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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第一章「王との契約」
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第三話「最悪の第一印象からの」

注意)この作品、割と主人公が小物でヘタレな気がします。今更ながらそのことに気づいた気がします。

「さて、中々大物な魔物らしいが……

 運が悪かったな?」


 姿を現した魔王は見えなかった時よりもはっきりと聞こえる意地の悪い笑いを込めた声を大トカゲへと向けた。

 大トカゲはと言うと、今まで蛇に睨まれた蛙の様に止まっているだけであったが今や、後退りを始めている。

 前にテレビで熊に出会ったら死んだふりではなく、目を熊から背けずゆっくりと後退することが正しい逃げ方だと見たが、まさに今の大トカゲがしているのはそれなのだろうか。

 僕たちの知る動物ではなく、ただの魔物と言うこともあって見た目で判断するのは危険だと実際にクラスメイトの迂闊な行動から理解できるが、目の前の大トカゲには相手の実力を見て後退すると言う選択肢を思いつく思考能力があるとは思えない。

 つまり、目の前の魔王は本能で恐ろしいと大トカゲに思わせるほどの強者と言うことなのだろうか。


 ……魔王て言われてるんだから相当強いんだよな……


 魔王ウェルヴィニア。

 その名前は僕のことを邪険に扱ったあの王国の連中が語り出した千年前の勇者テロマの物語に出てくる魔族たちの王だ。

 かつて世界の半分以上を支配し、人間を奴隷にし、魔族を従え、その真の姿は凶悪な邪竜とされている。

 そして、最後はあの王国の祖とされる勇者テロマに倒されたとされている。

 僕はそんな存在が目の前で何をしようとするのか固唾を飲むしかなかった。

 感じるのは緊張とこれから起こるであろう残虐な出来事だと感じている。


「……はあ~……やれやれ……失せろ」


「……え?」


 だが、それは外れることになった。

 突如として彼女は目の前のいつまでも動こうともしない目の前の大トカゲにそう言い捨てた。

 すると、大トカゲはすかさず逃げ去っていった。

 予想外な展開に僕は言葉を失ってしまった。


「ふん。たとえ、知性のない蜥蜴風情でも魔物は魔物か……

 ある程度の身の程は弁えているようだな」


 僕はこれから起こると思っていた凄惨な出来事を目に浮かべ気構えていた分、何とも言えない気分だった。

 ただ一般人の僕としてはグロイものを見なかっただけ良かったとも思えてしまう。


「いつまで呆けている」


「……えっ!?」


 そんな緊張が抜けた後の脱力感の中にいると魔王にいきなり声をかけられた。


「………………」


「………………」


 しかし、なぜかジッと魔王は僕のことを見つめるだけで僕はどうすればいいのか困ってしまった。

 それ以前に僕は先ほどのものとは違う意味で緊張してしまっている。

 相手は伝説に聞く魔王だ。

 あらゆるものを粉砕する巨人の如き腕を持ち、全てを無にする魔法を使い、巨大な邪竜となると言う伝承を持つ。

 だけど、今、僕が緊張しているのはそう言う伝承によるものではない。

 それは魔王が女性、しかも、今まで見たことのない美女だからだ。

 僕の幼馴染も美人であったが、目の前の彼女と比べれば霞むほどだ。

 と言っても、僕は美人と言う輩に酷い目に遭っているので余り関りたくないのだが。

 けれども悲しき哉。僕も男だ。

 やはり、美女に見つめられると緊張してしまう。

 情けなくて涙が出てきそうだ。


「……地味な顔だな」


「……はい?」


僕が自己嫌悪に駆られていた時に唐突に言われたその言葉に僕は呆然としてしまった。


「別に醜男と言う訳ではなく整った顔ではあるが……

 ふむ。凡人より少し上と言った程度か」


 な、なんだこいつ……?


「しかし、後ほんの少しだけ顔が良ければ観賞用として寵愛していたのだが……

 残念だな……」


「……はあ?」


 物凄く失礼かつ意味不明な発言に僕は戸惑いと憤りを覚えた。


「まあ、悪くはないか。妥協(・・)しよう」


 最後に目の前の魔王は勝手に納得した。

 どうやらこいつは僕の見た目に不満があるらしい。

 本当に失礼な奴だ。

 確かに僕はクラスのイケメンで人気者で王女様から『勇者さま~』ときゃあきゃあ言われるほどの佐川みたいにじゃない。

 学校で五本の指に入る美少女の幼馴染である鈴子(すずこ)と一緒にいると、「お前みたいな奴が彼女といるのは不相応」と見られるのも、言われているのも理解している。

 だけど、勝手に僕を比較するな。


 あ~……あいつらのことを思い出して、ムカついて来た……!!


