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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第一章「王との契約」
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第十八話「出口と光」

「ガウッ!」


 大トカゲは長く続いていた回廊を走るのを止めた。

 普通ならば、ここで僕らも止まるのが当たり前だろう。

 でも、その必要はなかった。

 なぜならば


 外だ……!!


 僕たちの目的地が大トカゲが止まった地点のすぐ先に見えていたからだ。

 篝火で照らされて少しはその暗闇が薄らいでいた仄暗い迷宮の奥に見える外は余りにもそれらよりも明らかに眩しかった。


「うっ……」


 そして、ようやく迷宮の出口から足を出し外に出た瞬間


 ……太陽の光とか、外の空気て……

 こんなにも気持ちの良いものだったのか……


 二度と目にすることは出来ず、このまま永遠に迷宮を彷徨うか野垂れ死にするかと諦めていたためか、普段ならば感動すら覚えないこの感覚に僕は感激してしまった。

 太陽の光はとても暖かく、肌に触れる風はとても涼しく、聞こえて来る音もまたとても心地良いものだった。


「ほう?これが千年後の世界か……」


 そんな風に爽快感の余韻に浸っていると魔王はそう呟いた。

 そう言えば、こいつにとっては千年ぶりの外の景色なのだろう。

 そう考えると感慨深いところがあるのだろう。


「……妙だな……」


「……ん?」


 てっきり、魔王も僕と同じ様に外の景色に感銘を覚えると思っていたが魔王は何か怪訝に思ったらしい。


「『妙』って……何がだよ?」


 僕はその魔王の反応が気になり問いかけると


「魔力が妙に濃いのだ」


「……魔力が?」


 魔王は外界に僕にはわからない魔力の濃さが気になったらしい。


「ああ。我の生きた時代よりも濃いのだ。

 迷宮の中よりは薄くはあるが、それでも濃いぞ」


「迷宮の方が濃いのか?」


 魔王の感じた異常よりも僕はむしろ、迷宮の方が外より濃い方が気になってしまった。

 よく考えてみれば、魔力の事を気にするなら迷宮にいた時に口に出しているはずだ。

 それなのに何故今頃になって気にし出したのだろうか。

 そのことが気になってしまった。


「魔力の排出口が限られているこの様な迷宮では魔力は常に密閉されたようなものだ。

 それにこの迷宮には魔物が多かったであろう?

 動く魔力の塊ともいえる魔物が多くいるのだから、魔力の濃度は外より明らかに上なのだ」


 魔王の言っていることは尤もだ。

 小学校の理科の授業で百葉箱の性質を習ったけど物事の観測には確りと気を付けないといけない。

 百葉箱は地面から距離を置いて遠ざけることで反射熱、箱の中に入れることで直射日光や雨や雪などを防ぐことで気象状態を観測出来る。

 ストーブの前で温度計を使って室温を測る人間はいないだろう。

 魔王が外に出たことで初めて魔力の濃度に触れた事は不自然じゃないだろう。


「妙だ」


「……そんなに濃くなっているのが珍しいのか?」


 魔王が神妙な顔をしているのを見て、魔力の濃度が重要なのを僕は嫌でも理解してしまった。


「当たり前であろう?

 何故、()()が広がっていく世界で魔力の濃度が増すのだ?」


「……『()()』?」


「……()()のことだ」


「え……!?」


 僕は魔王の口から出て来た「宇宙」という単語が出て来たことが信じられなかった。

()()」。

 それは最も近いのに、最も遠い存在にも感じられる余りにも大き過ぎる存在。

 いや、違う。

 大き過ぎて僕らが「宇宙」の中にいるのに勝手に「宇宙」を外だと思っているだけなのかもしれない。

 僕のいた世界では今も科学でそれを解析しようとする無限にも等しい存在。

 それが「宇宙」だ。

 しかし、明らかに科学的過ぎる存在である「宇宙」がファンタジーの住人、それも魔王の口から出るとは普通は思いもしないだろう。

 確かにこの魔王は科学に関してはかなり理解が及んでいる。


「『()()()()()()』……」


 それでも僕の世界で高校どころか、大学、それも専門家や研究者がようやく理解するであろう「宇宙」をこの魔王は知っている

 明らかに魔王の言っていることは僕が気紛れに昔、読んだ子供向けの「宇宙」についての学習図鑑に書かれていたこと通りだった。

 でも、それは誰かが追究したことで書けたものだ。

 その仕組みを理解するにはそれこそ、スーパーコンピューターが必要だろう。

 それをこいつは何の躊躇なく語ったのだ。

 正直言って僕は信じられなかった。


「お前……何処で知ったんだ?

