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夢の世界で魂を求めて -ソウルメイト-  作者: nusuto
第一章 魂の管理者編
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第十五話 君の為に僕の為に(下)

 布団から目を覚めると、時計の針は午前6時を差していた、俺は昨日から1日中寝ていたことになる。スマートフォンを眺めてみると、電話やメールが100件着信があり、どれも遅刻や無断欠席についての内容だった。ラデオアの戦いが始まる前に学校の先生に欠席のメールをしておけば良かったと思いながら、頭を抱えてスマートフォンをいじっていた。今日は先生や友達から色々言われそうだなと憂鬱な気分だった。7時になるまで寝るかと考え、再び布団に潜り込んだ。

 しかしある電話で目が覚めた。スマートフォンの画面には「非通知」の文字が浮かび上がり着信音が鳴り響いた。きっと先生からの電話だろうなと電話を受けると、エレアノールの声だった。

「東條翔吾君、君には感謝してもしきれな程の偉大な功績を遺してくれた。本当にありがとう。これで世界が救われるはずだ」

「ええ、奴隷がなくなり、平等な世界が生まれますね。ですが不正ギルドや山賊の増加の問題など抱えています。まだまだ完全な平和には遠いですね」

「そうわね、この世界はまだまだ大量の問題を抱えている。しかしゼルガンドの解体は『夢の世界』において最も邪悪な根源が消え、国民は安全に過ごせる。何度も繰り返しになるが、命を懸けてくれて、ありがとう」

「いえいえ、私もラデオアを倒せて嬉しいですよ」

「ところで報酬の件だが、いくらを望む?言い値でいい」

「いつも通りでいいですよ。」

「だが世界を変える働きをしたんだから、もっと欲張っていいだろう」

「では有栖裕美さんが請求した金額と同じでお願いします」

「たしか有栖さんは......、100万円を要求していた。では明日の朝になってしまうが、100万円を渡そう。いつも通り枕の下に置いておこう」

「ありがとうございます」

「今後も頼むよ、特にアリアを笑顔にさせてくれ」

「もちろんです」

「それでは、失礼する」

エレアノールから電話が切れ、俺は天井を眺めた。俺達がラデオアを倒した実感がまだ湧かない、奇跡としか思えない状況だった。もし心の声がいなかったら、俺達は奴隷に戻っていただろう。俺は奇跡を起こしてくれた魂に感謝しつつ、再び布団に潜り込んだ。


 朝8時30分、登校すると先生や友達から質問攻めになった。なぜ無断で休んだ、なぜ連絡先を知っているはずなのに連絡しなかった、どこに行っていたと何度も聞かれた。特に友達の安藤誠二にも、

「まさか異世界に行ってたの?ファンタジー研究会は楽しそうだな、お前だけズルいぞ」

とからかってきた。異世界に行ったのは事実だが地獄の光景だったけどな、と心の中で思いながら、

「40度の熱でスマートフォンも触れないほど体が動けず、連絡が取れませんでした」とごまかして何とか逃げ切った。


 午後5時、ファンタジー研究会が始まる時間だが、今日は火曜日だった。いつも水曜日に部活動を始めているから今日は誰もいないよな、と思いながら部室の扉を少しだけ開けてみると、有栖先輩が残っていた。有栖先輩はA4ノートにひたすら何かを書いていた。俺はもう遅いがノックをした。

「どうぞ」

「東條です」

「東條君、生きていてよかった!!」

有栖先輩はペンを置き、すぐに俺のもとに近づいた。そして扉を閉めて電気を消し、俺に抱き着いてきた。有栖先輩の包み込まれるような温かい体に抱きしめられていると、有栖先輩は大粒の涙を流していた。

「先輩、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないわよ!」

より力強く抱きしめられ、体が密着する。有栖先輩は俺の顔をじっくり見つめて悲痛な声で、

「いつも最前線で死ぬかもしれないとヒヤヒヤしていたんだからね!東條君はいつも死にに行くような戦闘スタイルが怖くて、いつ東條君がいなくなってもおかしくない状況が怖かったのよ!昨日のラデオアの戦いも、私達が倒れている間に1人でずっと戦い続けて、何度も傷を受けていて、本当に怖かったのよ!」

と時々腹に小さく殴りながら八つ当たりしてきた。

「すみません、それが俺のやり方なので」

「ダメわよ、自分をもっと大切してよ!死んでほしくないから、今度から怖がらせない戦い方をしてよね!」

「はい、気を付けます」

きっと今日も夢の世界でエミさんと一緒にいつも通りの特攻型の戦闘スタイルをするだろうな、と内面で考えながら、外面では有栖先輩に反省して謝罪した。

「ところで先輩が書いていたノートは何ですか。明日は何か発表会がありましたか?」

「いいえ、これは私の『夢の世界』の考察ノートよ。私に『夢の世界』を語ってくれた時から、『夢の世界』の生活まで毎日部室で書き留めているのよ。今日は昨日のラデオアの戦いについて思い出しながら書いていたのよ」

「そうなんですか、嬉しいことから悲しいことまで色々あった世界でしたからね。ファンタジー部としては大きな情報ですね」

「ええ、文化祭で販売するファンタジーの考察にも使えそうな情報よね」

 その後、有栖先輩が書き留めたノートを見ながら色々と語り合った。仲間について、ゼルガンドについて、『夢の世界』における魂について、2時間以上語り合った。俺は帰り支度をすると、再び有栖先輩が抱き着いてきた。

「私もメルマールも一番好きでいてね!今後もメルマールの面倒を頼むね、エルディアさん!」

「もちろんです、有栖先輩!メルマールさん!」

有栖先輩は満面の笑みで頼んできたので、俺も笑みを浮かべながら返答した。


 午後11時、ゼルガンドが存在しない『夢の世界』に潜り込んだ。

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