第十二話 地獄へのカウントダウン
目を覚ますと時計の針が朝8時を示していた。すぐに制服に着替えようとベッドから体を上げると、枕の下にメモが置いてあった。はがきサイズのメモ帳の切れ端には、
「東條翔吾、助けてくれ」
と赤いインクで大きく書かれていた。アリアかエミか、それともエレアノールか?文字は判読が難しいほど荒々しく書かれており、絶体絶命な状況だと感じられた。これは何を意味しているのか、ゼルガンドが世界を掌握する気配を感じたのか、それとも既にゼルガンドの支配下に成り下がったのか?俺には何ができる、だが考えても分からない。頭を抱え込み、ベッドから立つことができなかった。制服に着替えず、ただ一人で頭を抱え考えているフリしかできなかった。
何もせず、答えが出ない答えを考えているとき、スマートフォンの着信音が鳴り響いた。俺は学校に遅れたから先生から指導の電話かなと呑気に考え、嫌々と電話に出た。しかし、これが大間違いだった、メモの意味と『魂の管理者』を結び付けて考えていなかった......。
「東條翔吾、俺の支配下に落ちろ!」
重々しい雰囲気を醸し出すような低い声でゆっくりと話し始めた。それと対象に俺は地声より高い声で焦って早口で話していた。
「どういうことだ?俺に何の用か?いたずら電話ならやめてくれ!」
「ゼルガンドの支配下になれ!要件は以上だ」
「だが俺は起きている、夢の世界に入っていない」
「安心しろ、今から君の魂を夢の世界に縛り付ける。君は今後、この世界の朝日は拝めない、地獄へようこそ!」
「何が目的だ!俺を使って何をするつもりだ!」
「短期決戦だ!君の友人の有栖裕美もこの電話を受け取り、そして君の仲間の魂も俺の支配下に落ちた!」
「つまり、アーネストリス帝国の統治が正常に機能していない今、俺達を倒せばゼルガンドがアーネストリス帝国、そして『夢の世界』全体を支配できる、ということだな!」
「さすがファンタジー部の副部長さん、有栖部長よりも察しがいいな。だからゼルガンドのために犠牲になれ!」
ゼルガンドの最大の敵は俺達しかしないらしい、俺達が負けたら俺の魂は消える、そして魂が抜かれる事件がまた発生してしまう。もう友人が突然いなくなる現象は見たくない!覚悟を振り絞り、スマートフォンを強く握り、電話口で叫んでしまった。
「いいさ、戦ってやる!だが一つだけ教えてほしい、お前はオデオアか?」
「お見事、大正解だ。夢の世界で直接お会いしよう、君たちの魂の抜け殻を拝めることを楽しみにしているよ!」
ラデオアであることが分かったが、すぐに体の神経が抜け、カーペットに頭をぶつけてうつ伏せになった。
数十秒の間、何もない真っ暗な空間から光が差すと、城が全壊したアーネストリス帝国の姿があった。俺は既にエルディアとしてこの地に立っていた。周りを見渡すとアリア、リル、クラーラ、エミ、デグロード、メルマールの姿が瞳に映った。信じたくなかったが、ラデオアの電話は本物だった。俺は思わずメルマールではなく、
「有栖先輩!」
と思わず叫んでしまった。心臓の鼓動が高鳴り、集中できない。
「大丈夫わよ、私は大丈夫」
声を震わせながら「大丈夫」と繰り返し呟いて返答した。有栖先輩もこの電話を受け取り、恐怖を感じているに違いない。同様にアリア、リル、クラーラも恐怖で不安に怯えた表情で全身が震えていた。しかしエミとデグロードは彼女らと違い、ゼルガンドに対する怒りに満ちていた。エミとデグロードは不安や恐怖ではなく、復讐に燃えた全身の震えだった。
「エミさん、デグロードさん、今は私達しか戦えないでしょう」
「十分だわ、ゼルガンドを倒せるなら魂を捨ててもいい!もう魂の奴隷は二度と起こさせない!」
「ああ、邪悪な魂の管理者ラデオアにはご退場願おう!」
俺は剣を構え、俺たちの周囲を囲んでいるゼルガンドの下っ端に、声が枯れるまで叫び続け剣を振った。
「ラデオアを早く出せ!」
「雑魚はいらない、リーダーを出せ!」
「ラデオア、逃げる気か!」
「道を開けろ、下っ端のくせに邪魔するな!」
所持している剣は最も勢いよく輝きを放っており、まるで日光のような目を瞑りたくなるほど眩しい光だった。剣を振ると下っ端は防御しても剣の威力に耐えられず、血を流しながら空を舞い、頭から地面に落ちた。次々に下っ端は抵抗するが、輝く剣の威力には一切抵抗を受け付けなかった。俺は魂の声と共鳴して剣を振っている感覚だった、『早く早く!』と一緒に心の中で叫んでいた。
エミもデグロードもアリア達を守りながら必死に戦った。エミは「消えろ!」と叫びながら槍を振り回して下っ端から剣を振り落とし、次々に槍で無抵抗の下っ端の腹を深く刺し続けた。槍も柄は真っ赤に染まっていた。
デグロードは何も叫ばず、アリア達を襲う下っ端に狙いを定めて戦い続けた。大剣で下っ端の頭を粉砕するかのように頭に重低音が響くほど叩きつけ、さらには別の下っ端にはわざと足に大剣を叩きつけて立てないようにする、大剣をハンマーのように使用する戦闘スタイルで戦っていた。
それを何十分も見ていたアリア達も気を引き締めた。クラーラは戦闘要員ではないため、
「後方から敵が来ますよ!」
「すぐに手当てしますよ!」
「メルマールさん、リルさんの傷の手当の時間を稼いでください!」
と叫び応援しかできなかったが、アリア達を活気づけた。
アリア、リル、メルマールは後方で手数を重視して戦った。とにかく魔法や弓、銃を撃ちづづけた。魔力が切れたらリルとメルマールが戦っている間に休み、矢や銃弾が切れたらクラーラにリロードしてもらう。アリア達は接近戦ができないため、アリア達で考えた結果これしか作戦がなかったが、作戦は成功した。炎の弾を発生させる魔法を何度も打ち続けて下っ端の鎧を溶かした。矢と銃弾で下っ端の手足や頭を貫き、下っ端の戦力を減らしていった。また弾が当たらなくても、下っ端の集中力を削ぐことに成功し、その後接近戦が得意な3人によって、弾に意識が向いている間に後ろに回って剣や槍で体を貫いて倒すことができた。
戦闘から2時間後、およそ千人規模の大戦闘が終結した。下っ端全員を倒すことができたが、俺達7人は立っているだけでも辛い状況に立たされていた。剣や槍は刃こぼれが激しく使い物にならない。矢や銃弾も残り数発しかストックがない。魔法を唱えられるアリアも顔が真っ青になり、魔法を唱えるために必要な集中力や精神力は尽きていた。クラーラは無傷だが、武器を持ったことがないため戦えない。俺やエミ、デグロードはまだ戦えるが、全身には無数の傷が残っていた。この戦闘で全員が心身共にボロボロになっていた。このままではラデオアに戦えない、だが、
「皆様、随分苦労しましたね。大丈夫ですよ、これからが地獄へのメインディッシュですよ!さあ一緒に遊びましょう、東條翔吾さん!」
絶望な状況下でゼルガンドとアーネストリス帝国の命運を懸けた戦いが始まってしまった。