第百十四話「罪」
「何で君が謝るの?
だって、その……君のお父さんはその……」
リナのただならぬ謝罪の雰囲気にリウンは戸惑いを覚えた。
事情を知らない彼からすれば、父親が殺されたリナが謝る道理などない様に思えるはずだ。
しかし、真実は彼にとっては残酷なものだ。
「リウン、それはーーー」
リナは僕が全ての責任を負うことを止めた。
けれども、リナが彼女自身の罪でもないのに、リウンに責められるのも大きな誤りだと考えて、僕が口を挟もうとした時だった。
「ユウキ。
どれだけ事情を説明したとしても受け容れらないこともある。
ここは単純にリナの好きなようにさせてやれ」
「---ウェニア。
だけど」
ウェニアの言う通り、僕が仮に理屈をこねたり、淡々と事実だけを話そうとしたりしてもリウンがリストさんがどんな事情があるにせよ、自分のことをルズ達に売ろうとしたことを受け容れられる筈がない。
裏切られた感情は憎しみの有無に関わらず、心に傷を残す。
心の傷は相手が嫌いとかそういう理由で顔を合わせたくなるのではなく、苦しくなるからその傷を作った相手を拒絶するのだろう。
それが未だに胸が苦しくなる僕なりに考えた理屈だった。
「お兄ちゃん。
ありがとう。だけど、お願い。
大丈夫だから」
「……わかった」
裏切りの痛みを知る身としてはリウンになるべくこの事実だけは知って欲しくなかったし、そもそも、どうして被害者であるリナがその咎を背負わなくちゃいけないのかという憤りを感じながらもリナの強い意志で見守ることにした。
「リウンだっけ?
あの、私はリナって言うの。
森の近くの村でお父さんと二人で暮らしてたの」
「う、うん。
よろしくね」
リナは先ず、自己紹介を始めた。
そういえば、この二人は面と向かって会話をしたことがないはずだ。
思えば、初めて二人が会った時はリナの心の整理がついておらず、そんな状態じゃなかった。
「あの……私、「魔族の子」なんだ」
「!?
そうなんだ……」
次にリナの口から出てきた村で自分がどんな立場にいたのかを物語る言葉にリウンは衝撃を受けていた。
恐らく、母親の日記からその言葉の意味を理解しているのだろう。
そして、自分自身も該当することも。
(クソっ……!
なんでこんな子供たちがそんな言葉に怯えなきゃいけないんだよ!?)
リウンもリナもただの子供たちだ。
大人が守るべき子供のはずだ。
そんな子供たちがそんな言葉で大人たちに傷付けられる。
ただの子供が自分の置かれている立場をそんな言葉で説明できてしまうこの世界の常識に僕は内心、腹が立った。
「あのね……その……ごめんなさい」
「だから、どうして君が謝るの?」
自分の名前と立場を明かした後、何を言うべきか分からず、リナは再び謝罪の言葉を述べた。
そんなリナの様子にリウンは怪訝な表情を浮かべた。
彼にとって、ただでさえリナが謝る理由が見つかる筈がない。
「あなたが薬を作ってくれたんだよね?」
「そうだけど。
それがどうしたの?」
何とかかけるべき言葉を見つけたリナがリウンが薬を作ってくれた人間であることを確認してきた。
彼が薬を作ってくれたことには気付いたのか、それともリストさんから教えてもらったのだろう。
彼女にとってはリウンが命の恩人なのだ。
「その……ありがとう。
お陰で治ったよ」
「本当?
良かった」
僕が彼の家を壊してから暗かったリウンの表情が少しだけだが明るくなった。
リウンにとっては母親に教えてもらった薬で誰かを助けることが出来たことは亡き母との約束を守れたこともあって嬉しいのだろう。
「なのに、ごめん。
お父さんが……」
「え?
君のお父さんがどうしたの?」
自分を助けてくれた少年に対しての裏切りを父親が犯してしまったことへの罪悪感を表情に出しながらリナは事実を言おうとした。
「お父さん……
私を守るためにあなたの家に……
私たちに酷いことをしてきた人達を連れて行こうとしたの……」
「え……」
リナの口から出てきた事実にリウンの表情が強張った。




