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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第七十五話「迫るもの」

「ほれ、治ったぞ」


「ありがとう」


 リナの部屋を出た後、運良くリウンにバレずに家を出てそのまま魔法の使える場所に着くと早速彼女は僕に「回復魔法」を施してくれた。

 その結果、僕の傷は直ぐに治った。


「本当に「回復魔法」ってすごいな……」


 改めて、僕は彼女の「回復魔法」の力に驚かされた。

 あの城での地獄の一ヶ月の間、彼奴らに嫌がらせ同然の「回復魔法」を使われ傷は治ったが痛みは取れなかったが、ウェニアのものにはそれがなかった。


「まあな。

 だが、人間相手に多用は禁じ手だ」


「……え?」


 彼女の口から聞き捨てならない言葉が出てきた。


「え?「禁じ手」?どういうこと?」


 不穏なその物言いに僕は不安になって詳しいことを訊ねた。


「生けるものの身体は「細胞」といった小さなものの集まりらしく、その「細胞」には寿命が定められているらしいな」


「あ!?」


 何となくだけど、彼女の言いたいことが何なのか分かってしまった。


 そ、そういえば……

 なんか、細胞には「テロメア」て言うのがあってそれで寿命が決まるんだっけ……


 細胞には分裂できる限度があるというのはよくSFものでは出てくる話題だ。

 所謂、老化はそれが限界に来ていることで生じるらしい。


「多少の怪我は未だしも重傷や大怪我を治すとなるとその分、細胞の寿命も大分減ることになるぞ」


「!?」


 その衝撃的な事実に僕は背筋が冷たくなり、パニックになりそうだった。

 あの城で僕は魔法の実験体に等しい扱いを受けていてその度に「回復魔法」を受けていた。

 もしウェニアが言っていることが事実ならば僕の寿命は大分削れている可能性があるのだ。


「ま、貴様は大丈夫だろうがな?」


「え?」


 そんな恐ろしい事実に暗い未来などと言った言葉よりもそもそも未来がないために真っ暗闇しかない様な不安を感じていると彼女はまるで問題がないような口調で言ってきた。


「大丈夫って……気休めはいいよ……」


 僕は自分の寿命が削れていたかもしれないという絶望でその言葉がただの気休めにしか聞こえなかった。

 今まで死にそうになったことはあったが、それらは一瞬の出来事でその瞬間を乗り越えればそこで終わるものだった。

 けれども、今回は違う。

 既に寿命という人に与えられたものが奪われてしまっているのだ。

 そのどうしようもないものが失われるという絶対的な事実への向き合い方がわからなかった。


「気休めなどではない。

 魔力のある貴様は「回復魔法」を使ったとしても魔力が新たな細胞を生成し寿命が減ることはない」


「え?魔力が?」


 しかし、ウェニアは真っ直ぐな目で僕に纏わりつく不安を否定してきた。

 魔力が細胞を形成する。

 そんな自然の理を度外視したことがあり得るのだろうか。


「魔族や幻想種といった高い魔力を有する者は回復魔法を使っても保有する魔力が新たな細胞を形成し、老いが早まることはない。

 だから、人間や他の生き物よりも長く生きられるのだ」


「そ、そうなんだ……

 あれ?じゃあ、ウェニアて大体幾―――」


「それ以上言うと、これからは痛みありの回復魔法しか使わんぞ」


「―――何でもないです」


 魔族は不老かもしれない。

 その事実からふと気になってしまいウェニアに年齢を訊ねた結果、笑顔で次から痛みを伴うやり方で回復魔法を使うと言われて訊ねるのをやめた。


 い、意外に気にしてたんだ……


 我ながら今の質問はデリカシーの欠けた質問だったが、ウェニアがそういうことを気にしてたのは意外だった。

 ウェニアのことだから、こういったことは気にしないと思ってしまっていた。


「ごめん」


「……フン」


 いや、それでも失礼だよね……


 よく考えなくても女性に年齢のことを訊ねるのは失礼なことだ。


「……あれ?

 じゃあ、魔族って―――」


 反省し少し落ち着いてから僕は気になることが出来てしまった。


「―――死ぬことって少ないの?」


 それは魔族が回復魔法の代償を受けないことから死亡率が低いかもしれないと言う推測だった。

 今までは抽象的に何となく、魔族というと人間と比べると長生きだというイメージしかなかった。

 しかし、ウェニアの今の説明から具体的な魔族の生物としての特徴を聞かされてそれが明確なものとなった。


「そうだ」


「道理で王国の連中が藁にも縋る気分で異世界から勇者を呼ぶわけだ……」


「?藁にも?」


「あ、どうにもならないからなんにでも縋りたくなるって意味だよ」


「そういうことか」


 王国が魔王軍に負けているのは単純に魔法とかの戦力の差だけではなかった。

 魔族の生物としての生命力の差もあったのだ。

 王国が命を懸けてもあっちは傷を治して直ぐに戦線に復帰してくる。

 まさに悪夢としか言いようがないだろう。


「ところでだ。

 本当に貴様は何なのだ」


「え?」


 そんな風に魔族の生物としての強さに驚愕していると彼女は僕に『お前は何だ』と訊ねてきた。

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