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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第六十六話「ケジメ」

「ガルァ!!」


―喰ラウゥ!!―


「!」


 僕が近付くと魔物は獲物だと見て、いや、ただ飽くことのない食欲を満たすために跳びかかってきた。

 それを見て、僕は抜いていた「テロマの剣」を直ぐにそのまま刀身が魔物の胴に当たる様に押し当てる様に構えて前に進んだ。


「ギッ!?」


―喰ラッ!?―


 「テロマの剣」は何時もの様に魔物の身体を骨が無い様な切れ味で命を奪ったことすら理解させない程簡単に切り裂いた。

 ただ僕が命を奪ったという結果だけを残して。

 しかし、今はそんな感傷や罪悪感、嫌悪感に浸っている余裕なんてなかった。


「グルァ!!」


―クラゥ!!―


 最初の一頭を倒すとそれを皮切りに次々と魔物が姿を現し、そのまま襲い掛かってきた。


 多い……!!


 さっきまで、いや、今も自らの複数の人間という餌がいるからなのか、今まで以上の魔物が現れた。


 僕は死なないかもしれないけど……


 襲い掛かってくる魔物たちの攻撃を避けながら、その爪の鋭さが鳴らす音が耳に入り続ける中、僕はおかしいと思いながらも今の自分が死ぬ可能性が低いことを理解している。

 それは決して、過信でも何でもない。

 「テロマの剣」の自動防御に加えて、ウェニアに言われた通りに「強化魔法」で最低限の物理耐性を展開し、残りを俊敏性だけに注ぐ。

 その結果、避けるのも受けるのも僕は対策が取れている。

 だから、死ぬ可能性は低いだろう。


 でも……今はそれだけじゃいけないんだ……!


 少なくても、自分の身の安全は確保できている。

 ただ今は自分の身を守ることだけを考えるのはだめだ。


「ギッ!?」


―喰ラっ!?―


 また一頭殺した。


「グルァ!!」


―喰ラウ!!―


 それでも魔物は死を恐れずに、いや、死を知らずに前に出る。

 それを見て僕はまたしてもただ刀身を押し当てる様に構えて前に出る。


「ギッ!?」


―喰ラッ!?―


「グルァ!!」


―喰ウ!!―


 一頭殺してもまた一頭、いや、次々と魔物は現れる。

 その度に僕は初心者でも分かる程に剣の使い方として、邪道な構えで魔物を両断していく。

 けれども、そんな戦い方なのに魔物は死んでいく。


 殺さないと……守れないから


 もし自分が一人ならば僕はこのまま逃げに徹すればいいだろう。

 けれども、それでは魔物たちを素通りさせて後ろにいるウェニアたちを見捨てることになる。


 自分のことだけじゃダメなんだ……!


 僕はリナの命を救う選択肢を選んだ。

 そして、その分、守る力を弱めてしまった。

 全て僕の責任だ。

 その分を穴埋めする必要がある。

 だから、攻め続けなくてはならない。


「ギッ!?」


―喰ッ!?―


「グルァ!!」


―喰ウ!!―


 落ち着け……

 落ち着くんだ……


 同時に僕は決して、興奮して感情を爆発させて「テロマの剣」のあの力を使わない様にした。

 あの力は強力だが、同時に魔力の消耗も激しい。

 そうなれば、ここで勝てても森を抜ける処か、リウンの家までみんなを守り切る力も失ってしまう。

 だから、少しでも感情を抑えて冷静になる必要もある。


 約束したから……


 本当はこんな戦いは直ぐに終わらせたい。

 でも、僕はウェニアに託されると共に約束したことがある。

 彼女は痛みを知りながらも踏みつけながらも前に進んでいこうとする。

 そんな彼女に僕は『君が踏みつけてしまうものを少しでも減らしていきたい』と約束した。

 リナの生命とリストさんの心は彼女が捨てていたかもしれないものだった。


 ここで頑張らなかったらそれこそ僕は口先だけの人間になる……!


