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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第四十七話「漂う悪意」

「あと少し……!

 あと少しだ……!!」


 リウンの家を出てから道中の魔物を殺しながらも僕たちは彼の村へと進み続けて、ようやく彼の村の近くに来たらしい。

 リストさんは娘を助けられることへの期待感と間に合わなかったらという焦りから声を震わせていた。


 頼むから間に合ってくれ……!


 そのリストさんの娘を必死さに僕は間に合って欲しいと願った。


 ……今は……それしか祈ることが出来ないから……


 一日目の夜にウェニアに言われて彼女からの指示以上に殺すのは止めている。

 でも、果たしてそれが正しいのかはわからない。


 きっと何時か……

 僕を憎む誰かが来るんだろうな……


 ウェニアは『許しを求めるな』と言った。

 それは自分のしたことに言い訳をするなということだ。

 相手に自分の悲しい身の上等で同情を誘うなということだろう。

 きっと、何時かは僕のせいで大切な誰かを奪われた人間が復讐の為に訪れるだろう。

 その時、僕はその正しい憎悪にどう向き合えるだろうか。


「やっと着いた……!!」


「!?」


 リストさんは少し開けた土地に出ると、興奮気味にそう言った。


「村の近くか?」


「ああ!

 この道は村に続いている!!

 あと少しだ!!」


 嬉しそうにリストさんはウェニアの問いに答えた。

 どうやら、この獣道でもない整備された道は彼の村に続いているらしい。


 よかった……


 これから自分が向き合っていかなくてはいけない道について答えは出ていなくても、今はリストさんの娘を助けられそうな希望が繋がってくれたことに僕は安堵した。

 まだ彼の娘を助けられるか決まった訳でもない。

 だけど、希望は残っている。

 それがここまで嬉しいものだとは思いもしなかった。


「村だ!!

 お~い!お~い!!」


 リストさんは村をを見かけると村へと駆け寄り、精一杯の声を出して村の人々に自分の存在を確認させようとした。


「!?リスト!?

 無事だったのか!?」


「ああ!なんとか!」


 リストさんの姿を目にして村人の一人がまるで死人を見るかの様な目をしていた。


 それだけ危険なんだ……

 森と魔物って……


 村の人の反応から彼らにとって魔物がどれだけ恐れられているのかを改めて確認させられた。

 彼らにとって魔物の存在とは出会えば死に直結するものなのだ。

 きっと僕が魔物を殺すことに一々、苦しむのは彼らにとっては異端だろう。

 そんなことは理解しているつもりだった。


 ……せめて、リザだけは守らないと……


 彼らが魔物を恐れることは決して間違っていない。

 それでもせめてリザだけでも守り切らないといけないだろう。


「あの子たちが助けてくれたんだ!!」


 リストさんはそう言って僕らが自分を助けてくれたことを明かした。


「そうか……

 それよりもリスト!リナちゃんを!」


「!?」


「リナは大丈夫なのか!?」


「いや、良くも悪くもなっていない!

 戻って来たってことは薬草を持ってきたんだろ!?

 早くいってやれ!」


「ああ、わかった!」


 村の住人に言われてリストさんは彼らとの再会を直ぐに済まし、病気の娘が待つ自宅へと向かった。


「あ……」


「行くぞ、ユウキ」


「う、うん……」


 初めて、この世界で目にするコミュニティともいえる村に僕は少し戸惑いながらもウェニアに促されて入っていくことになった。

 確かに旅行等では見知らぬ街に出向くことはあるけれども、今日は少し違う気がした。

 少し、僕は村の人たちのことをチラッと見まわしてみた。


 う……まさに余所者を見るかの様な目だ……


 村人は初めてリウンと会った時とは異なり、僕らのことを奇異の目か怪訝な目で見ていた。

 恐らくだけれども、この村は余り外部との交流は盛んではないらしい。


 て、よく考えたら……

 この面々て目立つよな……


 思えば、僕たちは目立つ。

 今さらだが、まるで中世ヨーロッパとよく似たこの国では現代日本人の僕は目立つ。

 それにウェニアも百人いれば百人が美人と答える様な見た目だ。

 リザも大きなトカゲということでかなり目立つ。


「あんたら、リストを助けてくれたのか?」


「え……あ、はい……」


 そんな風に自分たちの存在が異質な存在であることを否応にも意識せざるを得ないでいると村人の一人が声を掛けてきた。


「そうか……

 リストは妻を失ってから娘を第一にしか考えられなくなって色々と危ういところがあった……

 ありがとう」


「!

 どういたしまして」


 どうやらこの人はリストさんと親しい人らしくリストさんが無事に帰って来たことを喜んでいるらしい。

 それを聞いて、僕はまたしても複雑な気持ちになったが同時にこの人にとって親しい人を守れたことに安堵した。

 その時だった。


「余計なことを……」


「え……」


 今、僕が会話していた人とは異なる誰かから忌々し気な呟きが聞こえてきた。

 僕はその言葉の意味が分からず、その呟きの主を探そうと辺りを見回した。


「あ……」


 すると、僕たちのことを先ほどの言葉を漏らしたことを隠そうとすらしていない忌々しさと奇異とか怪訝とかを通り越した嫌悪と敵意を込めた目で見つめている何人かの集団がいた。


 何だ……?


 どうして、初対面の人間に不信感ならともかく、嫌悪と敵意を向けられるか分からず、彼らのその様子に僕は疑問を抱いた。

 別に余所者だから、好意は持たれることなんてないし、何かしらの抵抗感を持たれることはある程度、許容は出来た。

 それでも、あの人たちの一言がどうにも引っかかってしまった。


『余計なこと』って……リストさんを助けたこと?


 彼らの言う『余計なこと』という事柄について当てはまることがリストさんを助けたことぐらいしか思いつかなかった。

 しかし、それだと本当におかしい。


 どうして、リストさんを助けたことが『余計なこと』になるんだ?


 まるで、リストさんを助けたこと彼らにとっては都合の悪いことにしか感じられず、どうしてそう思えるのかが理解出来なかった。

 いや、違う。

 理解したくなかった。


「あの―――」


 僕は少し嫌な予感がしたが、念のために確認しようとしたが


「何をしている。ユウキ」


「―――え」


 ウェニアに遮られてしまった。


「早くしろ。

 彼奴を見失うぞ」


「え?あ、ちょっと!?

 ウェニア!?」


 その何とも言えない疑念に明確な答えを得られず、僕は彼女に引っ張られて連れ出された。

 ただ、何となくだけ、僕は僅かながらに悪意に似たようなものを感じた、

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