第十四話 君の為に僕の為に(中)
「なぜお前達が生きている?死んだはずではないのか!」
「俺達はお前のせいで死んでいった魂達のために生かしてもらっている!そして俺達はお前を倒す使命を果たす!覚悟しろ、ラデオア」
ラデオアがブツブツと不満を呟いているいる間、俺は仲間に振り返り、覚悟を決めた顔を観ながら、
「みんな、好きなように戦え。俺も好きなように戦う。だけど死にそうになったら遠慮せずに戦線離脱しろ」
と伝えた。すると小さく頷いたアリアは
「私は1人では何もできないから、エルディアさんやみんなの補助を全力で手伝うわ」
と返答すると続いてリル、メルマール、エミ、デグロード、クラーラの順で
「私は遠距離の支援しかできませんが、お役に立てるように頑張ります」
「私は集中してラデオアの動きを銃で攻撃しながら封じます」
「エルディア、私も一緒に最前線で戦うからよろしくね。デグロードとクラーラは遠距離支援のサポートをお願い」
「承知しました、エミさん。命を懸けて皆様を守り抜きます」
「ええ、傷の手当てや応援しかできませんが、私にできることは何でもやります」
と答え、既に俺達は一緒の考えだと分かって安心した。これで俺は全力を尽くして戦える。ラデオアに振り返ろうとしたとき、アリア、リル、クラーラ、メルマールが俺の左腕を強く握った。みんなは弱弱しい声で
「必ず帰ってきてね、約束だからね」
「エルディアさん、負けないでください」
「遠くからですけど全力で応援し続けます。アリアさんやリルさんのために、死なないでくださいね」
「東條君、......。」
大雨のように涙を流している4人を1人ずつ抱きながら「ああ、分かってる」と小声で話した。特にメルマールには
「有栖先輩、俺はあなたを守ります」
と呟き、さらに強く抱きしめあった。それを横から見ていたエミは
「そういうのは終わってからにして欲しいな、今は戦闘だけに集中しなさい」
と警告し、エミに軽く謝りながらラデオアに再び向き合った。
宝石のように輝いている刃をラデオアに向けて俺は地面を蹴り走り出した。さっきとは大きく違い、体が自由自在に動けるほど軽くなっていた。さらに歴戦の魂の願いが込められているのか、剣の輝きはより一層、太陽のような眩しく神々しいを放っていた。
対するラデオアは笑顔が顔から消えていた。ラデオアは再び剣を掴み衝撃波を発生させるために左腕を目の前に伸ばしていた。しかしラデオアはさらに窮地に立たされることになる、今度は俺には仲間の援助がある。ラデオアの動きを鋭い目で観察しているデグロードはラデオアが腕を上げると
「何か仕掛けるつもりです。一斉射撃を開始してください」
とアリア、リル、メルマールに指示し、無数の魔弾と矢と銃弾が発射された。それらはラデオアに向かって剣や槍を振り下ろすエルディアとエミの体を横切り、マシンガンのように弾が切れることがなくラデオアの手足にダメージを蓄積していった。デグロードはクラーラに次に発射する矢や銃弾の準備、アリアの魔力の回復薬の投与を任せ、逐一4人に攻撃の指示を行った。
「まだラデオアにはダメージがなさそうです。攻撃を緩めることなく、エルディアさんやエミさんの戦いに負荷がかからないように遠方で支援しましょう」
そのように伝えると4人は何も文句を言わずにひたすら弾を打ち込み続けた。手の皮が剥けても、集中力を切らさずに流星群のように弾が発射された。4人を指揮するデグロードの判断がエルディアとエミに大きく影響を与えた。
遠方から支援をしてくれている仲間に感謝しながら、わざとラデオアの左手に剣を振りかざした。すると大量に弾を受け続けているラデオアの左手は剣を掴めず、左手が切り落とされた。ラデオアはカウンター攻撃をできなかった悔しさと左腕の痛みから大きく咆哮のような叫び声を唸った。その後エミが厳しく睨みつけながら、