 この世界に来てからクラスの連中に対しては嫉妬や侮蔑、怒り、憎しみなどが今までのものとは全く深さが比べ物にならないほどに感じた。

 佐川に関してはあいつは直接、僕に対して危害は加えていないが、けれども助けもしなかった。

 鈴子に至っては希望を持たせていながら結局は僕を見捨てた時点で同じだ。

 別に復讐なんて望んでなんていないけど、アイツらを含めたクラスの大半を思い出すとムカつくので二度と関わりたくない。

 他の面々に関してはそれ以上だ。

 元の世界に帰ったら青春ドラマなんてみたら吐き気しかしないだろう。

 僕の精神衛生上本当に厄介だ。


「おい。どうした?」


「……いや、何でもないよ。

 少しむかついただけだ……」


 確かに目の前の魔王様の失礼な発言にはムカついたが僕の苛立ちの理由は彼女がメインではないのでそれだけですました。

 あと、下手に怒らせると嫌な予感がするし。


「そうか。所で貴様。

 随分と変わっている服装をしているな?

 何者だ?」


 魔王様は妙に好奇心旺盛らしく、僕の身なりを見て興味を持ったらしい。

 今の僕の服装はブレザータイプの高校の制服だ。

 理由としては王国の人間が僕を魔族扱いして、支給品である鎧や剣さえも渡してくれなかったらだ。

 この制服だって、王国のぼろい服を周りから笑われながらも着続けてなんとか清潔感を保ち続けていたものだ。

 ただ先ほどの大トカゲのせいでボロボロになってしまったけど。

 こんな扱いを受けていた僕を見て一緒に飛ばされた教師は抗議もしなかった。

 二度と教師と言うものを僕は信用しないと心に決めた。


「……僕はただの人間(・・・・・)だよ」


 ムカついたので僕はそれだけ言った。

 今の僕は元の世界では高校生であったが、この世界ではそんな肩書は役に立たないと思ったので名乗らなかった。

 それと自分が人間(・・)であることを主張したかった。

 これだけは絶対に曲げたくなかった。


「ほう?では、そのただの人間(・・・・・)如きが我の肉体を蘇らせ、その無防備な姿で蜥蜴とやり合っていたと言うのか?

 貴様のその脆弱な身体で?」


「う……」


 魔王は鋭かった。

 僕の身体能力はこの世界でも元の世界でも水準以下だ。

 この世界の一般人は文明の利器などに頼らない。と言うか、存在しない中で生きている時点で現代っ子の僕らより圧倒的に上だ。

 いや、元クラスの中でもなぜか僕だけが弱すぎるんだけど。

 さらにはこう言ったダンジョンに入るのは訓練された人間ばかりらしい。

 明らかに僕は場違いだ。


「言ってみろ」


「……うぅ」


 魔王は僕を見透かすように言った。

 それはまさに王者の貫禄だった。

 今までそんなものをみたことはない僕ですら思えるほどに。

 この瞬間、僕は感じた。

 「こいつには逆らえない」と。


「僕は……こことは違う世界から呼び出されたんだ……」


「違う世界だと……?」


 僕は正直に答えた。


「元々、僕は学生でいきなり学校で朝のHR……つまりは集会をしていたら魔法でこの世界に呼び出されたんだ……」


 となりゆきを胸の胸糞具合に耐えながら説明しようとした矢先だった。


「……学生(・・)

 貴様、学士の卵なのか?」


「……え?」


 魔王は意外なことに興味を抱いて話の腰を折られてしまった。


「い、いや……ただの学生と言うか……教えてもらっているだけなんだけど……」


 聞き慣れない「学士」と言う言葉に僕はそんな大層なものじゃないと答えた。

 と言うよりも「学士」て何だろうか。

 妙に偉そうな肩書だ。

 恐らく、偉い学者のことなんだろうけど、生憎僕は就職の為に大学だけは卒業しようとしているだけなので、研究に一生を費やすつもりはない。

 だから、僕は否定した。


「何……?

 では、貴様はなぜ学生とやらをやっているのだ?」


 魔王はさらに追究してきた。

 なぜ魔王はこんな質問をして来るのだろうか。


「いや……その……就職……将来の仕事のためとしか……」


 僕は至極当たり前のことを言った。

 今の世の中、高卒を雇ってくれる優良企業はないに等しい。

 だから、大学を卒業しなきゃいけないんだ。


「ん?では、貴様は宮仕えでもしたいのか?」


 ……たぶん、公務員みたいなものかな?


 僕は魔王の言葉をそう解釈した。


「……まあ……一応(・・)、安定しているので……」


 僕も出来れば公務員の方がいい。

 一般企業は確かに公務員よりは収入は良い時もあるだろうが、不景気時にはかなり給料は下がるし、最悪リストラの可能性がある。

 それなら余程のことをしなければ退職のリスクが少ない公務員の方がいいだろう。


「……一応(・・)

 おい、それだとまるで他にしたいことがあるようだが……

 学者にでもなりたいのか?」


「え?い、いえ……最近はその……大学に入らないと……将来的にきついので……」


 魔王のさらなる追究に僕はしどろもどろと答えた。

 経験したことはないけど、圧迫面接てこんなものだろうか。


「なんだか理解できんな……

 どうして、働くことに学業が必要なのだ?」


「……え?」


「働き口などいくらでもある。

 土木や農耕、兵士……それらのどこに学が必要となる?

