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夢の世界で魂を求めて -ソウルメイト-  作者: nusuto
第一章 魂の管理者編
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第一話 魂の出会い

 ベッドのぬくもりが今までと違う、天使が体中を大きな手で包み込んで温めているような気分だ。ベッドを2年以上買い替えていないのに、布団の肌触りが新品の頃よりもずっと良い。ベッドで何十時間も何物にも邪魔されずにずっと寝ていたい、幸福な気分が続いていた。


 しかしベッドで寝ているはずなのに、体が落下する感覚に襲われた。まるで天使が俺の体を真っ逆さまに落とすような、幸福から地獄へ行き先が変わったみたいだ。行き先が分からない穴に落ちているのに体は動かないし、声も出せない。俺は落としても叩いても何も抵抗できない人形の気持ちが分かったかもしれない。真っ暗な世界に取り残され、落下し続ける俺は死を覚悟した。ベッドの上で死ぬなんてなんて情けない人生なんだ。ファンタジー研究会の副部長の俺がこんな人生を遂げるなんて、俺が考えているファンタジーと全く違う。神様、俺の何が悪いんだ!俺をなぜ見捨てたんだ!俺は叫びたくても叫べず、ひたすら真っ暗な冥土への旅行をさせられた。

 だが俺の予想とは全く違う結果が待っていた。地獄ではなく天国なのかもしれない、そんな気分だった。


 目が覚めた瞬間、目も前にはいつもの安い布団ではなく、高級な羽毛布団で寝ていた。体だけではなく心も優しく包み込む、女神が俺を優しく包んでいるような感覚が味わえるほど別物のベッドだ。もしかすると俺はどこかへ飛ばされたのかもしれない、ファンタジー関連の書籍が並んでいる本棚もないし明日のファンタジー研究会の資料も机の上に置かれていない。ここにあるのは木製の机と武具だけである、そして俺の衣装もいつもの寝巻ではなく純白のシルクの寝巻だった。もちろん部屋もいつもの光景と異なる、シャンデリアや朱色のカーペット、楕円形の窓ガラスなど俺が知っている風景とは別物である。何故ベッドからこの世界に転送されたのか、何故俺をこの世界に呼んだのか、この世界での俺の名前は何なのか?無数の疑問が頭の中から溢れているとき、木製のドアからノックが聞こえ、青色を基調としたメイドが部屋に入室した。ベージュのロングヘアーでお姉さんタイプの雰囲気を醸し出している、気品がいいモデル体型のメイドだ。

「お目覚めになられたのですね、東條翔吾様」

「何で俺の名前を知っている?」

別世界に辿り着いたはずなのに、一度もあったことがないメイドは俺のフルネームを知っていた。俺は驚きのあまり、布団を思いっきり投げて体を起こした。

「結論から話すと、東條様の魂をお借りしているので東條様をよく知っています。東條様は北川高等学校2年生、成績は体育が優秀ですが古典が全然ダメみたいですね、それから......」

「ちょっと待ってください、魂を借りているって言いましたよね」

「ええ、東條様の魂だけ就寝時に一時的にお借りしています。魂をお借りすることで、この世界の魂がない人間の体に東條様の魂を結び付けているため、今この場にいらっしゃるのです」

「俺が寝ているときに魂を勝手に使用しているのか?」

「申し訳ございません、その通りでございます。東條様の助けがどうしても必要なので私の判断で魂を借りてしまいました。もちろん魂はお返ししますし、東條様が生活している世界である日本にも安全に戻れます」

メイドの親切丁寧な口調で俺の疑問に答えてくれた。この世界でも人手不足があるのかもしれない、だから俺の魂をメイドが勝手にパクったのだろう。だが俺にはどうしても分からない疑問がある。

「何で俺の魂を選んだのですか、俺よりも優れた人間の魂を借りたほうがいいと思いますよ?」

「申し訳ございません、私はこの質問に答えられません。元の人間の魂の持ち主が東條様を選んだ結果です」

「どういう意味ですか?」

「元の人間であるエルディア様の体に東條様の魂を結び付けました。つまりこの世界で死亡したエルディア様の魂が東條様を選んだのです。エルディア様の中では東條様しか考えられなかったのです」

メイドが俺の目を真っ直ぐ見ながら真剣に話している。この世界で死んでしまったエルディアのために生きてほしいということだろうか、それを伝えるために空色に輝いている目を潤しながら語っていた。そしてメイドは跪き深く礼をした。

「東條様、お願いがあります。エルディア様を東條様が導いてください」

「やります」

俺は強く拳を握り決心した。エルディアがどんな人生を送ってきたか分からないが、俺はこの世界でエルディアのために戦うことにする。

「ありがとうございます。では支度をして参ります」

メイドの顔には涙が溢れ、声が震えていた。本当に俺でいいのだろうか、と思うほどメイドは感謝しているように見えた。


 しばらくするとメイドが2人の女性を引き連れていた。1人は黒髪のショートヘアーで黒いドレス、俺の目線では魔術師のような風貌である。もう1人は茶色を基調にしているポンチョとミニスカートを着ている、ライトブラウンのハーフアップの髪が特徴である接近戦が得意なシーフのような風貌に見える女性である。

