第十話 仲間と一緒に
ベッドから体をゆっくりと起こそうとした瞬間、目の前が真っ白な空間に包まれた。さらに体は何者かに力強く押しつぶされるような感覚が襲い、手足が一切動かせなくなった。体の自由は一瞬でなくなり、時が流れる感覚しか伝わらくなった。俺は純白の世界に取り残されたまま、何も抵抗できずに時間だけが過ぎていった。目を瞑ったら魂が吸い取られてしまうと思い、白色しか映らない黒色の瞳を開け続けていたが、瞼も強引に閉じられてしまった。そして煌びやかな世界から漆黒の闇に閉じ込められた。
半透明の水色のタイルの上に倒れていた俺の目には、赤色のドレスを着たエミさんが慈愛に満ちた優しい顔で、俺の顔の目の前で座っていた。
「良かったよ、目を開けてくれて」
彼女は胸に手を当てて、ほっとした表情を見せた。左手で俺の体を何度も擦りながら、俺の回復を待っていたと思われる。
「ごめんね、私たちのせいで君に大変迷惑をかけてしまった。もう取り返しのつかないところまで来てしまったかもしれない。エルディア、君が必要だ」
俺は水色のタイルの上で棒のように、ただ倒れているしかなかった。手足や口も動かせない。エミさんに質問攻めにしたいと思っても、音が出せない。エミさんの独り言を永遠に聞くことしかできない。
「エレアノールに無理矢理、君を寝かせてしまった。メルマールも寝かせた、どうしても二人にお願いがあってここに来させてしまった、自分勝手で申し訳ないね。
君たちが来てから、私たちの世界が変わった。政治的や軍事的な意味ではないわ、生活を良い方向に変えてくれた。アリアやリル、クラーラの表情が君たちが来てから明るくなった。彼女らはいつも寂しそうな表情しか見せてくれなかったけど、君たちの力は想像以上に凄いよ。自信を持っていいわよ。
だから、この世界を嫌いにならないで欲しい、この世界にずっといて欲しい。ゼルガンドやラデオアによる問題は数多く抱えているけど、それ以上に君たちが私たちの目の前から消えることがずっと怖い。悪が一切世界よりも、笑顔がない世界がずっど嫌だ。何が何でも君たちが欲しい」
エミさんの目から大粒の涙が溢れ始め、耳元に小声で優しく囁いた。
「ゼルガンドを倒さなくてもいい。エルディア、私たちと一緒に、これからもお願いします」
「もちろんですよ!」
「当たり前じゃないですか!」
声が塞がれていたのだが、俺の口から心の声がはっきりと漏れた。さらに俺の後ろには、メルマールが腰に手を当てながら立っていた。
「エミさん、この世界をハッピーエンドしましょうよ!私はゼルガンドの恐ろしさを知っただけで、簡単に逃げないですよ!」
「俺もですよ!この世界をもっと探求したいです、ゼルガンドに負けてられませんよ!」
エミさんが膝をついて泣いていると、アリアとリル、クラーラが泣きながら集まってきた。陰から俺たちをみていたのだろうか。しかしメルマールは想定外の行動に出た。メルマールは腕を組み、格好をつけながら勝手に指揮を執り始めた。
「全員集合したわね!今日のことは一旦忘れて、獣狩りに行くわよ!みんな、武器と食料を忘れずに庭に集合よ!」
「え?」
俺を含めて全員が呆然とメルマールを見つめていると、さらに声を張り上げて指を指した。
「速く準備しなさい!獣が逃げるわよ!ほらエルディアもすぐに立って、急ぎなさい!獣は私たちを待ってくれないわよ!」
メルマールだけが駆け足でエレアノールが作り出した空間から抜けるが、俺たちはメルマールが意図していることが分からず突っ立っていた。でもメルマールの行動の意味が分かるかもしれない、俺はメルマールの勢いに敗北した。
「クラーラさん、武器の準備をお願いします!エミさんは長剣、アリアはロッド、リルは弓かな?俺には大剣を貸してください!」
その後、俺たちはメルマールの無茶な行動に負け、全長10メートルのドラゴン狩りに付き合わされることになった。メルマールはアリアとリルには後衛で無理せず頑張れと応援していたが、エミさんと俺には
「もっと前に出なさい!前衛が頑張らないと誰が頑張るんですか!」
と煽りながら応援し続けた。メルマールは戦闘に参加せず、応援するだけの後衛以下の役割だった。
仕方なく俺とエミさんはドラゴンと戦うことになった。真っ赤に染まるドラゴンにゆっくり近づき隙を伺うが、突如として大地を燃やす勢いの炎を吐き、辺り一面が炎に包まれた。背後は炎に囲まれ、三人の姿が見えなくなった。逃げ道も一切ない。俺はエミさんに呟いてしまった。
「ごめんなさい、俺の友人のせいでエミさんが大変迷惑をかけてしまいました。もう取り返しのつかないところまで来てしまいました。エミさん、あなたが必要です」
エミさんは頷き、長剣を力強く握り、戦闘態勢に入った。優しい瞳から狩人の瞳に変わった。
「一気に行くわよ。遅れるなよ」
エミさんは勢いよく駆け抜け、勢いが増す炎の攻撃を避けながら、ドラゴンの腹に長剣を突き刺した。ドラゴンはダメージを負い、炎を吐き続けながら暴れまわった。
「エルディア、さっさと片付けるわよ!」
俺もドラゴンが暴れまわっている間にドラゴンの腹に潜り込み、大剣を力一杯振り上げ、ドラゴンの腹を大きく切り裂いた。ドラゴンは大きな悲鳴を上げながら倒れこんだ。
アリアが水を放つ魔法で消化すると、三人が大きく手を振りながら俺たちの無事を喜んでいた。城で待機していたクラーラとデグロードも慌てている表情で駆けつけ、みんなの無事を安心していた。俺とエミさんは五人の無事を確かめた後、同じことを同時に呟いてしまった。
「メルマールが恐ろしい!」
しかし俺はメルマールに感謝している。再び7人が一緒になった。