第十一話 陰からの訪問者
しかし幸福な時間はある集団によって打ち消しされた。再び、あいつらが姿を現すとは誰もが思わなかった。7人が喜びを分かち合っているとき、俺たちは無防備だった。特に城内の警備を考えていなかったことを最も悔やんだ。なぜなら俺達は城内にいなかった、警備のデグロードが不在であっても回避できなかった事態であった。俺たちは城内に戻るまで、絶望を知らずに手を繋ぎながら歩いていた。
ドラゴンを倒した後、俺達は呑気にドラゴンの皮を剥ぎながら、
「今日の夕食はドラゴンのシチューで決まりだな」
「えー、昨日はドラゴンのステーキだったじゃん。今日はドラゴン以外の食べ物が食べたい。クラーラさん、お願い」
「アリアさん、ドラゴンの肉が食品庫から溢れるほど保存されていますのよ。しかも今日もドラゴンの肉を持ち帰るのですよ。早めに消費してもらわないと困ります」
「クラーラさんが言うなら......」
「それじゃあ、異論はないな。クラーラさん、シチューをお願いします」
「はい、喜んで」
と笑みが溢れるクラーラとアリアと他愛もない話を続けていた。ドラゴンの皮と肉を持ち帰る準備をし、城に帰還しようとしたが、一人の少女が駆け寄ってきた。少女は大粒の涙を流し、青ざめた表情をしながら唇を震わせていた。少女の服の一部が焼けていた。
「逃げて下さい、城に戻らないでください!」
「何が起こったんだ、教えてくれ」
「ゼルガンドが襲ってきました!あなた達を探しに来たそうです!」
「住民の被害は!?」
「家が焼かれ、兵士が何百人も倒れ、奴らを止められず、何もないです......」
俺とエミの目が合った。
「俺とエミだけが城に向かう。みんなは逃げろ!隣町の高台の広場で合流しよう。急いで逃げろ!」
俺とエミはすぐに城に向かったが、デグロードが2人の前に立ち塞がった。
「いいえ、あなた達が行きなさい。アリア、リル、クラーラ、メルマールを守れるのはあなた達しかいません。私にはそのような戦闘能力はありません、時間稼ぎという技術しか持っていません」
「だが、1人で立ち向かうのは無謀すぎる!メルマールもいるし、アリアだって一人前......」
「エルディア様、あなたはラデオアを倒す義務があります。ここで倒れてはいけません!」
「デグロード......一緒に逃げないか?ここで仲間を失いたくない」
「いいえ、私には城内を警備する義務があります。私は覚悟を決めました。どうぞご無事で、エルディア様、あなたのおかげで改心しました」
デグロードは考えを一切変えないような雰囲気を醸し出していた。俺はデグロードの思いに折れた。
「また会おうな、どうぞご無事で」
デグロードを見送った後、知らせを教えに来てくれた少女がメルマールに抱き着いていた。震える声で
「助けて!助けて!」
と何度も叫んでいた。少女の悲鳴をずっと眺めていることはできない。ただ崩壊する国を抵抗せず傍観することはできない。全てデグロードに押し付けるのは無理だ、騎士団が国民を捨てて逃げるなんてできるわけがない。
俺は高台ではなく城へと足を向けた。もう行くしかないと覚悟を決めた。しかし小さな手が俺の腕を掴んだ。
「1人で行くつもりなの?私達はどうするの?」
「アリア達は逃げろ、俺だけが行く」
「エルディアさん、少しは仲間を頼ってよ!私達も行くわ」
「無茶だ、アリア達では敵わない相手だ。危険すぎる」
エミが軽く肩を叩いた。
「落ち着け、エルディア。君を見殺しにできないよ、仲間なんだから」
「エミさん、みんなが倒れる光景を見たくないんです。だから......」
「君だけがボロボロに倒れている光景を私達も見たくない。デグロードも同じはずだ。私たちは全員覚悟ができている」
リルが小さく頷く。
「みんなと一緒に国を取り戻したい」
メルマールも頷く。
「ゼルガンドを滅ぼすのは私達の役目、一緒に戦いますよ」
クラーラも頷く。
