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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第三十四話「迷いを捨てた結果」

「グルァ……!!」


―喰ラウ……!!―


「……っ!」


 僕はなるべく男の人と彼を治療しているウェニアから魔物たちを引き離すようにゆっくりと移動しながら戦い続けた。

 ウェニア曰く今の魔力の状況では「回復魔法」をしようとしている際には「強化魔法」を解除する必要あるらしく、魔物たちと引き離す必要がある。

 だけど、僕の付け焼き刃どころではない素人以下の戦い方では普通はそんなことは出来ないだろう。

 むしろ、逆に慣れない戦い方で命を落とすことになるだろう。


 だけど……っ!!


「ギッ!?」


―喰ラウッ!?―


 僕にはこの「テロマの剣」がある。

 この剣には所有者を守る能力があることから、この剣がある限り魔物たちが僕を殺すのは難しいだろう。


 頼むよ……本当に勇者の剣なら目の前の人ぐらい助けろよ!!


 はっきり言えば武器なんてものは大嫌いだ。

 以前の僕なら、博物館などに飾られている日本刀とかに美しさとかっこよさを感じただろうけど、もうそんな気にはなれないだろう。

 それが勇者の剣だろうが、英雄の剣だって同じことだ。

 誰かを助けたり、守ったり、救えないのならばそれはもうただの凶器だ。

 ウェニアにとっては大切な甥であり最愛の妹の息子の剣だとしても、申し訳ないが僕にとってはそれだけのものだ。


「ガルッ!!」


―喰ラウッ!!―


「っ!!」


「ギャッ!?」


―喰ラウッ!?―


 少し距離が取れて向かってきた魔物を一頭殺した。

 本当にこの剣は相手を簡単に殺せてしまう。


 どうして……こんなことを楽しいと思うんだよ……


 次々と魔物をいとも簡単に殺している僕はもうクラスの連中と変わらないだろう。


 全然、楽しめないよ……


 だけど、決定的に感じたのはただの疑問だった。

 殺しても、殺せても、殺し続けても高揚感なんかない。

 あるのは深まっていく自己嫌悪と高くなる苛立ちだけだ。


 こんなの……ちっとも楽しくないよ……!


 もし僕が彼らと同等の力を持っていても、彼らと同じ待遇を王国から受けても僕はきっと『こんなの全然楽しくない』と言い放っただろう。

 きっとそんな僕を彼らは『ノリの悪い奴』とか『つまらない奴』とか『お高く留まっている』とか言うのかもしれない。

 それでも僕は必ずそう言うだろう。


 だけど、今は……!!


 そんな自分にとって最悪な状況の中でも僕は守る為に戦う。

 たったそれだけだ。


「ガアッ!?」


―喰ラッ!?―


 また一頭殺した。

 この剣がどんな仕組みなのかはわからない。

 けれどもわかるのは魔物にとってはこの剣は劇薬や天敵であるということぐらいだ。


 後、四体……


 もう既に四頭殺して、ウェニアが一頭仕留めて、残りは四体だけだ。

 十分近くしか経っていないのに既に半数近くを殺してしまっている。


 早く終わらせないと……


 これだけ殺しているのに相手は引く気がない。

 ならこれを終わらせるに方法はたった一つしかない。


 全部殺さないと……


 もう戦いを終わらせてあの男の人を助けるには目の前の魔物たちを皆殺しにするしかない。

 一刻も早く、殺そうとした時だった。


「グル……!!」


―クラウッ……!!―


「っ!?