 彼女に頼まれ、そして、彼女と約束した。

 それを破ったら、僕は本当に口先だけの人間に成り下がる。


「っあ!!」


「グラァ!?」


―喰ウゥ!?―


「グアァ!!」


―喰ウ!!―


 何よりも僕はリナの生命を見捨てたくない。

 見捨てられるという事は本当に辛いことだ。

 そこにある孤独はこの世の全てを呪ってしまえるほどに苦しく冷たい。

 僕は偶々ウェニアに救われたけど、あれは本当に二度と味わいたくないと思えるほどだ。

 そんな見捨てられることの苦しみと悲しみを知るからこそ、僕はリナに、いや、他の誰にもその中で命を落として欲しくない。

 そして、少しでもそこから誰かのことを引き上げることが出来るなら引き上げたいと願ってしまっている。


 だから、負けるわけにはいかないんだ……!!


 ここで負けたら、それこそその約束も願いも無意味になってしまう。

 そんなのは嫌だ。

 臆病で優柔不断で弱い僕でも譲れないものがある。


「ギッ!?」


「ギャ!?」


「はあはあ……!」


 既に数頭殺した。

 もう十数頭以上殺してきたはずだ。

 なのに胸に不快感と恐怖感、そして、動悸の様なものを未だに抱く。


「ガルッ!!」


―喰ラウ!!―


「っ……!」


 そんな僕の事情や心情など知らずに、いや、知っていたであろうと仲間の仇や憎しみの感情や感傷もなく、自分の飢えを満たすことも考えずにただ生きている生きている餌を求めて魔物は襲ってくる。


「……ぁ!」


「ギッ!?」


―喰ラッ!?―


 僕はまた襲い掛かってきた魔物を殺した。

 あっちが襲ってくるから殺す。

 ただ後ろにいるみんなと、そして、自分の交わした約束と誓いを守りたいという自分の意思で殺していく。


 誓いとか、約束とか……

 そんな綺麗な言葉で言い繕えるなんてことはないのは解かってる……


 亡骸も消え、血すらもなく、ただ殺したという感情と瞬間しか残らないが、それでも自分のしでかしていることを自覚しながら僕は殺し続ける。

 「約束」と「誓い」を果たしたいのは本心だけどそんな綺麗な言葉は今の僕に不釣合いなのも理解している。

 でも、だからこそ言い訳にしたくないとも感じている。


 これは僕のわがままだから……!!


 本来なら助けることの出来ないリナを僕は助けたくて無理を言った。

 戦うのが嫌だったら見捨てればいい。

 でも、それが出来ないからこそここで頑張らないといけない。

 その結果、苦しむことになった。

 それは当然の結果だ。

 なら、そのけじめを付けられるのは僕だけだ。


「グルァ!!」


―喰ラウ!!―


「たぁ!!」


「ギッ!?」


―喰ッ!?―


 それに……僕一人が苦しむだけで他の誰かを守れるのなら……

 相手には悪いけど……安いものだよ……


 自分で生命を奪っているのにそれを安いものだと思うのは狂っていると自覚しているし最低だと思う。

 だけど、僕が苦しむだけで他の誰かの涙を少しでも止められるのならそれでいいと不思議に思ってしまっている。


 本当に……ウェニアに会えてよかった……


 もしあの地下迷宮で一人孤独で朽ち果てていたら、僕はただこの世の全てを憎んで他人のことなんて考えることも出来なかった。

 それはとても嫌な最期だと今なら理解出来る。

 少なくても、この場で誰かの為に尽くせるというだけでも、あの時、ウェニアに救われたことは本当に価値のある瞬間だと思えてしまう。


「グルァ!!」


 まだ来るか……


 幸いまだ後ろに魔物たちを通していないが、それでも、魔物たちは次から次へと現れてくる。

 どうやら、この辺り一帯の魔物たちが集まっているのだろう。


 それでもここから先は……!!


 僕はここから先は通すつもりはない。

 今、それが僕がするべきことと出来ることだからだ。

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