 そのことを……」


 途方もしない計算等が必要とされる知識をこいつがどうして知れたのか僕は訊ねてしまった。


「ああ……これは我の師が千年前に言ったことだ」


()……?師匠のことか?」


「そうだ。

 実際は異なるのかもしれぬが、魔力が次第に質の悪いものになっていく時代の推移を目にしているとそう考えると不自然ではないと思っていたが……

 どうやら、あの女の推測も外れたな……ククク……

 あの女も所詮は多少、年を喰った程度と言うことか……」


「……なんか、棘がある言い方だな……

 なんか、その人との間になんかあったのか?」


 どうやら、魔王に「宇宙」の概念を教えたのは魔王の師匠らしく女性らしい。

 このファンタジーの世界、しかも千年も前に「宇宙」をある程度正確に知っていたということはとんでもない人なのだろう。

 魔王は自らの師匠の推測が外れてことに腹を立てることはなく、むしろ、笑った。

 こんな弟子を持った師匠も師匠で苦労したであろう。

 何せ、現在進行形で師匠を貶している。


「ああ、そうだ。奴は忌々しい女だった。

 我に魔法や森羅万象の理、軍略や統治術を全て叩き込んだのが奴だが、我が世界を征服することを掲げると彼奴め、テロマに肩入れしおって……!!

 全く、以って忌々しい……!!」


「……は?」


 今、とてつもないことを僕は耳にした気がした。


「ちょっと、待て……

 お前、自分の師匠と敵対していたのか……?」


 こいつがテロマに何だかんだで激甘なのは既に知っていることだ。

 だが、さらにこいつは自らの先生までもがテロマに味方していたと語った。

 どれだけこいつは敵を作っていたのだろうか。


「はっ!奴が一方的にテロマに肩入れしておっただけだ……!!

 その剣もあの女が造ったのものだ。

 彼奴め……容易に我を殺せる癖に自らの手を下すことなくテロマに力を貸しておったのだぞ!?

 あ~、忌々しい……!!」


「え!?この剣てお前の師匠が造ったのか!?」


 「テロマの剣」の衝撃的なルーツに僕は思わず叫んでしまった。


「ああ、そうだ……

 何が『まだその時ではない……』だ!!

 我を止めたければ、殺せばよいものをただ口先ばかり……

 だが、我は奴の言葉通りにならず、一度は世界の半分以上を手にして見せたぞ?

 アハハハハハハハハハハ!!

