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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第二十五話「道の数」

「ユウキ。

 早速だが「強化魔法」を使え」


「わかった」


 目的地、つまりは魔法の使える場所に辿り着くとウェニアは先ず僕に「強化魔法」を使うことを指示してきた。


「フム……

 やはりだが、今日の稽古は一時間程度か……」


「え?短すぎない?」


 僕が「強化魔法」を使用するとウェニアは目測と自分の立てていた予想が一致したらしく稽古の時間をたったの一時間と言ってきた。


「一応、僕でも「強化魔法」は二時間は継続できるよ?」


 僕は少し遠慮がちながらももう少し長く出来ることを主張した。

 どうやら僕は最初の魔力の行使で割と魔力を流せ易くなったらしく「強化魔法」を普通の初心者よりも長く使えるらしい。

 ただそれは最初の魔力の行使が無茶であったからという意味でもあるが。

 しかし今回の稽古では比較的に長く使える「強化魔法」の使用時間を彼女はその半分だと言った。

 一体、どういうことだろう。


「ああ、それはな。

 今から魔力を使用する……

 いや、使用せざる魔力の量が増えることになるからだ」


「え?何それ?」


 ウェニアのその説明に僕は理解が追い付かなかった。


「とりあえずだ。

 片方の掌を上に向けて我の前に出せ」


「わかった」


 言われるままに僕は彼女の前に右手を差し出した。


「よいか、ユウキ。

 今からその右手にだけ意識を集中させ続けろ」


「意識を?」


「そうだ。

 分かりやすく言えば、右手に力が集中する様な感じを想像しろ。

 そうするだけで、自然と魔力が勝手に集中したところに集まる」


「え?それだけ?

 割と単純なんだ」


 右手に力が集まる様に想像する。

 「強化魔法」の使い方を教えてもらってはいるが、そんな使い方は初めてだった。

 「魔法」という異世界の技術だから僕は専門知識が要るのではと思っていたが、ウェニアの言うそれはまるでイメージするだけでいいという単純なものの様に感じられた。


「あれ?それじゃあ、そのまま拳とかに強いイメー―――

 じゃなくて、強い何かを想像して相手に叩き込むとかすれば強力な魔法になるの?」


 イメージするだけで強力な力を現実にするという魔法の原理に僕は少し少年漫画などに出てくる必殺技みたいなものを想像してしまった。

 というよりも高校生の僕にはそういうイメージが想像しやすかった。


「いや、それをする前に満たさなければならない条件がある」


「あ、やっぱり……条件て?」


 そんな浅はかな僕の発想通りにはやはりことは進まないらしい。


「前に言ったであろう?

 炎やら雷を目の前で出すのに普通の人間が無事でいられる訳がないと」


「そういえば……」


 ウェニアが前に「強化魔法」を学ばなければならない理由を説明していたことを思い出した。

 確かに魔法は名前が魔法というだけで要するに自然現象の再現だ。

 それは裏を返せば同じ様な火災や台風、毒などと言った様に人間に危害を加えることになる。

 ライターの小さな火でも火傷するのだから自分も例外なく被害を及ぼすだろう。


「「強化魔法」で物理的な防御力も上げる必要があるんだっけ?」


「そうだ。

 それを忘れてはならない」


 危うく忘れそうになった魔法の初歩中の初歩に対してウェニアは強く窘めた。

 けれども彼女はそんなに厳しい口調で言うことはなくただ優しく指導するだけだった。


「仮にだが……

 まだ「強化魔法」を完全にこなしていないのに貴様が言った手に魔力を込める様な攻撃をすると恐らくだが、運が良ければ手首が折れるだけで済み、拳が粉々になるのがよくあること、最悪その手の方の腕が身体から引き千切れるだろうな」


