第百十三話「嘘」
「さて、ユウキ。
一つ貴様が向き合わねばならぬことができたぞ」
「?
それは一体?」
ウェニアの誓いと彼女の美しさに心を奪われていると彼女は僕が向き合わなければならないことが出来たことを伝えてきた。
「お兄さん……」
「あ」
声のした方を見るとそこには戸惑いの色を浮かべているリウンがいた。
その理由は単純だった。
「我はリウンに真実を漏らした。
其奴にどう向き合うつもりだ?
いや、向き合わせるつもりだ?」
ウェニアは僕の本質を突き付ける為にリストさんが殺されたことやそのリストさんを殺したルズを僕が殺そうとしたこと、そして、実際にウェニアが殺したことを公言したことでリウンは事実を知ってしまった。
「!?」
「あ……」
リウンの僕を見る目にこれまで以上の不信が込められていた。
無理もない。
今までリウンは僕のことをただの少し優しいお兄さんとしか見てこなかった。
だけど、事実を知った今では全く状況が異なる。
僕が理由があるとしても、彼の安住の地を、いや、彼にとっては母親との思い出が詰まっているあの家を奪った加害者だ。
それでも、彼は僕が苦しそうだからと言う理由である程度は納得してくれていた。
しかし、今、彼が知ったのは僕もまたリウンが恐がっている「外の世界の怖い人」だということだ。
今まで彼を連れ出すために僕は嘘を吐いていたことになる。
そんな僕のことを彼が信じられなくなるのはごく自然なことだ。
「リウン、その……」
僕が弁解するどころか、かける言葉すら見つからないまま彼に声を掛けようとした時だった。
「あのおじさん……
死んじゃったの?」
「!」
彼は僕を責めるのではなく、リストさんが死んだという事実について確認してきた。
「どうして?
それに殺されたって……」
「それは……」
リウンは怖がりながらもリストさんの死の経緯について訊ねてきた。
僕は答えに詰まった。
リストさんは本意ではないとはいえリウンを売る為にルズたちをリウンの家へと招こうとした。
それもまさにリウンが恐れる「怖い人」そのものと言えるルズをだ。
(リウンに嘘を吐きたくない……
だけど、この子を傷付けたくもない……
それにリナの前でリストさんのことを話すのは……!)
リウンにリストさんの裏切りを話すことでリウンを傷付けることが恐い。
何よりもリストさんがああしたのはリナを人質に取られてのことだった。
それを暴露することはリストさんの名誉を傷つけることになる。
そして、それを彼が必死に守ろうとした、それも目の前で父親を奪われたリナの前ですることを僕は躊躇ってしまった。
この場で真実を明かすことが果たして正しいことなのか本気で分からなかった。
そんな葛藤の中、僕が選んだのは
「僕が弱かったからだよ」
僕が弱くてリストさんを守れなかったという一部の事実で隠すことだった。
ウェニアが否定した全て自分が悪かったという諦めに近い思い込みで隠すのではなく、弱い自分を利用することで誰かを守る嘘。
馬鹿な手段かもしれないが、それでも目の前の子どもたちの心を守れるのならばこれぐらいの傷は我慢できるつもりだった。
「違うよ……」
「リナ?」
しかし、そんな僕を否定するかのようにリナが僕の言葉を止めた。
「お兄ちゃん、もうやめてよ。
お兄ちゃんは悪くないんだから……
私もお父さんを守ろうとしてくれたんだから」
「!」
リナは泣きながら、これ以上僕がリストさんの死を自分のせいにしようとすることを止める様に懇願した。
「ごめんなさい!!」
リナはリウンに向かって謝罪した。




