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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第六十一話「目的と動機」

「ユウキ。

 我らの目的は分かっているな?」


「うん。リストさんたちの救出とリウンにルズたちを近付けないことだよね?」


「キュル!」


 村から森に入り、リザと合流してから「強化魔法」を行使する前にウェニアに今から僕らがすることを確認させられて僕らはリストさん親子を助けることでリウンの下へとルズたちを近付けない様にすることだと答えた。


「……少しだけ違うぞ、ユウキ」


「え?何が?」


「キュル?」


 しかし、返って来たのは否定の言葉だった。

 僕は何が違うのかを知る為に彼女に訊ねた。


「我らの目的は奴らに奪われた金貨を取り戻すことも含まれている」


「あぁ……うん……

 それは何となくだけど……」


「キュル……」


 ウェニアの答え合わせに僕とリザは悲しいことに納得してしまった。

 ウェニアからすれば、契約を反故にされたのだから金貨を取り返すのは当たり前のことだろう。

 彼女が単純に慈善を動機にして動くのはないだろう。

 それは彼女がケチや悪人だからという意味じゃない。

 それだけの為に周囲を危険な目に遭わせまいとしているからだ。


 まあ、佐川みたいに感情だけで動かないだけいいけど……

 でも、金貨一枚の為にしては大袈裟だね……


 しかし、その算定は採算が取れない気がする。

 金貨一枚の為にそんな危険を冒す価値があるのだろうか。

 世の中には『金は命よりも重い』なんて言葉はあるけど、彼女からすれば無数にある一枚の金貨に過ぎない。


 ということは……

 ある程度はリストさんたちやリウンの為でもあるんだろうな……


 たった一枚の金貨の為に動くにしては割に合わない。

 それはただ合理性を重んじる彼女にしては不釣り合い過ぎる選択だ。

 そうなると、今回の彼女の目的や動機には契約を破られたことへの怒りだけでなく、リストさん親子やリウンを助けようとしている気持ちも含まれているのかもしれない。


「どうした?

 何か嬉しいことでもあったのか?」


「……何でもないよ」


 少しそれを考えて顔を綻ばせていたらウェニアに気付かれた。

 もし今、考えていたことが当たっていたらちょっとだけ嬉しい気がしたからだ。


 そうだったらいいかな……?


 ただ、今はそうだと思いたかった。

 そうだったらいいからだ。


「まあ、よい。

 ユウキ、リザを肩に乗せろ」


「うん。リザ、確り掴まっていて」


「キュル!」


―ウン!―


 ウェニアは少し訝し目に言いながらもそれ以上は追究せず出発を告げた。


 今度は離さない……

 それと、リウンには近付けさせない……!!



 ユウキめ……

 我に善意があると思っているな……


 我はユウキは先ほど見せた嬉しそうな顔を見て奴が何を思っているのか何となく理解出来た。


 甘いぞ……貴様は……


 奴は我が善意で動いていると考えている。

 しかし、実態は違う。


 ケルドに渡した金貨も我の策略のうちであるしな……


 我が金貨をケルドに渡したのは彼奴が村の為に食糧を買う人間だと踏んだからに過ぎない。

 それはあの村を救うためなどではない。


 ……あの村の者が市場の麦を買い続けることで麦の価値が高騰するからな


 我がケルドに金貨を渡したのはあの村がこの辺りの麦を買うことでこの地方一帯の麦の値を上げることが目的だ。

 そうすることであの村を除くこの辺りの食糧難を深刻化させることが可能だ。

 そうなれば民の不満は大きくなっていく。

 財力とは時として敵を戦わずして弱体化させる一手となるのだ。


 人は満足に食べることが出来なくなるだけで簡単に他者への憐憫を忘れ、牙を剥くからな


 この村でもそうであったが人は満ち足りていれば、余程の者でなければ悪に走る者は少ないし、事を起こす者もいない。

 しかし、逆境に遭えば仮令、親子ですらその例外ではない。


 かつての……私のようにな……


 それは我が己の身を以て知ったことだ。


 だからこそ、あの親子が……羨ましいのかもな


 同時にあの親子の姿が我には眩しかった。

 この辺り一帯に「森の魔女」と呼ばれる畏敬の念を持たれる魔族の存在があるが、それでも「魔族の子」を我が子に持ちながらもその子供を捨てぬ親と捨てられない娘は我から見ても珍しいものだ。


 この森の特異性から見てもリウンは無事だろうな


 もう一つ、ユウキは勘違いをしている。

 恐らくはあの連中はリウンの下へと辿り着く前に死ぬことになるだろう。


 『すまん』か……

 ケルドめ、察していたな


 ケルドは別れ際に謝罪してきた。

 それはルズたちが生きて帰ってこないことを理解していたのだ。

 その罪を我らが被ることも意味しているのだろう。


 何れにせよ、ユウキの心が折れないうちにあの親子を助けなくてはな


 ユウキはまだこの世界で、いや、恐らくは故郷でも直接人の死を見ていない。

 だからこそ、魔物すらも殺すことを躊躇う。

 もし、ここで自分が助けようと思った人間が死ねば折れる可能性がある。


 進化の士気も守るのもまた……王の務めか


 今いる数少ない臣下であるユウキの心を守るのは王である我の役目でもある。


 我がすべきはただそれだけ。

 それ以外に……ユウキの感情を優先させる道理もないのだがな


 ユウキは戦力としては「テロマの剣」を使える魔力の質と量を持ち、魔物と会話出来ること、多少なりに鋭い目を持っていること、我を含めてたった三人しかいない戦力の中の一人と言うだけだ。

 その一人にこうまでしてやる必要性があるかは悩むところであるのも事実だ。


 この執着こそが我の過ちであり、弱さかもしれんな……


 我がある程度、彼奴に目を置いているのはレセリアに多少似ているところがあるのもある。

 千年前にテロマに敗れた理由だと言うのに同じことを我はしようとしているのだ。


 だが、覚えておけ……

 何故、我がレセリアを遠ざけたのかを……


 ただそれ故にその様な人間が何時か知るであろう苦痛と後悔、憎悪に対してどう向き合うつもりだろうか。

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