「ちゅ、忠告ありがとう……」


 最後にウェニアが明かした魔力の込め方を制御できない場合を聞かされて僕はゾッとし、魔力の制御はしっかりやる決意を更に固めた。


「まあ、貴様の場合はそれはないかもしれんがな?」


「……え?」


 そんな魔法の危険な一面を語られたばかりなのに僕にはその心配がないと言われ僕は理解が追い付かなかった。


「どういうこと?」


 ウェニアのその発言は洗剤に書かれている『混ぜるな危険』という警告を実際にしても問題にならないと言っているようなものだ。

 明らかにおかしい。


「そうだな。

 この際だから言っておくが、ユウキ。

 貴様の場合は仮に魔法を使える限度を超えたとしても勝手に身体が貴様の魔力を使って「強化魔法」の調整を行うだろう」


「はあ!?」


 ウェニアが語ったのは今まで彼女が語っていた魔法に対する常識を逸する発言だった。


「いや、それだと今まで言っていたことと矛盾してるだろ!?」


「……どこがだ?」


「どこがって……

 だって、魔力の使い過ぎは危険だって―――」


 ウェニアはどうやら僕が知らなかった僕の特異体質を知っていながらも僕に『魔力を使い過ぎるな』と言ってきた。

 もし彼女が言う通りならばその忠告そのものが意味のないものになってしまう。


「いや、慣れない量の魔力の浪費が貴様にとって危険なことには変わらんぞ」


「―――?」


 しかし、ウェニアはそれを踏まえても僕にとっては魔力の使い過ぎは危険だと答えた。


「何で?だって、死んだり怪我はしないんだろ?」


 怪我をしたり死んだりしなければどうしてウェニアが「魔力」の消費をここまで戒めるのか気になってしまった。


「もう忘れたのか?

 慣れていない魔力の消費でどの様な目に遭ったのか」


「あ……!?」


 その一言だけで十分過ぎる説得力だった。


「確かに貴様の様な体質の者は魔力の暴走で死ぬことはない。

 だが、魔力の通り道が出来ていないのにそこに強い力が流れてみろ?

 どうなる?」


「そ、それは……」


 ウェニアの発言とあの激痛でようやく理解できた。

 彼女の言う通り、僕の言っていることは狭い血管に一気に大量の血液を流すようなものだ。

 そんなことをすれば身体中の血管が破裂する。


「しかも、それだけではない。

 魔力の浪費による反動が続いている中では魔法を使うことも出来ぬ。

 否応にも貴様は無防備になるのだ」


「……!」


 ウェニアの目には今まで存在していた相手をからかう様な遊びは込められおらず厳かな強さだけ存在していた。


「よいか?

 どれだけ魔法が優れていようとも寝首をかかれたり、油断していれば命を落とす時は落とす。

 それだけは忘れぬな」


「……わかった」


 ウェニアの語る魔法に対する考えから僕は圧されたが理解できた。


 危うく……

 楽な方向に行きそうになった……


 ふと我に返って僕は自分が魔力を使っても問題ないからといって無意識のうちに魔法の稽古の必要性に疑問を抱いてしまったことへの危機感を募らせた。

 それが間違いであることをウェニアが教えてくれなければ、僕は命を落としていたかもしれない。


 気を付けないとな……


 そのことに僕は案外自分が割と調子に乗ったりしやすいという短所があることに気付き、気を引き締めていこうと決めた。

 ウェニアに言われた通り、あくまでも卑屈にならない程度に。


「基本的な説明はここまでだ。

 よし、手に魔力を集中させろ」


「うん」


 魔力と魔法の注意点や行使の方法の説明を終えて彼女はいよいよ稽古に入ると告げた。


 こうかな?


 僕は彼女に言われるままに手に力、いや、むしろイメージしやすい様にオーラ的な物を纏うイメージを描いた。


「……やってみたよ?」


 イメージすることを終えて僕は彼女に準備が出来たことを伝えた。

 しかし、ただイメージするだけなので実際に出来たかと言えば難しいところではあるが。


「よし」


 それを見て彼女は僕が準備を終えたことを確認した。


「……何をするんだ?」


 いよいよ稽古が始まる。

 初めての経験に僕は緊張して少しでも内容を知りたくて彼女に訊ねた。

 すると


「ユウキ。

 少しばかりの火傷は覚悟しろ」


「え?」


 彼女はたったその一言そう答えた。

 そして、その直後だった。


「!?」


 彼女がそう言うと彼女の右手に燃え盛る火の玉が生じた。


「ほら、持って見せろ」


「えっ!?ちょっと!?」


 そして、そのまま彼女はそれを僕の方へと何の躊躇いもなく放り投げてきた。

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