第四十二話「一時の出会いと別れ」
報告です。
男性の娘の名前ですが「リ……ン……」だとちょっとミスリードになるので名前の変更と修正させていただきました。
すみません
「えっと……君が俺を助けてくれたのか?」
「え?あ、はい……ウェニアと一緒に……」
リウンと再会の約束をしてから一夜が経ち、朝となり僕は初めて昨日助けた男の人と顔を合わせた。
「友樹って言います。
よろしくお願いします」
「あ、ああ……
よろしく。俺はリスト」
「……?
あの……どうしたんですか?」
軽く自己紹介をすると目の前の男性、リストさんは少し戸惑っていた。
どうしたのだろうか。
「いや、何というか……丁寧だな?と思って」
「……え」
意外な一言だった。
「君ぐらいの少年でこんな風に話に入るなんて中々なくてね。
随分と確りしているな……と」
「え?」
どうやらリストさんは僕が挨拶をいつも通りにしたことに驚いているらしい。
こんな当たり前なことで褒められるとは思わなかったので僕は思わず混乱してしまった。
普通だと思うんだけど?
初めて会った人。それも年長の人なんだから礼儀正しく振舞うのはごく当たり前のはずだ。
余りにも予想外だった。
いや……でも割とウェニアに対して失礼なことしていたな……僕……
よく考えてみなくてもウェニアは年齢からはそうは思えないが、甥がいるぐらいの年齢のはずだ。
ただ追い詰められていたとはいえ、ウェニアに対してかなり礼儀に反することを初対面でしていたことを思い出して、今更ながら少し後悔している。
……割とこういうことで人の本質って出るのかも
あの時、僕は追い詰めれていて尊厳などもこの世界に来てから失っていたので全てを呪ってもいた。
裏切られことへの怒りや憎しみはあったことは否定しないが、でも、それを他の人にまでぶつけるのはただの八つ当たりだ。
もしかすると、この人のことを素直に見れなかった可能性もある。
もし、リザの言葉やウェニアがいなかったら……
全てが敵に思えるようになったかもしれない
あの時、僕はリザの『憎い』という心の中にある感情を知ってそれで相手を知ろうとすることが出来、『痛い』という叫びで相手が殺しに来る存在だけと簡単に片付けずに済んだ。
そして、ウェニアがいなかったらそもそも僕は無念のままに死んで全てを呪っていた。
……何か、ゾッとするな……
生まれて初めて僕は他人を憎んだり、恨んだりすることへの恐ろしさを知ることが出来た。
「どうしたんだ?」
「え!?あ、す、すいません!」
目の前の男の人は僕が怨むことへの恐ろしさを認識して黙り込んでいると気になったらしい。
それに対して、僕は咄嗟に謝ってしまった。
「……?どうして謝るんだ?」
「え……」
そんな僕の反応を見てリストさんは妙に思ったらしい。
その後
「……君はいい子だね」
「……?」
リストさんは穏やかな表情で僕にそう言った。
「いい子」なんて言葉は子ども扱いされているような気がしてむず痒い気分がするが、それ以上に僕はこの世界に来てから初めて見た普通の大人の人の穏やか表情に呆気に取られてしまった。
もし助けなかったら……この人のこの一面を知ることも出来なかったのか……
未だに魔物を多く殺してしまったことへの悔いは残っているし、いい訳なんかも出来ない。
だけど、この人を助けなければこの人との出会うこともなくこの人の一面を知る機会もなかったことをを僕は理解させられた。
人を助けるのに理由なんていらないし、助ける人のことを選ぶのは間違っているかもしれない。
でも、僕はこの人を助けられて良かったと感じている。
「ありがとう」
「………………」
リストさんは僕に『ありがとう』と言ってくれた。
その言葉だけで僕は報われた気がした。
「ユウキ。挨拶は済んだのか?」
「あ、ウェニア」
「君は……」
そんな風にリストさんとのやり取りをしているとウェニアが話に入ってきた。
どうやら、僕とリストさんが少しでも交流を深めるのを待っていてくれたのだろう。
「キュル」
―ユウキ―
「おっと。リザ、危ないだろ」
「キュル……」
―ゴメン……―
ウェニアの肩に乗っていたリザが僕の下へと跳び込んできたので僕は危ないと思って注意した。
「……リザ?そのトカゲの名前かな?」
「あ……」
リストさんは僕がリザのことを名前で呼んだことを不思議に思ったらしい。
