第二十七話「痛みの先」
「理由は簡単だ。
火を扱う魔法こそが魔法を習い始める際には最も適切だからだ」
「火が……?」
僕の疑問に対してウェニアは火を扱う魔法が初心者にとっては最もいいと語りだした。
「そうだ。
火は電撃やら冷気やら風などと異なりただ燃やすということを意識しておけば形を固定―――
いや、燃焼しているという現象を小さいながらも維持できる。
わかるであろう?」
「……確かに火て目に見えるし、他の奴よりは小規模のものを想像できるかも……」
火はよく考えてみれば延焼さえしなければ雷やら冷気などと異なり流動的ではなくその場に維持しやすい。
それに火はライターなどを考えれば、扱うものとしては一番使いやすいかもしれない。
そういえば、昔地球の生物の進化の歴史を扱うテレビの番組で人間が文明を築いたのは火を扱えたのも大きいことが出ていた。
もしかすると、この世界でも案外火が文明の成り立ちに関わっているのかな?
ウェニアに魔法を習う初歩として火を扱うことを聞かされて僕はこの世界でも僕の世界と同じように火が文明を生み出すきっかけになったのではと考えてしまった。
火、そして、熱は人間の生活になくてはならない存在だ。
火の利便性を追求することは自然の原理を探求するきっかけになり、そして、何時しか利便性と探究心は逆転し物理現象を究明する中でそれらの副産物が日常の生活を豊かにすることになるはずだ。
そんな僕らの世界における因果関係からこちらの世界では魔法で、僕の世界では科学という大きな違いはあるけれども火が何かしらの形でこちらの世界でも文明の発展に関わっている気がしたのだ。
そういえば……この世界でも生物の進化てあるのか?
魔力というファンタジーの概念があることから僕らの世界では全く異なる文明の発展を遂げたと言ってもルーツを辿っていけば必ず何処かで「火」という存在がこの世界でも人間の進化に大きくかかわり、同時に霊長類から類人猿、そして、人類になっている可能性もある。
人間が人間である由縁ともいえる持つのならば十分あり得る話だ。
恐らく、「火」を扱う上で魔法か科学の選択肢が二つあるかないかだけがこの世界と僕の世界との違いだろう。
つまり、この世界でもダーウィンの「進化論」的な生命のルーツもあるはずだ。
そう言えば、ウェニアって本当の姿が竜の姿て言われているけど……
同時に王国側が言っていた『魔王ウェルヴィニアの正体は巨大な邪竜だ』という発言に対して僕はあることを疑問に思った。
流石に千年前のこと、それもウェニアのことを悪と断じている人間の言葉の発言なのだから眉唾物だとは思うけれど、その伝承からこの世界にも「竜」という存在の概念はあるのかもしれない。
それが恐竜的の様な実在の古代の生物から連想した空想の存在が、実際に存在している生物かわからないが。
「……わかった。
火を扱うことが魔法を習う中で初歩的なものなんだ?」
「火」から連想したこの世界の人類のルーツやそこから出てきた生物学について考えを巡らしてしまったが、とりあえず「火」が魔法を習う中で「強化魔法」と並んで重要なのは理解できた。
「そうだ。
どんな魔法にせよ、それが「超越魔法」でないのならば、全てただの自然現象の再現だ。
それを再現する魔力と理解する知恵、制御する技量、そして、維持する気力がなければならない。
「火」はそれらを鍛えることにおいては最も適しているのだ」
「そこまでなのか……?」
ウェニアが入門用の魔法として「火」が重要であることを力説していることに僕は気になってしまった。
「ああ。何せ、「火」は扱いやすい魔法であることに加えて、生き物が本能的に恐れるものだからな」
「『本能的に恐れる』……?」
どうやら『生き物が恐れる』ということも重要な要素らしい。
「さっき、貴様も「火」を見て怯んだであろう?」
「……!?」
ウェニアの指摘を受けて僕は意味を理解した。
確かに僕はウェニアが火を投げてきたことに驚き、なおかつ手に当たったことにその熱さから逃げ出した。
「「火」は恐らくだが、刺客手にも最も恐怖を与えられるものだ。
そして、その恐怖に打ち克って初めて魔法の行使に対して余裕を感じられるようになるのだ」
「恐怖に打ち克つ……」
「ああ。前にも言ったが、恐怖というものは誰もが感じるものだ。
だが、問題はそれとどう向き合うかなのだ」
「……その方法が……いや、慣れる方法が「火」なんだ……」
彼女がどうして「火」からこの恐怖に対しての考えを導き出したのか僕は少しだけだが理解出来た。
「火」は熱いからそれを前にしたら逃げたくなる。
さっき火傷を負ったことやクラスの連中に投げられたことで僕は「火」の痛みによる恐怖を知った
「火」の恐ろしさを本能的に知っていることを知った。
父さんに教えてもらった「火」の恐ろしさを僕は知識で知っている。
そして、
でも、それを乗り越えられたら……!!
