第二十二話 希望の魂(下)
ガルナドクの下っ端によって破壊された街は火の海だった。家屋は倒壊し、商店街も炎によって消え去り、負傷して倒れている国民や兵士しかいなかった。ガルナドクはワイナル王国のように滅ぼすつもりだろう、活気がなくなり暗い雰囲気の街並みをセレスト共に静かに歩き、ガルナドクと交戦している広場へと足を踏み入れた。
元々公園だった広場は森林が真っ黒に焦げ、砂漠のように草がなくなっていた。大勢のガルナドクの下っ端がディール共和国の兵士を圧倒し、広場も悲惨な街の光景と同様に倒れている兵士しかいなかった。既に大剣を大きく振り回しながら交戦していたデグロードが俺達に気づき、急いで駆け寄ってきた。デグロードの鉄製の鎧は銃弾の跡が無数にあり、この戦いの恐ろしさを物語っていた。
「エルディアさん、セレストさん、お怪我は大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。今の戦況はどういう感じか?」
「申し訳ありませんが、私達では食い止められず、戦果はありません。我が軍も大勢の兵士をこちらに向かわせていますが、ガルナドクの圧倒的な戦力の前では歯が立たず、他国への兵士がこの地に来るまで時間を稼いでいる状況です」
「他国の兵士はどれくらいで来る予定なのか?」
「おそらく早くても1時間以上だと思います。ここから40キロメートルも離れている国しか要請を承認していただけなくて、......」
「俺が戦う、1時間も持ちこたえるのは厳しいだろう」
デグロードは驚きながら目を丸くして質問した。
「エルディアさん、無茶しないでください!ワイナル王国での戦いで重傷を負ったと報告を聞きましたよ!死にますよ!」
「いや、この状況を打破するには俺が戦うしか方法はないだろう」
「しかし怪我が癒えていない状況で戦うのは危険すぎます!ここは私に任せてください!」
「デグロード、これ以上兵士が死ぬ姿は見たくない、そしてガルナドクによって奴隷にされる国民の姿も見たくない。俺が俺の意思で戦う」
俺はデグロードの忠告を無視して、ガルナドクの下っ端に近づいた。多くの兵士が必死に抵抗しているが、次々と地面に倒れていた。
全神経を集中させて剣を握って戦闘態勢に構え、心の声に尋ねた。
「俺のために戦ってくれ、フローレンス!」
「当たり前でしょ!私の持てる力を全部貸すわよ、エルディアさん!」
「強引で危険な戦い方をするけど、ついて来いよ!」
「隊長の私を舐めないでもらえる?どんな戦い方でも適用できるわ、全力でかかってきなさい!」
「ありがとう、全部の力を使ってやるから覚悟しておけよ!」
剣は虹色に神々しく輝き、下っ端が目を瞑るほど明るい光を照らした。ワイナル王国と戦った時と同じような現象だった。心の中でフローレンスが自慢げに話してきた。
「どうよ、これが私の力よ!まだこれでも少しの力しか発揮していないわよ、隊長の私の力を甘く見ないでね!?」
「ならばもっと使ってやるから、覚えておけよ!」
足で地面を大きく蹴り、俺と対面している下っ端に剣を大きく振りかざした。虹色に輝く剣は鉄をカッターで紙を切るように簡単に斬り裂き、下っ端の体から大量の血を流しながら倒れた。
大勢の下っ端が倒れた下っ端を見つめると、視線が俺だけに集まった。俺は近くにいた兵士に逃げるように促した。
「ここは俺が死守してやる。君達は倒れた仲間を救いに行け」
兵士は俺にお辞儀をし、広場から戦線離脱した。心の声は不満げに尋ねてきた。
「1人で大丈夫なの?みんなを逃して良かったの?」
「いいさ、その代わりにフローレンスの力を存分に頂くぞ!」
