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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第四十話「支える者、導く者」

「………………」


「キュル……」


―ユウキ……―


 リザに散々、弱音を泣きながら漏らし続けた後、僕はボーっとしているしかなかった。

 元々、することもなかったけど今は本当に何かをしようとする気力も湧いてこない。

 それまでまでに疲れているのだろう。


「ユウキ。入るぞ」


「……ウェニア?」


 そんな風に塞ぎこんでいるとウェニアが僕を呼びに来た。


「……どうしたの?」


 ウェニアは僕が声を返すとすぐに部屋に入ってきた。

 いつも通り、僕の意思などお構いなしに。


「……あの男が目を覚ましたぞ」


「……!そう……」


 ウェニアからあの男の人が一命を取り止めたことを知った。

 でも、喜ばしいことのはずなのに僕はそれを喜べなかった。


 駄目だよなぁ……本当に……

 助けたかったから殺したのに……

 僕は……


 自分が他の生命を奪ってでも守った生命が助かった。

 それなのに僕の心は晴れない。


「ユウキ。一言言わせてもらうぞ」


「……何?」


 そんな僕のウジウジした態度を見て、ウェニアは思うところがあるらしく何か言おうとしてきた。

 でも、『ウジウジするな』とか、『前を向け』と言われても僕はウジウジしたままだ。

 それだけ今回のことは怖くて仕方がないのだ。


「貴様の救った生命だ」


「………………」


 そんな僕にただそれだけをウェニアは告げてきた。


「……でも」


 ウェニアの言う通り、結果的に僕はあの男の人を助けたのかもしれない。

 でも、それが事実であることを理解しても自分の殺意のままに殺してしまったことが怖かった。

 そんなことで帳消しになるようなことじゃない。


「……貴様はあの男とその娘の生命を救ったのだぞ?」


「え……娘……?」


 いきなり出てきた「娘」という言葉に僕の拒絶が一瞬だけ止まった。


「そうだ。

 あの男がこの様な森に入ってきたのは病の娘に薬草を取りに来たらしい」


「何だって……!?」


 あの人がわざわざ森の奥まで入ってきたのは病気の娘の為だったらしい。

 その結果、魔物に襲われることになり死にかけたらしい。


『……リ……ナ……』


 あの名前は……子供の名前だったんだ……


 あの男の人が死にかけていた時に呟いた名前は娘の名前だったのかもしれない。


 もし、僕たちが助けなかったら……その子は父親を失っていたのかもしれない……


 少なくても、僕たちが助けなければあの男の人の娘は父親を亡くしていて、娘も死んでいたかもしれない。


「……ユウキ。

 この家を明日には発つぞ」


「……!」


 ウェニアは僕にこの家を明日には出発することを告げた。


「あの男は今にも娘の為にと、家を抜け出しそうだ。

 我らもそのついでに出ていくぞ」


 あたかも彼女は娘の為に一刻も早く帰ろうとする男の人を助けるかの様にと説明した。

 でも、僕は


「……何か理由があるの?」


「………………」


 どうしてあの男の人と一緒に出発することを彼女が提案したのか気になってしまった。

 こう思うのは人としてどうかと思うけど、彼女にとってはあの男の人はどうでもいい存在のはずだ。

 何故ならば、彼は彼女にとっての民でも臣下でもない。

 彼女にとってはそれが民や臣下ならば王としての誇りから彼女は守ろうとするのが理解出来る。

 でも、彼女にとってはあの男の人は赤の他人であり、守るべき存在でもない。

 だから、何かしらの利益がないと彼女が動く理由に説明がつかないはずだ。


「……流石だな。

 そうだ。我はこの辺りの地理とこの森から抜け出す最短経路を知る為にあの男を助けようとしたのだ」


「……やっぱりか……」


 彼女の少しだけ嘘を吐いているその言葉に僕は納得した。