ウェニアの言う「火」によって恐怖を乗り越えるという意味を理解した。
この世界では魔力の捜査と制御にはイメージが関わってくる。
イメージには想像力と集中力、精神力が必要だ。
「ようやく理解できたといった顔だな。
恐怖に耐えるということと魔力を操るという点では「火」は最も効率的な手段だ」
「………………」
そう。
「火」は危険なものだ。
でも、それを目の前にしても心を静かに保てるのならば魔法を扱える様になるということだ。
悔しいけど……
心の強さはあっちの方が上なのか……
同時に今の火傷を負った自分の心の弱さから僕は自分がクラスの人間よりも心の強さでも劣っていることを自覚させられた。
でも、負けたくない……!!
だけどそれを知って余計に強くなりたいと願った。
「火」の恐ろしさを理解した。
そして、それが一つの力であることも。
でも、そんな恐ろしいものを使うことに何の躊躇もなく、それも楽しみながら他人を傷付けることに使う様な彼らの様な人間に力の強弱ならともかく心の面で負けているなど悔しくて仕方がない。
「ウェニア……
訓練を再開してくれ」
「よいのか?痛むぞ?」
「それでもいい」
僕はこの際、痛みなんてどうでもよかった。
もう実際に痛みが来る前に痛さを恐れて躊躇するなんて馬鹿馬鹿しかった。
痛かったらそれでいい。
その時はその時だ。
「……わかった。
今からやるぞ」
「うん……!」
再び手が焼かれる襲われる。
それを想像して胸に風穴が空いた様な感覚に陥った。
やっぱり怖いものは怖い。
でも
それを乗り越えたい……!!
他人を傷付けることに喜びを感じる様な人間に負けたくないし、この痛みに負けて弱いままでいて守りたいものを守れないなんてその方が何百倍も嫌だ。
「……受け取れ」
「っ!?熱っ!!?」
再びウェニアに火を投げられてまたしても手を引っ込めてしまった。
「ユウキ。気合だけで乗り切ろうとするな!
魔力を手に纏わせる様に意識しろ」
「……魔力を?」
火傷の痛みでどうにもならないと思いながらも火傷の部分の傍を圧迫して痛みを麻痺させようとしているとウェニアは回復魔法を使いながらそう窘めた。
「先ずは火が手に当たってもいい様に手に膜が生まれる様な感覚を想像しろ。
そうすれば火傷を負うことはなくなる」
「……っ……わかった」
どうやら熱を遮断させることがこの訓練の目的らしい。
聞く分には簡単そうだけど焦りが生まれて難しくなりそうだ。
やっぱり、痛いな……!!
正確には熱いのかもしれないが結局の所痛い。
どんなに覚悟していても感覚は嘘は吐かない。
でも、その恐怖を乗り越えたい。
「次だ。行くぞ」
「……頼む」
火傷への恐怖が引いていない中、ウェニアは再び火球を繰り出してきた。
手に膜を纏わせる様に……!
僕はウェニアに言われた様にそうイメージした。