「この2人がエルディア様の冒険に同行するリル様とアリア様でございます。この2人も冒険が初めてでございますので、お手柔らかにお願いします。」

メイドが深くお辞儀して2人を紹介した。魔術師のような童顔の女性がリル、シーフのような大人びた顔をしている女性がアリアである。しかしメイドが話していた『2人も冒険が初めて』という言葉が妙に引っかかるが、今後理解できるだろうと信じて今回は無視した。

「魔術師見習いのリルです。魔法学校を卒業したばかりで実戦経験はあまりないですが、頑張ります」とか弱い声でリルは話していた。手は震えているし、表情も硬い。本当に冒険は初めてなのかなと冒険をしたことがない東條翔吾も感じた。

「獣狩りのアリアよ。家の手伝いで猛獣を何十匹も倒したらから、剣の腕はあると思うよ。エルディアも一緒に巨大な獣を倒せるように頑張ろうね」と大人びている表情なのに少女のような口調で元気に話していた。リルとは対照的に自信に満ち溢れ、常に笑顔を絶やさなかった。

「よろしく、リル、アリア」

「よ、よろしくお願いします」

「よろしくね、エルディア」

「さて挨拶も済んだのでエルディア様もお着替えをしましょうか」

挨拶を交わし、メイドがエルディアの着替えを促した瞬間、壁から大きな打撃音が聞こえた。ハンマーで何度も壁を壊しているような音が聞こえた後、壁を破って赤色の人型の獣が現れた。全身が赤色に覆われ、筋肉がボディービルダーのように割れている。約300センチメートルの大男のような獣が「グオー」と叫びながら腕を振り回しながら部屋を破壊していった。

「申し訳ございません、獣を倒し損ないました!今すぐ逃げてください!」と兵士が大声で叫んでいるが、この場所で倒さないと3人の命が危ない。俺は壁に引っかかっている黒を基調とした長槍を構えた。初めて槍を扱うので槍での戦い方は分からないが、獣の動きを封じるのが先決だと思い獣の足を貫いた。しかしその判断が裏目に出てしまった、獣は声を荒げて刺さっている槍を抜き、エルディアを地面に思いっきり叩きつけた。衝撃は重く、背中が砕けるような重い痛みが響いた。3人は「逃げて」「無茶しないで」など悲鳴を上げているが、3人も安全な逃げ道が確保されていない。だから俺が何とかして逃げ道を作るしかない!その思いが届いたのか何者かの男の優しい声が聞こえた。

「あいつの弱点は目だ。僕が力を貸してあげるから、槍を目に向かって投げてみて」

「お前は誰なんだ?」

「今はいいから、立って槍を構えて、目に突き刺すように投げて」

「分かったよ」

心の声で会話しながら謎の男の指示で立ち上がり、槍を構えた。すると心が沸騰するように熱くなる妙な現象を感じながら助走をつけた。獣の目に当たるように45度の方向を意識して槍を投げた。そして槍は虹色に輝き、獣の目の中心を貫いた。俺も驚くほど正確に左目を貫いていた。

「おい、次は右目を潰せばいいんだな」

「さすがだね、でも槍はないから......」

「さっきの虹色に輝く槍はお前の仕業だろ。もう一回俺に力を貸せ、剣で貫く」

「うん、君のために頑張るよ」

俺は槍が引っかかっていた武具倉庫まで戻り、金色に輝く剣を取り出して獣に向かって剣を構えた。獣の動きが止まっている今がチャンスだ。獣まで走って近づき、獣の目に向かって大きく飛び、目に思いっきり突き刺した。この瞬間も剣先が虹色に輝いていた。獣は力尽き、地面に倒れこんだ。兵士と3人は目を丸くして驚いていた。

「なんという力なんだ、一体何者なんだ」

「素晴らしすぎます、エルディア様。初めての戦闘なのにこんなに戦えるなんて、信じられません!」

「ありがとうございます、エルディア様」

「えー、私よりも凄腕のハンターがいるなんて聞いていないよ。でもありがとう、助かったわ」

感謝や祝福をもらった直後、突然強烈な眠気を感じ、この場に倒れこんでしまった。その直後メイドが慌てて駆け寄った。

「初めての戦闘で無茶しますから、だいぶお疲れのようですね。すぐに違う部屋に運びますから、私の背中に乗ってください」


 メイドは俺を背負って違う部屋に連れて行った。リルはお辞儀し、アリアは手を振ってくれた。メイドが違う部屋のベッドで寝ている俺に羽毛布団をかけると、小声で話した。

「今日はありがとうございました。ぐっすり休んでください。明日も魂をお借りに参りますので、よろしくお願いしますね」

俺はメイドにいくつか質問したいことがあったが、眠気に負けてしまい、そのまま羽毛布団の中で寝てしまった。


 起床後、俺はいつもの安っぽい布団の上にいた。

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