 ざまぁ、見ろ!!クソババァ!!!」


「う、うわぁ……」


「グ、グルゥ……」


―ウ、ウワァ……―


 今まで見せていた超然とした態度は何処へ行ったのか、魔王の師匠に対する悪態を見せられ僕と大トカゲは呆れてしまった。

 完全にその姿は子供ぽかった。

 もしかすると、これがこいつの素なのかもしれない。

 しかし、師匠が弟子によりによってその弟子の甥を刺客にして送り込むとはどれだけ殺伐とした関係だったのだろうか。

 それどころか、弟子も師匠をこうまで悪し様に罵るのも、とても礼儀にうるさい日本人の僕からすると考えられない光景だった。


 ……なんか、魔王のシスコンだけでなく、師弟喧嘩もこの世界の歴史の真実なのかもしれない……


 何と言うスケールの大きい師弟喧嘩であり、何と言うスケールの小さい歴史の真相なのだろうか。

 こんなのが原因で犠牲になった人々がいるのならば何とも居た堪れない気持ちになって来た。


「グウ……」


―アノ……―


「あ」


 そんな魔王の呆れた一面を目にして反応に困っていると大トカゲが僕に控え気味に声をかけて来た。

 何故だろうか。

 目の前にいる自称魔王よりも凶暴なはずの魔物である大トカゲがの方が礼儀正しく思える。

 僕はそれを考える度に複雑な気持ちに包まれる。


「……どうしたんだ?」


 僕は大トカゲに向き合った。

 大トカゲは見た所、迷宮の出口から出ようとしなかった。

 ただ控え気味にその場に佇んでいるだけだった。


「グウゥ……」


―アゥ……―


「……?」


 大トカゲは僕が声をかけると再び何か伝えようとしたが言葉は続かなかった。

 それはまるで、何か躊躇しているようにも見えた。

 だけど


「グ……」


「え!?」


 大トカゲはその後、名残惜しそうに僕たちに背を向けてそのまま暗闇に満ちる迷宮の奥へと向かおうとした。

 大トカゲは迷宮に戻ろうしている。

 それを見て、僕は


「ぐっ……

 ちょっと、待てよ……!!」


「ガル……?」


 衝動的に大トカゲを止めてしまった。

 それ受けて大トカゲは足を止めた。


「えっと……いや、その……」


 僕は自分から呼び止めたのにも拘わらず何て言えばいいのか困ってしまった。

 いや、言いたいことは心の中では解かっている。

 でも、それを果たして簡単に言っていいのかと迷ってしまっている。

 僕の言おうとしていることは現実を考えないものだ。

 明らかにその場の感情だけで動こうとしている。


「………………」


 僕は悩んだ。

 本当に今、言おうとしていることを言っていいのかと。

 それに対して責任を持てるのかと。

 言うことは簡単だけど、そこには必ず責任が伴うはずだ。

 けれども、同時にそれを言わないことだけは嫌だとも感じてもいる。

 僕が足を踏み出せないでいると


「言え」


「……え」


 背後からまるで背中を押す様に鋭い声が聞こえた。

 僕が後ろを振り返ると魔王は先ほどまでの幼稚さを払拭して毅然とした態度で僕を真っ直ぐと見据えていた。


「その程度のこと、我にとっては些細な事だ。

 貴様が後悔さえしなければ、貴様のしたい様にせよ」


「お前……」


 魔王は僕の言いたいことを理解しているらしく、僕のしたい様にさせるつもりらしい。

 それでも自己責任だと先に言うのがある意味、こいつらしいが。

 しばらく、僕は一瞬だけ躊躇うけれど


「……ありがとう」


「礼など良い。

 早くせよ」


「……分かった」


 僕はその魔王の態度に感謝してそのまま自分が言おうとしていることを言おうと決意した。

 情けないことにこいつに言われてようやく踏ん切りがついた。

 他人に言われて直ぐに行動に移す辺り、本当に我ながら優柔不断だと感じる。

 それでも僕はこいつがいなかったら何もできなかっただろう。


「ガル……?」


 僕は魔王に発破をかけられて迷いを捨てて大トカゲの近くへと歩を進めた。

 そして、そのまま


「……一緒に来ないか?」


「ガル……?」


―エ……?―


 大トカゲに一緒に来ないかと訊ねた。

 きっと、僕の言った言葉は現実を顧みていない言葉だろう。

 この魔物が恐れられる世界で魔物、それもこんなに大きいサイズの大トカゲを連れて行く等後先を考えない行動だ。

 よく飼い切れなくなくったペットが捨てられて野生化したりして生態系を破壊したり、保健所等で処分されることがある。

 その時に感じるのは『責任も取れないのにペットを飼うな』と言う憤りだけれども、きっと最初はこんな風に楽観的なのかもしれない。

 でも、僕は


 こいつを殺させたくない


 後に訪れるであろうこいつの悲劇を想像するとこいつを迷宮に残したくなどないのだ。

 僕はこいつに生きて欲しいと願っている。

 少なくてもあんなクラスの連中に殺されて欲しくはなかった。

 僕が大トカゲの返事を待っていると


「ガルル……?」


―イイノ……?―


「……!お前……!」


 大トカゲは僕に確認を求めて来た。

 それはまるで本当について来ていいのだろうかと心配している様だった。

 それが意味することを直ぐに理解した僕は


「ああ……!!」


 嬉しさと共に大トカゲに重ねる様に『来て欲しい』ということを伝えた。

 今ので完全に大トカゲの気持ちは理解できた。

 大トカゲも心の底ではこの迷宮から出ることを望んでいるのだ。


「……!……ガル……」


―……ッ!……アリガトウ……―


 大トカゲは感謝の言葉をまるで嬉し涙を流すかの様に伝えた。

 それを見て僕は


「……ほら、来なよ」


 僕はゆっくりと大トカゲを誘導した。

 大トカゲは僕のことを見つめると出口へと歩み出した。


「グウ……」


 けれども、大トカゲは出口の直前まで寄ると控え目に身体を出すぐらいでそれ以上身を乗り出そうとしなかった。

 外に出ることを躊躇う大トカゲの姿はまるで小鳥が巣立つ前に飛ぶことを恐がるみたいだ。

 それを見て、僕は


「大丈夫だから」


 励ます様に大トカゲを促した。

 きっとこいつにとっては外の世界は初めてのものなのだろう。

 だから、こんなに引き気味なのだろう。

 でも、それは


 ()()()()()()()()()……


 今のこいつは僕と同じだ。

 先ほどまでの僕もウジウジしていた他人に馬鹿にされることを恐れて前に出ようとせず、何かを踏み出そうともしなかった。

 いや、きっと今も同じだ。

 魔王に言われて、ようやくなけなしの勇気を出せたけれど、結局僕自身は本当に弱虫だ。

 でも、そんな僕だからこそ


 こいつを助けたい……!!


