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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第十七話「木漏れ日」

 ……グリム童話に出てきそうな家だな……


 魔女が出てきそうな森の中にそびえ立つそのまま絵本の中から出てきたかの様な家の二階の廊下に出て、その木造の骨組みと壁の土壁に少し感心したが、それよりもリウンの姿を探そうと廊下の隅々まで見渡した。

 今、この場にいるのはウェニアと僕だけで、リザには怪我は心配ないらしいがそれでもまだ休んでいて欲しくて部屋で留守番してもらっている。


「ウェニア。

 リウンが何処にいるのかわかるのか?

 それと勝手にうろついていて大丈夫なのか?」


 ウェニアの勢いに乗って部屋から出て忘れていたことだがこの家は人様の家だ。

 それを赤の他人。それもこの家の家主に助けられた人間が勝手にウロウロするのは失礼だと僕は感じた。


「安心せよ。

 リウンの居所はわかっている。

 それに奴にはある程度自由にしてもいいと言われている」


「……そうなんだ……」


「ん?意外だな。

 貴様のことだから驚愕するか抗議でもすると思ったが?」


「……いや、なんというか……

 リウンならそういう風に言っちゃうかなと思って……」


「……そうだな」


 まだ会ったばかりだけれどもリウンならばそう言う。いや、そう言ってしまうかもしれない子だと僕とウェニアは感じている。

 あの子は優し過ぎる。

 もっと悲しんだりすればいいのに無理して我慢しようとする。

 そんな子だ。

 恐らくは今回のこともあの子からすればどうでもいいなのかもしれないが、その善良さと優しさから『嫌だ』と言えないのかもしれない。


 少なくとも僕とは違うよな……


 僕は臆病さから波風を立てないように大人しくするだろうが、あの子はそうじゃない。

 そんな気がするのだ。


「で、リウンは何処なんだ?」


 リウンの善良さに対して心配しながら改めてウェニアにリウンが何処にいるのかを訊ねた。


「恐らくあの部屋だ」


「あそこ?」


「そうだ」


 ウェニアは右側の奥から二番目の部屋を指差した。


「……あの部屋には驚かされたぞ?」


「え?それってどういうこと?」


 ウェニアは驚かされたという発言が気になった。

 どうやらこの世界の人間であるウェニアですら驚かされるものがリウンのいるだろうあの部屋にはあるらしい。


 森の中に色々な畑がある様な家なんだから何があってもおかしくないか……


 よく考えてみたら子供が森の中で一人しか住んでいないのに小麦畑や様々な野菜畑があり、魔物が入ったら死ぬといった信じられないことが起きるこの家の付近のことだ。

 もしかすると、他にも想像を絶する様なことがあるのかもしれない。


「では、入る―――」


「あ!?ちょっと待った!!」


「―――ん?」


 ウェニアがリウンの部屋のドアをノックしようとした矢先、僕は慌てて彼女を引き止めた。


「どうしたのだ?

 よもや今更謝ることに対して怖気づいたのか?」


「い、いや……そうじゃなくて……」


 ウェニアは僕がリウンへの謝罪に対して怖くなったのかと訝しんできたが、僕はそれを否定した。


「ではどうしたというのだ?」


「それは、その~……」


 僕が部屋に入るのを躊躇する理由はあのウェニアが驚いた何かがこの部屋にあるということだ。


 一体、何があるんだ……


 ウェニアが何に驚いたのか分からないけれども彼女が驚いたものの正体がわからない以上不安でしょうがない。


 スプラッター的な奴じゃないよな……


 流石に子供のリウンがいる部屋なのだから血がそこら辺にまき散らされているスプラッター、ホラーチック、グロテスク的なものがあるとは思えないが正体不明で得体の知れない光景があると想像すると怖いのだ。


「……埒が明かないな」


「え!?あ、まだ心の準備が……!!?」


 そんな僕の優柔不断さに初めて呆れたのかウェニアは僕を無視してドアへと近づいた。

 そして、そのまま手を伸ばしドアを叩いた。


「!

