第九話 みんなの願い
「メルマール様、はじめまして。まだこの世界に慣れていないと思いますが、私が誠心誠意支えますので、ご安心してください。それと今日から私達と生活する仲間を紹介いたしますね。私は皆様の身の回りをお世話いたします、メイドのクラーラと申します」
「獣狩りの見習いハンター、アリアよ。お姉さん、何か困ったら私に相談してね!よろしくね!」
「リルです。よろしくお願いします。私もメルマールさんのために頑張ります」
「さっきも自己紹介したが、私がリーダーのエミだ。アリアの師匠であり、貧乏なハンターだ。だけど私たちは急激に変わってしまったな。私たちはただの仲間ではなくなった、騎士団としての仲間になってしまった。私はゼルガンドによって多くの仲間を失った、そして今も時間の経過と共に魂が失われていく。私はこんな残酷な世界を平和な世界に変えたい。だから、エルディア、メルマール。すまないが私のため、仲間のため、そして自分自身のために戦ってくれ!」
「エミさん、もちろんです。エミさんと一緒にシルバーオークや山賊を退治させたときと同じように、ゼルガンドを倒しましょう」
「ええ、私もです。まだこの世界には馴染めませんが、ある人からこの世界の悲劇や恐ろしさを知りました。ゼルガンドの脅威に怯える生活をなくしたいです。足手まといになるかもしれませんが、私も戦わせてください」
「大丈夫だよ、メルマールさん!アリアがついているよ!足手まといにならないよ!」
「私も出来る限り援護します。メルマールさん、リルも応援します」
「私はメイドですので戦闘に参加できませんが、疲れたときや悩んだときは私がサポートします。戦闘以外で役立てるようにクラーラも一緒に頑張りますよ」
「リーダーとして責任を持ってみんなを導く、それが私の使命だと思っている。ゼルガンドを解体させるために、平和な暮らしを実現させるために、全てを懸けて戦うつもりだ。そうだよな、副リーダーのエルディア!」
「そうですね、エミさん。俺はまだこの世界をよく知らないが、こんなに酷い世界だとは思っていなかった。光を拝めない地獄のような世界だとは思わなかった。俺は光を拝みたい、奴隷がいない世界を見たい。これが俺の願いだ、だから副リーダーのエルディアとしてみんなに頼みたい。今後厳しい道を進んで行くと思うが、一緒に戦ってくれるか?」
「当たり前だよ!決して諦めないわよ!ね、リル!」
「うん、私もエルディアやみんなの為に戦うよ」
「メイドですが、私も皆様を陰ながら日々応援いたしますよ」
「私もです!まだ戦闘は未経験ですが、みんなと同じ道を歩んで行きたいです」
「もちろん賛成だ、エルディア。君の期待に応えられるように、リーダーの役目をしっかりと果たしたい。今は城外でモンスターや山賊を一生懸命退治しているデグロードも同意見だ。みんなの思いは同じで良かった」
「エミさん!やっと願いが叶いそうだね!」
「そうだね、アリア。やっと希望が見えてきたね。でも安心できない。敵は何者なのか分からない。私たちは絶望に追い込まれるかもしれない。だけど1つだけ言っておく、騎士団は1人でも欠けてはいけない。危なくなったら絶対に逃げる、犠牲なんて見たくない。これが私との約束だ。以上、騎士団結成式終了!もうエルディアとメルマールは時間だし、これで解散にしよう」
「あの、エミさん。俺とメルマールがここから魂が離れるとき、俺やメルマールの肉体はどうなっているのですか?」
「魂が抜けて、肉体は動かない状態だ。無防備になってしまう。ただし奴隷は例外だ」
「何が例外なのですか?魂は肉体から抜けますよね?」
「残念ながら不正解だ。ラデオアは現実世界の魂を奴隷の肉体に永久的に結びつけた。現実世界は2度と楽しめない、死ぬまでずっと奴隷生活を続けるだけだ。アリア、リル、クラーラには悪いが、話を続けさせてもらう。奴隷はゼルガンドが所持していている工場で武器や防具、日用品などを生産する為に働いている。生産した品物は山賊や不正ギルドに格安で販売して稼いでいる。その他にも不正ギルドからの危険な依頼を奴隷にやらせるなど、無茶苦茶すぎる組織だ。格安で大量生産するために奴隷には一切寝ることを許さず、一瞬でも休んだら深い傷跡を与える。クラーラ、申し訳ないが腹を見せてあげてくれ」
「ええ、本当にここは地獄でした。生きた心地が全くしない、何のために生きているのか分からないくらい恐怖に怯えていました」
「嘘だろ、剣で腹を切り裂くなんて!こんなに深く傷をつけて!」
「見たくない!嘘であってほしい!」
「残念だが、事実だ。アリアとリルも同様に深い傷を負っているが、これで分かっただろう、ゼルガンドの怖さを!そして3人はもう現実世界に帰れない、ラデオア以外の魂の管理者でも元に戻す事はできない、絶対に!」
「私は背中に大火傷の跡があるわ。エミさんがいなかったら、私は死んでいたと思う」
「私は太腿に刃を刺されました。怖くても、逃げ出せなかったです。エミさんがいなければ、アリアと同じように死んでいました」
「もういい、見せないでくれ!」
「もうやめて!これ以上見たくない!」
「我慢してください!2人に現実を見せたかったのです。本当の怖さを、そして私が話すことも事実です。私は現実世界では高校生活を送っていましたが、8月31日、私の人生がどん底に落ちました。暗い闇の中で穴を掘り続ける、ゼルガンドの為に24時間ずっとです。一瞬でも手を休めれば殴られ、蹴られ、体はボロボロです。この腹の傷は手が持ち上がらないほど傷だらけの私に、他の人よりも成果が上がっていない為に罰せられ、鋭い剣で傷をつけられました。それがこの傷です、立ち上がれないほど呼吸ができないほど苦しかったです。けれど奴らは休憩を絶対に与えません。謎の薬を強制的に飲まされ、苦しいのに無理やり立たされ、仕事を再開させられます。大量に血が流れても働かされます。アリアとリル以外の殆どの奴隷は私の目の前で倒れ、しかしすぐに肉体が動き始めました。こんな人生は嫌です、だけど魂は現実世界には返してくれません。きっと現実世界の私の肉体は2度と目を覚まさないでしょう。だからエルディアさん、メルマールさん、私からの願いです。私の為に、高校生活を存分に楽しんでください!お願いします、本当にお願いします!」
「はい」
「分かりました」
「最後に後味が悪い話をしてしまってすまない。これがゼルガンドの実態なんだ。だから君たちが必要なんだ!私からもお願いだ、明日もここに来てくれ!」
「お兄さん、お姉さん、お願い!」
「お願いします」
「もちろんです。仲間ですから」
「ええ、ついていきます」
「ありがとう、明日もここで待っている。今日はありがとう、おやすみなさい」
俺は7時40分に目を覚ました。枕は大量の涙で濡れていた。