 こいつをこの迷宮から連れ出したかった。

 最初の出会いは最悪だった。

 でも、その後にこいつの抱えていた苦しみを知って、こいつと分かり合えた。

 そんな奴をこんなジメジメとした暗い迷宮に置いてきぼりにして、酷い殺され方をする運命を理解していて置いて行ける筈がない。

 それに僕も知ることが出来た。

 僕だって魔王に出会えて前に進めたんだ。

 だから、こいつにだってその権利が在ってもいい筈だ。


「………………。

 ガル……!」


「……!」


 すると大トカゲは一瞬何かを考え込むように黙るが直ぐに何かを決意したように前に向き直り、そして、そのまま迷いを振り切る蚊の様にかの様に前へと出て迷宮からその身を乗り出した。

 そして、ようやく迷宮から外に出た大トカゲは


「ガルル……」


 感慨深く空を眺めた。

 まるで愛おしそうに。


 そう言えば……こいつ、出口を知っていたてことは……

 ここに来たことがあるんだよな……


 大トカゲは迷宮から迷うことなくこの出口まで僕たちを案内した。

 もしかすると、大トカゲは何度もこの場所に来ていたのかもしれない。

 それでも外に出られず顔だけを出して外に想いを馳せていたのかもしれない。

 何度も何度もここに足を運びながらも外に出ることを躊躇した。

 今、大トカゲはようやく恋焦がれていた外の世界に出ることが出来たことに感動を覚えていたのかもしれない。


「さて、ユウキ。

 後は貴様次第だぞ?」


「あ……

 うん……」


 大トカゲの様子を見て嬉しくも切なさを感じていると魔王が僕に声をかけて来た。


「分かっているよ……

 こいつは僕が世話をする」


 まるで大トカゲをペットのように扱うことに気が引けるけれどもそれ以外に言いようがないので僕は確かにそう言った。

 大トカゲを外に連れ出したのは紛れもなく僕の意思だ。

 強い意思は時としてはワガママになる。

 だから、僕はせめて自分の責任だけは果たそうと決めた。


「ほう?どうやってだ?」


「……え?」


「そやつは見れば分かるが大きい。

 加えて、魔物だ。さて、どうする?」


「それは……」


 僕の決意に対して魔王はどの様にして僕の責任の取り方を訊ねて来た。

 口だけならば誰でもできる。

 魔王は僕の覚悟を訊ねているのだ。


「……なるべく、人の目に付かない所に隠れてもらうよ」


 大トカゲは「魔物」だ。

 ただでさえ恐れられているのにそれに加えてこいつは大きい。

 他人の目に入れば嫌でも殺されにかかる。

 加えて、僕が説得しようとしても僕を「魔族」だと言って耳を傾けないかもしれない。

 だから、街や村等といった人の多い場所では大トカゲには何処かで待ってもらおうと考えた。

 今、僕が出来るのはこれぐらいだ。


「フッ……」


「……?何だよ、何で笑うんだよ?」


 僕の答えを訊くと魔王は笑いだした。

 今の僕の発言に何か笑う言葉が一つでもあったのだろうか。


「いや……

 だが、それを聞いて貴様の意思が堅いことを知り、我も思うことなく貴様の責を問うこと出来ると思ってな?」


「……え?」


 今、魔王の口から少し不穏なニュアンスを感じる言葉が出て来たような気がした。

 『責任を問われる』。

 それは自分でも覚悟していたが、実際に他人に言われると少し不安になる言葉だと思った。


「どうした?

 今の貴様の言葉は本心ではなかったのか?」


「……!?