 彼女はあの男の人が知っているであろうこの周辺の状況と森から抜け出す最短経路の為の地理を手に入れることを目的として助けたらしい。


「それを知って我を恨むか?」


 自らの目的の為に僕を戦闘に巻き込んだことにウェニアは僕が怨んでいるかを訊ねてきた。

 今のこの状態はウェニアが原因かもしれない。

 でも


「いや……恨んでなんかいないよ」


 僕は本心からそう言った。

 彼女の目的の為に僕はあの魔物たちと戦うことになった。

 でも、それ以上に僕の今、背負っている罪悪感は僕が自分の意思であの魔物たちを衝動的に殺したことにある。

 それを理由に彼女を恨んだり、責めたりするのはお門違いだ。


 それに……あの人を助けたかったのは間違いなく僕の意思だ


 「殺意」のままに行動したのも事実だけど、あの男の人を『助けたい』と思ったのも事実だ。

 僕は彼女に押し付けられて動いたのではなく、僕自身の意思で動いた。

 なのにどうして彼女のせいなんかに出来る。


「……リザ。ありがとう」


「キュル?」


―ユウキ?―


 誰のせいにも出来ない僕の自分の望みの果てに起こした行動の結果。

 その結果、助けられた生命があったと言っても僕は正当化なんてことは出来ない。

 それでもそんな僕を支えてくれる存在と導こうとしてくれる存在がいてくれる。

 そんな彼女たちの為に感謝することも出来ないようなことはしたくない。


「……そうか。

 少しは収まったか?」


「……少しはね」


 本当は完全には吹っ切れてなどいない。

 でもリザが僕の悲しみと苦しみを受けて入れてくれたこともあって多少は楽になった。

 それにウェニアが背中を蹴ってくれた。

 それだけでも十分に前に出なきゃいけないという気がする。

 きっと二人がいなかったら僕は心が死んでいたか、その場で蹲ることしか出来なかっただろう。


「……助けよう。ウェニア」


「………………」


 僕は今自分が何をしたいのかを言った。

 あの男の人は病気の自分の娘の為だけにこんな危険な森に入ってきた。

 なら、手遅れになる前に急がなくてはいけないはずだ。


「あぁ……それは我も望んでいることだ」


 ウェニアは完全にそのことに同意していた。

 僕は最初、自分の目的と一致しての言葉だと感じた。

 しかし、気のせいかもしれないが、彼女自身があの男の人の娘を助けることを望んでいる気がしたのだ。


「それとだ。ユウキ。

 今日中にリウンと別れを済ませておけ」


「え……」


 彼女は僕にリウンとの別れを済ませておけ、いや、正確には向き合えと語り掛けてきた。


「……わかった」


 彼女に背中を押されてようやく僕はリウンと向き合うことを決めた。

 彼女の言う通りだ。

 明日、この家を出発するということはリウンと『さよなら』をするということだ。

 でも、それは僕がよく知っている『また会おう』というものじゃない。

 もしかすると、二度と会えないかもしれない別れになるかもしれない。


 このままお別れなんて……嫌だ


 まだ僕はあの子に謝ることすら出来ていない。

 そんな状況でお別れなんて絶対に嫌だ。

 ちゃんとお別れをしてから僕は別れたい。


「ありがとう」


「フン……」


 僕は背中を押してくれた彼女に感謝をした。

 それだけが今、僕が彼女に出来ることだからだ。


「ところでリウンは何処に?」


「ああ、彼奴なら……

 驚くべきか……」


「……?」


 リウンの居場所を尋ねるとウェニアは何やら本気で困っていた。

 どうしたのだろうか。

 この楽園の様な森の奥地や彼女、いや、この世界にとっての基準では超高級品である大量の本といったこと以上に彼女を驚かせることがあるとでも言うのだろうか。


「……薬を作っておる」


「……え?」


 とても子供がやること、いや、出来るとは思えないことをリウンはしていると彼女は答えた。

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