 えっと……どうしたの?」


 ノックがしてからしばらくして少し驚いた様なリウンの声が聞こえてきた。

 どうやら僕たちが自分の部屋を訪れたことに驚いているらしい。


「すまぬが、リウン。

 部屋に入っても良いか?」


「え?……いいよ」


「そうか。

 よし、ユウキ入るぞ」


「え!?」


「入るぞ」


「あ!?」


 リウンか許可を得るとそのままウェニアは僕の意思を無視してそのまま部屋に入ろうとした。

 僕はリウンの部屋に何があるのかわからず戸惑っていたこととその不意打ちにも等しいウェニアに行動に目を閉じることも出来ず、目の前に広がるであろう光景に対する不安がただ大きくなるだけであった。


「え」


だけど、僕の目に入ってきたのは想像していたものとは異なるものだった。


「お兄さん……」


「あ……」


「すまぬな。

 此奴がどうしても貴様に言わねばならぬことがあるらしくてな」


「……言いたいこと?」


「そうだ。

 ほれ、ユウキ―――

―――ん?どうしたのだ?」


「あ、ごめん……」


 僕はこの部屋に気を取られてしまいボーっとしてしまっていた。


「ふむ……やはり、貴様にとってもこの部屋は驚くに値するものか」


「え?」


 ウェニア僕がこの部屋に驚いていると感じたらしい。

 確かに驚いているには驚いている。

 でも、それは想像していた驚きではないのだ。


 いや、そんなことよりも……


 呆気に取られてしまったが今はそんなことよりも本来の目的をするべきだと思い我に返った。


「リウン」


「?どうしたの?」


 リウンは僕に対して何の混じり気のない純真な顔を向けてきた。

 それを見て僕は


「ごめん!!」


「え……」


 益々、この子に謝らなくてはならないと考えて謝罪した。


「君が作ってくれた「アド」を食べられなくてごめん!!」


 折角、リウンが作ってくれた料理を僕は台無しにしてしまった。

 リウンは無理をしていたが内心かなり傷付いていたはずだ。

 むしろ、子供に無理をさせてしまったことが辛くて仕方がない。


「……大丈夫だよ。お兄さん。

 それに……謝ってくれてありがとう」


「ありがとう……?」


 リウンは思ってもいなかった一言を僕にぶつけてきた。


「お兄さんは優しいね」


「……()()()?僕が?」


 僕のことを『優しい』とリウンは言ってきた。

 それが僕にとっては信じられない言葉だった。

 本当に優しい人間と言うのはリウンやウェニア、リザのような人間のことを言うはずだ。

 僕は簡単に他人を傷つける。

 そんな人間が優しいはずなんてない。


()()()()が言ってたんだ」


 だけど、そんな自己否定を繰り返している僕にリウンは今まで口に出してこなかった言葉をぶつけてきた。


「え……()()()()……?」


 初めて耳にしたこの森の奥で一人で生きている少年の口から出てきた「母親」と言う言葉。

 それの心の中の自己否定は消えていた。


「うん。『本当に優しい人はちゃんと謝れる人』で『他の人の痛みもわかっちゃう人』だってお母さんが言ってたんだ」


 リウンの口振りからその母親がもう既にいないことが僕には理解出来てしまった。

 同時にもう一つ理解出来てしまった。


 この子がこんなに優しいのは……

 この子のお母さんが……


 こんなにも幼くて一人で生きているのに、この子の心には優しさがあるのは間違ないなくこの子の母親が愛情を注いでいたからだ。

 そのことをこの子の母親への慕い方から察することが出来た。


「だから、お兄さん。

 ありがとう」


「あ……」


 そして、リウンは心の底から嬉しそうにまるで森の妖精が見せる春の木漏れ日の様な暖かさに満ちた笑顔を向けてきた。


 ……この子のお母さんを想う気持ちを否定したくない


 僕はリウンのその笑顔とこの子が信じている母親の愛情を壊したくないという気持ちが僕の胸に生まれてしまった。


「……リウン。

 それじゃあ、謝るのはこれで終わりにさせてもらうよ。

 その代わり……言いたいことがあるんだ」


「……何?」


 これ以上、謝るのはこの子と、そして、この善良な子供を育てたこの子の母親への侮辱になる。

 僕はそれを理解して、この子に対して謝ることは辞めようと決めた。

 だから、それ以上にこの子に相応しい言葉があると思ってそれを言いたくなったのだ。


「美味しい料理を作ってくれてありがとう」


 それはこの子が料理を作ってくれたことへの感謝だった。

 この子の作ってくれた料理は間違いなく僕に人間の尊厳を取り戻させてくれた。

 何よりもあんなにも善意に溢れた料理を作ってくれたこの子自身の善良さに対して感謝したくなったのだ。


「うん!ありがとう!!」


 リウンは僕への感謝の言葉に今まで以上に目を輝かせていた。

 恐らく、母親を亡くしてから一人で生きていたこの子にとっては誰かの為に料理を作るという行為が久しぶりに出来て嬉しかったのだ。

 今のリウンには先程の無理をしているいい子ではなく、純粋え無垢な一人の子どもとしての笑顔が存在している。

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