マズイ……リウンはともかく、他の人に僕が魔物と会話できるなんてことを知られればマズイ……
リウンはまだ僕が魔物と話せることに関してはただ珍しいことぐらいに思えるぐらいに微笑ましく見ていた。
だけど、魔物が恐怖の対象であるこの世界の人間にとっては僕の存在は異端だろう。
リストさんが善人だとしてもリウンと同じ様に冷静でいられるかはわからない。
「はい。リザって名前です」
「へえ~。よく懐いているな。
トカゲってこんなに頭がいいのか」
「う~ん。どうかな……
鳥が恐竜だったてことは聞いたことはありますけど……」
「え?竜?」
「……あ」
僕は人間以外の生物の中では比較的に高い知能を持つ生物である鳥が爬虫類である恐竜から進化したことをつい口に出してしまった。
しかし、恐竜がこの世界で知られていないどころか存在すらしていたのか不明の中でこの発言は迂闊過ぎた。
「竜が鳥になったて……
竜の方が賢いんじゃ?」
「え、えっと、その……」
僕はなんて説明すればいいのかわからなかった。
そもそもダーウィンが提唱した「進化論」は割と人類の歴史の中でも最近になって出てきたものだ。
「進化」という言葉自体がこの世界にあるのかすらわからない。
そして、今わかったことだが、どうやらこの世界には「竜」がいるらしい。
しかも、かなり賢いらしい。
「あ~、すまんが。
其奴の故郷ではそういった学説があったらしいぞ」
「!」
僕がどう対処すればいいのか困っているとウェニアがまたしても助け舟を出してくれた。
「学説……?
じゃあ、君は学者や貴族の子供なのか?」
「え!?
いや、そんな大層な生まれの人間じゃなくてただの一般人です!!」
「あ、あぁ……
そうなのか。しかし、それなのにそんなことを知っているなんてすごいなぁ」
「う……」
僕の世界では小学校の図書館にある図鑑などで読めば誰でも知っていることを口に出したら、リストさんは僕が貴族や学者などの上級階級出身だと勘違いし始めたので僕は慌てて否定した。
それにこの世界に恐竜がいなければこんなことはただの妄想に等しい。
本が高過ぎるんだから仕方ないか……
思えば、この世界では知識を受け継いでいき広める記録媒体である本がとんでもなく高価なんだから教育そのものがかなり貴重なのかもしれない。
マズいな……色々と……
再び自分がしてしまった僕の世界での『当たり前』を無自覚に口走ってしまう悪い癖を自覚した。
もし、今はリストさんだから感心してくれるだけだがこのまま直せなければ周囲から酷い疑いの眼差しを向けられる可能性がある。
「あ、お兄さん」
「……!リウン!」
そんなぎこちなさが生じている中、リウンが家の中から出てきて僕らの方へと駆け寄ってきた。
その顔には屈託など全くなくただ年相応の明るさに満ち溢れていた。
「見送りに来てくれたんだ」
「うん!それと薬とお昼のアドも持ってきたよ!」
「本当?ありがとう」
「どういたしまして」
どうやら、リウンは僕たちを見送りに来てくれたらしい。
例の薬と昼食のアドを持ってきてくれたらしい。
「君が……この家の家主なのかい?」
「え、えっと……どうだけど?」
どうやらリウンとは初対面であるらしいリストさんは僕と、いや、僕たちと同じかそれ以上の反応をしていた。
やっぱり、こんな森の奥に子供が一人で暮らしているのはこの世界の人間にとっては僕たち以上に驚くべきことなのかもしれない。
「薬は君が作ってくれたのか?」
「え……?うん……」
リウンは見知らぬ大人であるリストさんに対して少し怯えていた。
だけど、僕はリストさんが目線をリウンに合わせる為に屈んだことで彼がリウンを傷付けることがないと理解出来た。
「ありがとう」
「ど、どういたしまして……」
リストさんはただお礼を言うだけだった。
そこには相手のことを奇異の目で見るのではなく、純粋に病気の娘の為に薬を作ってくれたへの感謝が込められているものだった。
その姿を見て僕は再びこの人を助けられて良かったと感じた。
そして、
「リウン。必ずもう一度この家に来るよ。
ありがとう」
僕はリウンに別れを告げた。
「うん!また来てね!
お兄さん!!」
「ああ、約束だ!!」
リウンは再会を期待する喜びに満ちた満面の笑みでそう返した。
そんな彼の笑顔が見えなくなるまで僕は手を振り続けた。




