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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第五十五話「冷徹」

「ぐぅ……」


「ケルドさん!」


「長老!?

 ルズ、お前ぇ……!!」


 ルズたちが僕たちに提示してきた取引材料。

 それはケルドさんという人質だった。


「何て酷いことを……!!」


 服に血が染み渡り所々破れボロボロになり、加えて僕たちが見える範囲でも血と痣が見え、加えて意識がはっきりしていない様子からケルドさんがルズたちに袋叩きされたのが窺えた。

 ここまでの非道を行った連中に僕は怒りを覚え叫んだ。


「うるせぇな!

 おい、お嬢ちゃん。とっとと残りの金貨も寄越しな。

 それと坊主、その剣もな」


 ルズの要求はさらに厚かましくなり有り金に加えて、「テロマの剣」も寄越せと言ってきた。


 こいつ……!!

 いや、こいつら、なんて奴らだ!!


 はっきり言うと僕はこの男と他の連中のことも良く知らない。

 しかし、少なくても普段からリナとリストさんを虐げ、加えて、欲望のままに本来ならば支え合うべき同じ村の住民痛め付ける様な真似をしたことからこいつらが腐りきってるのが感じ取れた。


 いくら自分たちが苦しいからって……いくら何でもこれは……!!


 ケルドさんに彼らがしたことを見て僕は怒りを募らせた。

 同時に


 集団で一人を痛めつけるなんて……!!


 あの城で僕が受けた数々の痛みも思い出した。

 ケルドさんにこいつらがしたことは僕があの城で受けたことと変わらない。

 余りにも酷過ぎる。


 こいつら……!!


 怒りの余り、罪悪感や恐怖感を忘れて僕は連中に斬りかかりそうになった時だった。


「……それで?」


「え……」


 しかし、そんな僕とは裏腹にウェニアは興味がなさそうにそう言った。


「ウェニア……?」


 僕は彼女のその耳を疑う様な言葉と声音が信じられなかった。


「え……いや、だから、こいつを助けたいな―――」


 ルズは人質に使っているケルドさんを気にも留めないウェニアに改めて、ケルドさんを人質にしていると脅してきた。


「だから?」


「―――え?」


 しかし、改めてそのことを指摘されてもウェニアは『それがどうした』というニュアンスで返すだけだった。


「うぇ、ウェニア……?」


「ウェニアさん?」


 ルズたち村人だけでなく、僕とリストさんまで彼女の言動に疑念を抱いた。

 一体、彼女は何を考えているのだろうか。


「確かに其奴には一宿一飯の恩があるが、それだけだ。

 どうして、我らがその者を人質に取られたことで貴様らに金貨を与えなくてはならんのだ?」


「え!?」


「な、何だと!?」


「ウェニア!?」


 ウェニアはケルドさんを助ける義理がないと暗に示した。

 その人間味のない冷たい発言に全員が衝撃を受けた。


「ちょっと、ウェニア!?

 何を考えているんだ!?」 


 ウェニアの言動の真意が掴めず僕は彼女に噛みついた。


「今は黙っていろ、ユウキ」


「っ!?」


 けれども、帰って来たのはただ『黙って従え』という彼女の態度だった。

 今まで向けられたことのないほどに冷たいその言葉に僕は何処か裏切られた気分になってしまった。


「で?それ以外はないのか?」


「え……」


 ウェニアはそれだけを言うと、もう用はないと言い、もう興味がないと言わんばかりだった。


「……どうやら、その様子だともう何もない様子だな。

 行くぞ、ユウキ」


「え!?」


 ルズたちが呆気に取られているとウェニアはこんな状況にも拘わらず出発すると言ってきた。


「ちょっと、ウェニア!?」


 いくら何でも冷たいとかそんな範疇を超えたウェニアの言動と態度に僕は抗議した。

 確かにケルドさんやリストさん、リナと出会ったのはつい最近だ。

 しかし、それでもここまで他人事で済ませようとする彼女の姿勢に耐えられなかった。


「貴様にも目的があるであろう?

 それを忘れるな」


「ぐっ!?でも……!!」


 しかし、ウェニアは僕に元の世界への帰還と言う目的がある事を引き合いに出してこれ以上、引き取めることを制した。

 僕は彼女のその言葉に何も返せなかった。


「……さっさと来い。

 置いていくぞ」


「う……」


 ウェニアはそのままこの家、いや、村から出ていこうとした。

 間違いなく、彼女はこのままそれを実行するだろう。


「……邪魔だ。退け」


「!?」


 ウェニアのその人質を意に介さない様子に不穏なもの、いや、命の危機を感じ取ったのかルズたちは徐々に道を開けた。


 どうすれば……


 僕は躊躇っていた。

 このままケルドさんを手当てをせず置いて行けば彼は間違いなく死ぬことになる。

 最悪なことにその怪我を治せるのは恐らくウェニアだけだろう。

 そのウェニアがこの場を去ってしまった。

 しかも、もし僕らがこのまま去っていけばこの場にいるリストさん親子がどうなるのかわからない。


「お兄ちゃん……?」


「っ……!?」


 どうしてケルドさんがあんな目に遭っているのかすら分からないでいる程に事情が飲み込めない中でも、この場に漂う不穏な空気とルズを始めとした普段から自分を虐げてくる大人の存在に不安を感じリナは僕に縋る様に声を掛けてきた。

 そして、その僕の手を握ってくるその小さな手に少しがずつだが力が入ってきているのが感じ取れた。

 それは『行かないで』という声に出ていない彼女の叫びだった。


「……早くしろ」


「っ……」


 何時までもこの小さな手を振り払えないでいる僕を彼女は急かしてきた。


 置き去りにするのか……?

 こんな……子供を?


 あの迷宮で周囲に置き去りにされたことを思い出して僕はこの手を振り払えない。

 もし、この子を見捨てたら僕は一生後悔することになる。


「……手間のかかる奴だ」


 僕の煮え切らない態度に痺れを切らし、ウェニアは身体の向きを変えて僕の方へと近づいてきた。


「ごめ―――」


 ウェニアの指示通りに動けなかったことに僕は謝ろうとした時だった。


「―――ぐっ!!?」


「「「!!?」」」


 突然、僕の腹に強くて重い痛みが走った。


「うぇ、ウェ……ニア……?」


 自分に何が起きたのか分からず、彼女の顔を覗き見ようとしたが角度的に死角になっていことや視界がぼやけ始めたことから彼女が何をしたのか分からなかった。


「……手間をかけさせるな……

 この馬鹿者……」


「う……」


 彼女のその一言を最後に視界が真っ暗になり周囲からの情報を入れることが出来なくなり、そのまま僕は痛みすらも消えていき何も感じなくなった。

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