 い、いや……そうじゃないけど……」


 僕は慌てて魔王の指摘を否定した。

 今、大トカゲの運命は僕にかかっている。

 何としても僕が責任を取る覚悟を伝えなくてはならなければ。


「分かった……責任は取―――」


 僕がはっきりとそのことを言葉に出そうとするが


「皆まで言うな」


「―――え?」


 魔王に遮られてしまった。

 魔王はそのまま僕に近づき


「その言葉。確かに受け取ったぞ?」


「……!」


 僕の耳元で囁きそのまま大トカゲの方へと向っていた。


「貴様の言葉は我には分からぬ」


「グウゥ……」


 魔王は大トカゲの正面に近づくと大トカゲに向かって不遜にそう言った。

 すると、大トカゲは悲しそうに唸った。

 きっと僕以外とも誰かと会話が出来ると期待していたのだろう。


「だが、その様子だと我の言葉は解かるな?」


「……!」


 しかし、魔王の指摘した言葉に大トカゲはしょぼくれていた顔を上げた。

 けれども僕は驚いていた。

 それは魔王の指摘についてだった。

 魔王の言う通り、大トカゲは魔王の言葉で不機嫌になったことがある。

 魔王はたったそれだけのことから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を把握した。


 やっぱり、こいつ……

 洞察力が半端ないな……


 何度も何度も思ったけどこの魔王は限られた情報だけで物事の本質を言い当てる。

 思考力もそうだけど、情報を見逃さない所も恐ろしい。


「ガル……」


―ウン……―


 魔王の指摘に大トカゲは頷いた。

 やはり、大トカゲは人語を理解している。

 どうやら、大トカゲの言葉は僕以外には分からないけれど、大トカゲには僕以外の人間の言葉でも解るらしい。

 これはかなり大きな収穫だろう。


「フム……

 ならば、よく聞くがいい」


 魔王は大トカゲが自らの言葉を理解していることを確認すると改まって何かを言おうとした。

 僕は、いや、大トカゲもその魔王が何を言おうとするのかを見届けようとした。


「我は人間であろうと、魔族であろうと、幻想種であろうと、神であろうとも、魔物であろうとも立ち塞がるのならば、薙ぎ倒すのみだ」


「ガルゥ……!?」


「えっ!?」


 魔王の口から出て来たのは自分の邪魔をする者は誰であろうと平等に倒していくのみという不遜な宣言だった。

 その言葉に大トカゲと僕は呆気に取られてしまった。

 何故、このタイミングで魔王はそんなことを言うのだろうか。

 既に大トカゲには敵意はない。

 それなのにどうしてそんな物騒なことを言うのだろうか。


 いや、違う……


 しかし、しばらく経って落ち着きを取り戻した僕はそれが早計な考えであることに気付いた。

 そして、それは直ぐに証明された。


「だが、同時に我はこうも思っている。

 仮令、誰であろうとも我が臣下となるのならば、等しく臣下として扱うとな」


「ガル……?」


 やっぱり……


 魔王は即座に平等主義のもう一つの側面を示してきた。

 つまり、魔王が言いたいのは


「貴様、我と覇道を共にせぬか?」


 大トカゲを自らの臣下にすると言うことだったのだ。

 魔王にとっては相手が誰であろうと配下になるのならば別に気にしないということなのだろう。

 それを受けて大トカゲは


「ガ、ガル……?」


―イ、イイノ……?―


 弱々しく控え目に確かめた。

 それは自分が僕たちに迷惑をかけるかもしれないと思ってのことだろう。

 それでも


「フン……その様子だと、どうせ自分が迷惑になるとでも思っているのであろう?

 下らん。貴様が我を裏切らぬのならば、貴様の一体や二体ぐらい背負うとしても対して変わらん」


「ガル……」


「は、ははは……」


 魔王は尊大にも大トカゲの心配を余計なことであると言い張った。

 僕はその魔王の傲慢な姿に呆れると共に嬉しさを感じた。

 こいつは馬鹿だ。

 でも、嫌いになれない馬鹿だ。

 その姿が僕には眩しかった。


「ガル……」


 そんな魔王の態度に大トカゲは戸惑った。

 恐らく、大トカゲからしても魔王は初めて見るタイプの人間なのだろう。

 後、これは僕の個人的な感想だけど大トカゲはどこか控え目な気がする。

 どうして、あの憎しみのままに暴れていたあの大トカゲと同じ個体だとは思えない。

 しかし、大トカゲは


「ガル……!」


 先ほどまでの控え目な態度を拭い去り、僕に言われて迷宮を出た時と同じ様に決意した様に真っ直ぐと顔を魔王に向けた。

 それが意味することは簡単だった。


「決まりだな」


「ガル!」


 よかった……


 魔王の問いに対して、大トカゲは肯いたのだ。

 それは大トカゲはが何にも囚われずに僕たちと共に来ると言うことを意味していた。

 僕は大トカゲがその決断をしてくれたことが嬉しかった。

 完全に大トカゲは迷いを捨てたのだ。

 何も気兼ねなく大トカゲは一緒に来てくれるのだ。

 遂に旅に出ようと思った時だった。


「よろしい。

 では、貴様に褒美を与えねばな?」


「ガル……?」


―エ……?―


「褒美……?」


 魔王は唐突にそう言った。

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