 しまった……!?」


 魔物の一体が僕に見向きもせずにウェニア達の方へと向かい出した。

 それは決して悪足掻きや破れかぶれといった人間らしい理由ではなかった。

 ただ近くに食べやすいものがある。

 たったそれだけの理由で治療に専念しているウェニアと治療されていて意識を失っているであろう狙ったのだ。


「クソッ!!」


 僕は彼女たちの下へと向かおうとした。

 しかし、


「グルァ……!」


―喰ラウァ……!―


「ぐっ!?」


 残っている他の魔物たちは見向きもしないで僕を邪魔した。

 それは連携ではなく、ただ自らの空腹を満たそうとする衝動故の行動だった。


「邪魔だぁ!!」


 助けることを邪魔する魔物を、いや、生命あるものを初めて僕は障害だと認識した。

 今までは殺すことに躊躇いがあった。

 だけど、今はただ目の前に立ち塞がる敵が煩わしくて仕方がなかった。


「助けるのを……邪魔するな!!!」


 苛立ち紛れに僕は叫んだ。

 大切な誰かが待っていることを連想させる男の人の呟きから僕は彼を死なせたくない。

 何よりもウェニアという僕を助けてくれた人が襲われようとしているのを黙っていられなかった。

 だから、僕は


 今だけは……殺すことを迷わない……!!


 今だけは自分の中の殺意を肯定した。

 それが間違ったことであることぐらい百も承知だ。

 だけれども、僕がここで迷えば彼女たちを見殺しにすることになる。

 だから、僕はそんな自己満足のための言い訳を捨てた。

 自分が綺麗でいたいが為に他人を見捨てる様な卑怯者には僕はなりたくない。

 僕が自分の殺意のままに動いている時だった。


「!?」


 突如、「テロマの剣」に向かってあの時と同じ様な力の流れが僕の身体から走った。

 だけど、以前とは異なることがあった。

 それは


「ギッ!?」


「ギァ!?」


「ギィ!?」


「ギギ!?」


「!?」


 力の流れの形と起きている現象だった。

 以前は剣先に球体の様な物が生まれていたが、今は何も見えなかった。

 しかし、それがまるで巨大な帯の様な流れをしているのかを感じ取ることができた。

 そして、それらが魔物たちに向かって延びており相手の動きを止めている力を発揮しているのを感じた。

 それは先ほどまでと同じ魔物の動きを封じている力の作用であるのは同じであったが、大きな違いはその射程だった。

 今までは至近距離の相手の動きしか止められなかったが、今は近場の敵どころか、少し離れているウェニアたちを襲おうとした魔物たちのことまで拘束している。


 どうなっているんだ……?


 今まで異なる剣の力の表れに僕は疑問を抱いた。

 その時だった。


「「「「ギッ!?」」」


「!?」


 剣から、いや、僕の腕から再び大量の力が流れていくような感触が訪れ、それは流れの延長線上に存在する魔物たちへと送り出されている様に感じた。


「「「「ギァア!!?」」」」


―喰ラウ!!?―


「なっ!?」


 魔物たちの身体がは瞬く間に切り刻まれて破片すらも破片とも言えない程に粉微塵となり消えた。


 何が……?


 魔物たちは霧散した。

 言葉で表すのならばそうなのかもしれない。

 しかし、そんな言葉で片づけてはならない事実があった。

 何故ならば


 違う……僕が……


 事情は分からないにせよ、殺したのは僕だ。

 僕は自分が望んだ通りに魔物たちを皆殺しにした。

 殺すと決めた相手に銃の仕組みが分からないけれど、引き金を偶々引いたことでその相手を殺めた。

 その殺意には何の違いも存在しなかった。

 確かな殺意を僕は抱いていた。


「ぼ、僕は……」


 生命のやり取りにもならない殺戮が終わったことと訳の分からないことが起きたことで興奮状態から抜けて冷静さを取り戻した僕は自分が招いた状況と殺意の大きさに愕然とした。


「ユウキ!」


「……ウェニア」


 思考がごちゃ混ぜになっていた時にウェニアのその叫びで僕は辛うじて意識と思考を保つことが出来た。


「早く、こっちに来てくれ」


「え……」


 彼女は僕に近くに来るように伝えた。


「この男の治療にはもう少し時間がかかる。

 だから、もうしばらく周囲を見張っていてくれ」


 まだあの男の人の治療は終わっていないらしく、僕に周囲を見張る様に伝えた。


「……わかった。今、行くよ……」


 ウェニアの指示を受けて僕は辛うじて自分がまだすべきことがあることを意識して彼女たちの周囲を見張る為に向かった。

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