「消えろ!邪悪の根源!失われた魂達を返せ!」
と叫びながら腹に深々と槍を突き刺した。より一層ラデオアの唸り声が響き渡ると、俺は恨みを怒りに変えて腹を深々と突き刺した。しかしラデオアも負けていなかった、今度は体から衝撃波を放ってきた。ラデオアの戦闘能力は分からないが、衝撃波を何度も放てる技があるようだ。
しかし俺とエミは吹き飛ばされなかった、吹き飛んだのはラデオアだった。その理由はアリアとリルとメルマールにある。衝撃波が放たれようとしたとき、デグロードはすぐにアリアに、
「何かエルディアさんとエミさんにバリアを張れませんか!今すぐです!」
と伝えるアリアはと全身の神経を集中させて、衝撃波で吹き飛ばされる前に俺達の目の前に高さが約5mの虹色に輝く板を発生させた。その後アリアは集中力が切れて倒れてしまい、クラーラが「大丈夫ですか」と叫びながら何度も背中を擦りながら介抱した。リルとメルマールは目を合わせ、衝撃波から2人を離れさせるためにラデオアに強力な弾を打ち込んだ。リルは矢にアリアからもらった魔法で生成された爆薬を巻き付け、メルマールは狙撃銃ではなく対大型ドラゴンのバズーカ砲に持ち変えて打ち始めた。弾丸は虹色の板や2人を横切り、ラデオア全身に命中させた。アリアが飛び起きるほどの激しい揺れと地響きが鳴り響き、ラデオアは2人から200m離れた場所に飛ばされた。アリア達は2人が煙で見えず、同士討ちを避けるために攻撃を中止した。
炎に囲まれた大地を駆け巡った弾丸はラデオアの動きを封じることに成功した。爆風で吹き飛ばされたラデオアは左手を失い、血まみれになりながら仰向けに倒れていた。俺は倒れているラデオアの顔に向けて刃を向けた。
「ふざけるな!奴隷された魂を返せ!このまま楽に死ねると思うなよ!」
しかしラデオアには挑発や反抗する力は一切なかった。小鳥のように弱弱しく、
「それはできない。残念だが、魂を持ち主に戻せない。」
と語ることしかできなかった。俺はラデオアから「元に戻す」という声を聞き出すだめに、さらに腹を刺した。だがラデオアはラデオアらしくない態度や声で
「私に攻撃しても何も聞き出せないから早く殺してくれ。私は左腕で衝撃波を生み出すことができるが、その左腕も失ってしまった。私の完敗だ。早く仕留めてくれ」
「弱音は聞き飽きた、さっさと元に戻すと言え!」
俺はラデオアに激怒しても何もできなかった。剣を向けても、剣を刺しても、「私は何もできないから殺してくれ」としか言わなくなった。そして耐えられらくなったエミが無言で力強く、槍でラデオアにトドメを差した。ラデオアの呼吸が止まり、炎が燃え盛る音しか聞こえなくなった。
この戦いでアーネストリス帝国の兵士2000人が戦死、国民3500人が死亡、3分の2以上の家屋が全壊した。城も半壊し、さらには政治家や王子、王女が犠牲となり、国としてもシステムも壊滅した。また、この戦いによりラデオアが存在しないゼルガンドは諸国の軍隊により解体され、奴隷が解放された。解放された奴隷は諸国の孤児院に引き取られた。国のシステムが崩壊したアーネストリス帝国は隣国のディール共和国の住民投票により吸収された。そして俺達7人は功績を称えられ、ディール共和国の名誉貴族として就任した。しかし俺達には貴族として一生何もせずに呑気に生活するわけにはいかない、まだやるべきことがある、旧アーネストリス帝国の復興やゼルガンドの影響によって増え続けた不正ギルドや山賊から国民を守るために戦い続けると決めた。ラデオアと決着しても、俺達の人生は決着しない。ここから、また始めよう。