俺は近くにいた下っ端を突き刺して盾の代わりに利用し、無数に放たれた銃弾から身を守りながら地面から大きな石を拾った。運がよく広場には遊戯用の大きな石が散らばっていた。俺は大きな石を銃を構えている下っ端に投げつけ、銃から手を放して倒れたことを確認した。大きな石を投げる瞬間、石も剣と同様に虹色に輝いていた。この作戦も使えるだろう。
しかし遠距離だけでなく近距離からの攻撃も増してきた。長槍を構えてきた下っ端が俺の腹を狙って近づいてきたので、剣から盾代わりにした人間を引き抜きいてから槍を構えた。左足で下っ端の足を引っ掛け、転びそうになった瞬間に槍を貫通させ、新しい盾として利用した。だが数が多すぎる、前方から大勢の下っ端が剣を構えて殺気溢れた表情で近づいてきた。俺は盾を構えながら遠距離攻撃を防ぎ、剣で無数の鎧を破壊しながら叩きつけるように斬り裂いていった。その時、剣はさらに光を増し、体にも虹色の光がうっすらと発光した。心の声は調子いい声でからかってきた。
「全部使うって宣言したのに、これしか使わないの?しょうがないなあ、新しい力を差し上げるから、さっさと雑魚共を撤退させるわよ!」
体が焼けるように燃え盛っていた。体温が上昇し、皮膚に赤みが増していた。そして俺の体から力が溢れだす感覚が襲ってきた。
「今よ、全力で剣を振りなさい!」
俺は槍を捨て、被弾しながら足に力を込めて、剣を大きく振った。剣はいつもの2倍以上重力が増しており、腕の痛みを我慢しながら剣を振るのに苦労した。
「エルディア、新境地へようこそ!あなたは世界を救う力を手に入れたわ!」
心の声から優しい声が聞こえると共に、空気が大きく振動されていた。砂ぼこりが大きく舞い上がり、体が砂だらけになってしまった。鼓膜が破れるほどの重低音が耳に響き渡り、圧縮された空気が一気に解放されたように感じた。
しばらくすると近くにいた下っ端は全員うつ伏せで倒れており、銃を構えた下っ端は怯えており銃先が大きく揺れ、指を引っ掛けられなかった。地面を見つめると下っ端の血が大量に流れていた。
「エルディア、これが衝撃波というものよ!私と同じ力を使えるようになったわね!おめでとう!」
「衝撃波......」
俺には会得できないと思っていたが、フローレンスの力によって習得してしまった。恐ろしい力を手に入れてしまった恐怖感と世界を救う力を手に入れた嬉しさが混在しており、心の整理ができずに呆然と突っ立ていた。心の声はそんな俺に怒り出した。
「突っ立てないで戦え!もう力尽きたのか!」
「まだ戦えるから安心しろ!」
「ならば、もう1発お見舞いしましょう!」
「やってやるから、フローレンスも覚悟しろよ!」
俺は再び足に力を集中させ、剣を強く握った。この時に空気が圧縮されるから剣の重量が増しているだろと自分なりに解釈しながら剣を構えた。そして足を蹴り、腕に力を入れ、手がちぎれそうになるほど重量が徐々に増している剣を振り払った。その後、圧縮された空気が一気に前方に向かって放たれ、風圧に負けないように剣を構えながら足全体に集中して必死に立った。解放された空気はさらに轟音が広場全体に鳴り響き、風圧で燃え盛っている森林を消火した。地面に大きな穴ができるほど土を削り、砂ぼこりで竜巻が発生していた。こんな強力な技をワイナル王国の戦いで使われていたら俺は死んでいたな、と衝撃波の強さを再認識した。
衝撃波は銃で攻撃していた下っ端にも被害を与え、血の海がさらに広がった。残された下っ端は怯えはじめ、
「ガルナドクに栄光あれ!」
と悲鳴を上げながら下っ端の仲間を見捨てながら、全身全霊で駆けながら姿を消していった。
俺は衝撃波を放った影響で力が抜け、地面に足を付いてしまった。戦いの最中に回復魔法で俺を支援してくれたセレストにすぐに介抱され、再び病室に戻った。




