第百十六話「間違っていない」
「君のお父さんは君を守るために僕の家に怖い人たちを案内しようとしたの?」
リウンはリストさんが自分を裏切った理由について訊ねた。
「……うん」
リウンのその問いにリナはそう答えるしかなかった。
リストさんは決して、自分のためにリウンを裏切った訳じゃない。
ただ自分の娘を守りたかっただけだ。
それは嘘偽りのない真実だ。
もしリストさんが自分が殺されそうになったら、甘んじてそれを選んでただろう。
その証拠にリストさんはリナを庇って死んだ。
いや、そもそも彼がこの森に入ったのもリナの病を治す薬草を求めてのことだった。
最初から彼の行動はリナを守るということで一貫していた。
少なくても、欲望で動いていたルズたちとは異なり、彼は愛で動いていた。
「そっか……
じゃあ、僕のお母さんと同じなんだ」
「!」
リナの答えを聞いて、リウンは痛々しくそう言った。
リウンの母親である「森の魔女」。
彼女もまた、息子を守るためにこの森に聖域を作りあげた。
それによって、多くの人々を傷付けてしまい、中には死に追いやってしまった人間もいる。
「リウン……まさか……」
「うん。
お母さん……僕のためにやっちゃったんだよね」
この子の頭の良さを甘く見てしまった。
リウンのその言葉に僕はリウンが母親の罪について、ある程度、理解してしまったことに気付いてしまった。
「超越魔法」を壊す時、僕はリウンにその性質である絶対的なリウンへの守護の力を一部だけ話した。
そのせいで彼はそれが何をもたらすのかを悟ってしまったのだ。
長年、森の奥に住み、聡いこの子ならば、あの「超越魔法」の全てを知らなくてもそれがもたらす影響を導き出せるのは当然すぎることだった。
「でも、それはーーー!」
確かにリウンの母親がしたことは森の近くに住む人々にとっては許されないことだったのかもしれない。
だけど、それは幼い息子がこの森の奥、いや、彼の様な子供にとっては過酷過ぎる世界を生きるために残した唯一の手段だったはずだ。
「うん。
だから、リナのお父さんと同じなんだよね?」
「---!?」
「……え」
リウンは自らの母とリナの父親が同じだと答えた。
森の魔女もリストさんも二人とも、ただ我が子を守りたいが為に他者を犠牲にした。
それは紛れもなく我が子への愛が理由だった。
親の愛が他の誰かを傷付ける。
そのことに初めて、気付かされると同時にリウンがこの年齢で自分の母の罪を認め、そのことに言及したことに僕は驚かされた。
「お母さんが僕のためにしたことで君や君のお父さんを傷付けた。
お母さんが残した魔法で君たちの村を無茶苦茶にしたんだよね……?
本当にごめん」
リウンは心の底から謝った。
リナたち親子に降りかかった不幸には自分の母親が自分の為にした行いに原因があるとして認め、責められることを覚悟で彼女に自分が悟った真実を語った。
「……うんうん。
あなたは悪くないよ、だから、ごめんね」
リナは自分たちを苦しめた原因がリウンの母親にあると僅かながらに理解しながらも、リウンを責めなかった。
罪の大きさに関係なく、ただお互いの親が自分たちの為に相手を傷付けた。
それを認め合ってるからこそ、お互いに謝ることしかできなかった。
(こんな優しい子たちが謝り合うしかないのか……?
しかも、ただ大切な人を守りたいって言う当たり前の感情なのに)
二人の優しさを目の当たりにしながら、同時に二人の親の当り前過ぎる行動が招いた悲劇に僕はやるせなさを抱いた。
少なくても、ルズやクラスの連中たちと異なり、森の魔女もリストさんも大切な我が子を守りたいという感情で動いただけだった。
なのに、その結果、多くの人々やお互いの子供に深い傷を残してしまった。
(変わらない真っ当な愛情なのに)
僕にとって、いや、僕たちの世界にとって、父や母の愛というのは、ただ我が子を慈しみ、守り、育むことを意味するものであり、この世界でもそれは変わらないものであった。
けれども、この世界では時として、それは誰かを傷付けてしまうものであることを痛感させられた。
それは愛そのものが間違っているわけではない。
大切な人を守るために余裕がなくて、他の誰かを傷付けてしまっただけなのだ。
「……ユウキ。言葉を許す。
お前が何かを言ってやれ」