「怪我の手当てしかできませんが、最大限皆様のために奉仕します」
もちろんアリアも頷く。
「国の危機を放っておけない、みんな行きましょう!」
メルマールはクラーラに泣いている少女を預け、城へと向かい始めた。ドラゴンの皮や肉は捨て、歩きながら武器を磨き、戦闘への準備を始めた。彼らの目は復讐に燃える目になっていた。
城門を潜ると、百人程度の兵士が大量の血を流し倒れていた。既に地獄絵図と化していた。ゼルガンドの下っ端のような長身の男が俺達を見つけると、
「敵発見、急げ!」
と叫びながら剣を頭上で振り回した。するとすぐに千人程度の下っ端が剣を携えながら長身の男に集まった。長身の男が俺達に向かって走り出すと、奴らも俺達に向かって走り出した。
冷静になれ、と心で何度も唱え、みんなに指示を出した。
「アリア、リル、メルマールは遠距離からの攻撃をしてくれ。メルマールはアリアとリルを頼みます。俺とエミさんは接近戦で戦います。クラーラさんは少女の安全の確保をお願いします」
俺とエミは奴らに立ち向かい、武器を取り出した。エミは槍で奴らの腹を深く突き刺し、その後奴らの体に蹴りを入れて槍を引き抜いた。さらには剣を槍の柄で防御し、奴らの足を蹴飛ばして体を転がし、仰向けになっている奴らの腹に向かって勢いよく刺した。
リルはアリアと協力して攻撃し始めた。アリアが魔法で炎の塊を生成し、矢と合成した。リルがその矢を引き放つと、奴らの目の前に頭上よりも大きい炎の渦が体を飲み込んだ。さらにリルが矢にクラーラから受け取った回復薬を矢に結び付け、俺とエミに引き放った矢を通して渡してくれた。
メルマールは全神経を集中させながら銃を握り、俺達の攻撃を邪魔をする奴らの頭を打ち抜いた。メルマールが所持している銃は狩りの際にクラーラから受けとったドラゴン退治専用の銃だった。ドラゴンの厚い皮を貫通する銃は人間には高威力だったが反動が大きいため、アリアの魔法で弾丸の軌道修正をしてもらいながら戦っていた。
俺はドラゴン狩りの際に使用した大剣しか所持していなかったが、この剣も突然光りだした。おそらくゼルガンドの憎しみから生まれた光だろう。この光は俺を包み込み、体が軽くなり、大剣を片手剣のように戦うことができるようになった。片手で奴らの体を切り裂き、剣を弾き飛ばした。さらに奴らが落とした片手剣を拾い、片手剣で剣を弾きながら大剣で装甲も全身も切り裂く戦闘スタイルになっていた。
そして一時間後、長身の男だけが生き残った。顔色は青ざめ、全身が震えていた。手から剣が落ちそうになるほど手が震えているほど、恐怖を感じていた。彼は震える左手で笛を持ち、力一杯吹いた。その瞬間、音が消えた。
「リーダーは誰だ?今の笛は何だ?」
「私がゼルガンドの副将軍のアドナスです。私達の降参の笛です。今から撤収します」
俺は大剣の刃を奴の首に向けた。
「お前だけは逃がさない。一歩でも動いたら切り裂く」
「はい......」
奴から生気が消えたように感じる声だった。
「ラデオアはどこにいる?おまえたちの目的は?」
「ラデオアの居場所は分かりません、魂の管理者なので恐らくこの世界にはいないでしょう。私達はゼルガンドの将軍から命令を受けただけです」
「将軍の居場所はどこだ?」
「教えられません、いや魔法の手紙を通して命令が受け取ったので、将軍の居場所は分かりません」
「お前は何も知らないのか」
「はい......」
「ふざけるな!」
俺は抑えきれず、奴の腹を切り裂いた。
この国にはゼルガンドの姿がいなくなったが、被害が多く残った。約半分の兵士が戦死、3分の1の国民が死亡、城や家は炎に飲み込まれた。足を引きずりながら生き残ったデグロードが質問した。
「騎士団としてできること、まずは国の再建からやり直しますか?」
「ええ、ゼルガンドが再び襲ってきても国民を守れる強固な国に!」
俺とデグロードは目を合わせた。




