」

「落ち着いてください、エルディアさん。これから各国の首相が会談し、......」

「ガルナドクに負けるだと、あり得ないだろ!アーネストリス帝国の城も奪われるなんて、俺達は黙って生贄になる運命なのか!」

「待ってください、エルディアさん、......」

俺はデグロードを押し倒そうとすると、エミが俺の腹に向けて勢いよく殴ってきた。エミは悲しげな声で、

「悔しいのは私も同じだ。話がまとまったら後で伝えるから寝ていてくれ」

と小声で話し、俺の体をベッドを戻した。俺の腹に鋭い棘が刺さるような激痛が走り、ベッドの上で再び寝てしまった。


 数時間後、テントの中からでも眩しく照らす日光によって目を覚ましたが、俺は『夢の世界』から抜け出せなかった。ガルナドクの手紙が本当であることを実感してしまった。

 俺が目覚めると小さなテントに隔離されており、隣にクラーラが俺を見つめながら寝ていた。クラーラは小さな声で俺の心配をしてくれた。

「大丈夫ですか?昨日の傷は治りましたか?」

「ありがとう、大丈夫だ。だが、なぜクラーラだけが俺の隣で寝ていたんだ?みんなはどこにいる?」

「エルディアさんが心配でしたので、小さなテントとセレストさんの魔法で作ってくれました。ここでエルディアさんが安心して寝れるまでずっと見ていましたよ。今、エルディアさんが騒ぎ出すと仲間が慌ててしまうので、隣の大きなテントで寝てもらいました」

「そうだったのか、すまない」

「平気ですよ」

世界の危機なのにクラーラはいつも通りの笑顔を絶やさず、俺に接してくれた。ガルナドクに対する憎しみと『夢の世界』が崩壊するかもしれない不安で潰されそうだった俺を安心させるために、クラーラも自分や仲間が死ぬかもしれない恐怖に戦いながらも全力で介抱してくれた。

「クラーラ、いつも俺のために働いてくれて、ありがとう」

「私がエルディアさんに感謝を言うべきですよ。アリアさんやリルさん、そして私に希望の光を射してくれて、ありがとうございます。恩返しではないのですが、エルディアさんがもっと活躍できるようにサポートするのが私のできることなので、今後も頑張りますよ」

クラーラから温かい言葉を聞いた後、言ってはいけない質問をしてしまった。

「『今後』がなくなってしまうのに?」

「いいえ、『今後』を作るのです。デグロードさんとセレストさんが中心となって『今後』を取り戻すために、エルディアさんが就寝して会議していましたよ。デグロードさんはガルナドクを倒せるほどの軍隊を要請するために、一緒に行動していた緑色の制服を着ていた魔道兵士の魔法によって音声を各国の首相やギルド長、魔道学校に届けて、必死にお願いしていました。セレストさんやフローレンスさんは皆様が持っている武器の強化や薬草作りをしていました。アリアさんやリルさん、メルマールさんはエミさんに稽古してもらっていますよ。エルディアさんはまだ落ち着ていないのでテントから出てはいけませんが、よく耳を澄ましてみてください」

耳を外に向けて傾けると槍が矢を弾く音、銃弾が木々に貫通した音、炎の魔法が発生されたと思われるような火が燃え上がる音が聞こえた。

「皆様はまだ『今後』を取り戻すために諦めていませんよ。大丈夫です、何とかなるはずです」

「すまない、そうだったな。俺も『今後』を取り戻すために作戦会議に参加しないと」

「エルディアさんは作戦会議に参加しなくていいです。セレストさんから『今日は1日中寝てください。明日は私が魔法で支援しますから自由に戦かってください。エルディアさんには作戦はありません』と伝言を頂きました。明日に各国の軍隊が旧アーネストリス帝国に集結し、ガルナドクに向けて一斉攻撃を仕掛けるようです。私に伝えられた情報はこれだけです、その他の情報は教えてくれませんでした。きっとエルディアさんが安心して寝れないから、あえて情報を全て教えてくれなかったと思います。だから今日は狭いテントの中ですが、2人で寝ましょう」

「ありがとう」


 俺はラデオアとの戦いが終わった後の病室の光景を思い出した。俺の隣にずっと笑顔でクラーラが接してくれる病室、思い出話を語り合った幸せな日常。この光景をガルナドクに破壊されたくないと思い、俺も『今後』を求めて戦うことを決心した。


 その後、俺はテントの中でクラーラが作ってくれたパンと焼き魚を食べ、朝なのに再び2人でベッドで横になった。テントには2つのベッドが隣り合わせで配置されており、クラーラのベッドの隣には最低限の治療用具と料理用具だけが置かれていた。テントの大きさも小さく、大人3人分しか入れないほど狭い空間だった。可愛らしいクラーラの寝顔を見つめながら俺も寝始めた。


 クラーラに背中を擦られながら起こされると、夜中になっていた。クラーラはアルコールランプに光を灯すと、「寝すぎましたね」と笑いながら料理を出してくれた。人参やジャガイモ、ブロッコリー、きのこ、鶏肉が入った具だくさんのシチューを俺が寝ている間に作ってくれたのだ。作り立ての熱いシチューは俺の体を芯から温めて、体中を癒してくれた。2人で「おいしいね」と笑いながら食べ終わり、クラーラはアルコールランプの明かりを消した。

 俺が再びベッドで横になると、俺のベッドにクラーラが入ってきた。クラーラは俺の体を抱きつきながら、俺の顔を涙を浮かべながら見つめた。

「エルディアさん、この世界を救ってください」

「クラーラ、......」

俺はガルナドクを確実に倒せる自信がなく、「任せろ」と言い切れなった。するとクラーラは俺の頬に柔らかい唇でキスをして、優しく小声で呟いた。

「大丈夫ですよ、エルディアさんなら大丈夫です」

「ありがとう、クラーラ」

 俺もクラーラの背中に腕を伸ばし、お互いに抱き着きながら寝始めた。


 そして『夢の世界』の命運を分ける朝が訪れてしまった。俺はクラーラに背中を擦られて起こされた。

「エルディアさん、絶対に死なないでくださいね」

「ああ、分かった」

俺は小さなテントから抜け出し、俺の起床を待っていたメルマールがテントの外で待ち続け、俺を確認すると剣を渡してくれた。メルマールは小声で俺の名前を呟いた。

「東條君!」

メルマールは無言で俺を強い力で抱きしめてきた。

「無茶だけはしないでね」

「ええ、分かりました」

「セレストさんが東條君を呼んでいるから、早く行くわよ。お互い頑張ろうね」

「はい」

俺は真剣な顔つきで瓦礫だらけの大地を見つめているセレストに駆け寄ると、静かな声で作戦を命じた。

「当日の作戦は生き残ることが前提条件ですが、戦闘については自由です。エルディアさん、あなたに全てを託します」

「全力で戦うよ、セレスト」

セレストは少しだけ笑みを浮かべ、俺に魔法で生成した槍を渡した。

「フローレンスさんも頼みますよ」


 俺は武器を受け取り、セレストやメルマールから遠く離れ、魂の声に向かって叫んだ。

「魂の声、聞こえているか?全ての力を使ってやるから覚悟しろよ!」

声が届いたのか分からないが、俺を待っている仲間達に急いで駆け寄った。


 今日は『最後の日』ではない。『始まりの日』にするんだ。死ぬまで全力でガルナドクを倒すために戦うことを誓い、俺達を照らす日光を見つめた。錯覚かもしれないが、日光はいつもより明るさが増していた。

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