 まあ、そう言った者たちが報われないのも知っているがな……」


 魔王は何というか大変そうな職業ばかりを口に出して、最後にどこか妙な目をした。

 全部、肉体労働ばかりだ。

 そんなもの僕ができるはずがない。


「いや、だって……そう言うのは僕には向いていな―――」


 僕がそう言おうとした時だった。


「はあ?仕事を選んでいる場合か?」


「―――?」


 突然、魔王は呆れだした。

 だが僕は一瞬、魔王は不機嫌になった気がした。

 あまり怒らせないようにしてきたけど、どこかで逆鱗に触れたようだったらしい。


「貴様は見た所、将来に対する展望がないらしいな?

 まあ、それは良いだろう。

 しかしだな……どうやら貴様は仕事を選んでいるらしいな?

 随分と高い身分のようだな?」


 魔王は睨みながら僕に嫌味の様に言い放った。

 僕は感じた。

 もしここで下手に誤魔化したら殺されると。


「い、いや……その……

 だって、そう言うのは……

 何というか……きつそうだし……」


 つい無意識に僕はそう言ってしまった。

 土木は重い物を持たなきゃいけなさそうだし、農業は土いじりだし、兵士なんて毎日訓練でもしかすると、死ぬかもしれない。

 そんなイメージがあって僕はどうしてもそう言った仕事をやろうとは思えなかった。


「貴様。働く(・・)と言う意味を知っているのか?」


 そんな僕のことを魔王は冷めた目で見て来た。


「生きるためには糧が必要なのだ。

 働く(・・)と言うのはその糧を得るためにすることだ。

 それに貴賤などありはしない」


 魔王は僕を心底見下すような目で見た。


「貴様の馬鹿にした土木にしろ、農耕にしろ、兵士にしろどのような者も日々の糧のために生きているのだ。

 そして、貴様の生活もまたそう言った者どもの働きによって支えられているのだ。

 それも分からんのか?この愚か者」


「……ぐっ!」


 魔王の余りにも正論過ぎる正論に僕は心が痛くなった。

 魔王は冷めているが本気で怒っているのも伝わってくる。

 確かに僕のひところはそう言った職業の人たちのことを馬鹿にしているのかもしれない。

 だけど、正論だからこそ僕は


「うるさい……!!

 魔王のくせに真人間みたいなことを言うな!!」


 素直になれずに口答えをしてしまった。

 なんで僕が現段階では悪逆非道な行いをしているかもしれない相手に説教をされなくてはならないんだ。

 その情報元があの王国なので十分怪しいが、それでも僕を殺そうとした魔物と言う種の親玉と言うこともあって魔王は人間を何とも思っていない可能性もある。

 そんな相手に上から目線でそんなことを言われたら腹が立ってしょうがない。


「はあ?

 貴様の頭は飾りか?」


 僕の逆ギレに魔王は怒るのではなく呆れるように言った。


「な、なんだよ……」


 その少し哀れみすら込められている魔王の視線に僕はさらなる苛立ちを感じた。

 そんな目で見られる筋合いは、いや、確かに僕も最低なことを言ったとは思うけど、ないはずだ。


「「魔王」だからこそ民草の営みもまた頭に入れておくのだろうが」


「……え?」


 魔王は真っ直ぐに何の迷いもないように口に出した。


 な、なんだ……こいつ……


 こいつの真っ直ぐなその目に僕は気を奪われて黙ってしまった。

 なぜかは分からない。

 だけど、なぜそんなことを乱暴でありながらも正しく言えるのか理解できなかった。


「……お前、「魔王」なんだよな……?」


 ようやく開いた口で僕は確かめた。


「はっ!何度も言っているであろう。

 我はウェルヴィニア!魔王ウェルヴィニア!この世界で唯一無二の王ぞ!!」


 魔王は高らかに誇らしげに謳った。

 まるで、それは自らこそが全てを支配する王であることを当たり前であると言うようであった。

 だがそこに自らが「王」であることを誇らしげにしながらも、決して、「王」であることを驕っているのではない「王」の誇りを僕は見た気がした。

 僕たちを呼び出したあの王国の王侯貴族たちとは次元が違った。

 僕は心の中で彼女の姿に()を感じた。

 たった、その短い名乗りなのに彼女が大きく見えた。


「何を呆けている?」


「あ……」


 魔王の王としての姿に圧倒されてもう少しばかり余韻に浸っていたいと思うが、それは魔王が許さなかった。


「おい、貴様。

 さっき、異なる世界から来たと言ったな?」


「あ、ああ……」


 僕が我に返ると同時に魔王は最初の質問に話題を戻し始めた。


「……教えろ。

 なぜ貴様が我のことをその様に観たのかをな」


「あ、うん……」


 再び襲い掛かる魔王の眼光に僕は従ってしまった。

 そして、僕は語った。

 僕らが呼び出された理由、今のこの世界、「ザナ」の現状、そして、彼女、「魔王ウェルヴィニア」がどの様に語られているのかを。

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