第百十話「どっちつかずの中途半端」
「僕だって、好きで凡人でいたかったわけじゃない!!」
「………………」
ウェニアに本当のことを指摘されて、衝動的に僕は本心を叫んでしまった。
そんな僕を見て、リウンとリナは驚いて、いや、いつも子供たちの前では決して見せていなかった僕の感情的な一面を見て怖がっている様子だった。
(クソっ!)
それを見て後悔と自己嫌悪と自分への不甲斐なさが生じてしまった。
「自分が凡人なんてことは分かってるよ!
それでも頑張って努力して認められようとした!!」
だけど、一度破れた心の堤防から出てきた本音はとどまることはなかった。
自分に才能があるなんて思ったことなんて一度たりともなかった。
だから、努力して自分の周囲の一流たちに少しでも近づこうとした。
「なのに結果を出しても身の程知らずって言われるだけだった!!
少しでも、失敗すれば今までしてきた努力の分だけ馬鹿にされるだけだった!!」
そんな僕を周囲は認めなかった。
そればかりか、その努力の結果を妬んで少しでも失敗すればまるで努力するのが悪だと言わんばかりに必要以上に馬鹿にされるだけだった。
その時、理解してしまった。
世の中には天才や秀才だと認められるのは一部の人間だけでそれ以外の人間が近付こうとすることさえ許されない。
努力するのも許されるのは一部の人間だけ。
そして、自分は凡人じゃないといけないのだと。
いや、もしかすると僕みたいに一部の人間だけが努力することは許されていないのかもしれない。
凡人が唯一、変われる方法。
それすらも許されない。
「だけど、平凡に生きたくても許されない!」
単純に諦められればどれだけ救われたことだろうか。
「周りが優れているに僕だけが凡人でいていいはずがない」
幼馴染も妹も周囲からすれば一流だった。
幼馴染とは親同士の付き合いで殆ど生まれた時から傍にいて、妹とは血の繋がりがある。
切ることが出来ない縁の影響で嫌でも凡人というだけで彼女たちの傍にいるだけで奇異や蔑みの目で見られ続ける。
自尊心を捨てて、馬鹿にされることも許容して道化の様に生きていればよかったのかもしれないが、それも出来ない。
「だけど……だけど……
風香も父さんも母さんも優しいから……!!」
努力することも出来なくなり、凡人にもなりきれない僕を決して家族は見捨てず愛してくれた。
誰にも愛されなければ開き直ることへの言い訳も出来たかもしれない。
「だから、少しでも平気なふりをするしかなかった……!!」
僕が少しでも弱さを見せれば家族が傷つくことになる。
周囲に馬鹿にされてもそれでも自暴自棄になることだけは避けていた。
結果的に凡人だと蔑まされることになった。
「なのに……風香はこんな僕でも慕ってくれたから……」
『お兄ちゃんのことを何も知らないくせに馬鹿にしないで!!』
風香は僕がどれだけ馬鹿にされ続けても昔から変わらず、僕を慕ってくれた。
僕が偶然、聞いていると知らずに妹はそう言ってくれた。
「だから―――!!」
「傷つけたくないから、傷付けられる側に甘んじるか……
愚かで哀れだな、貴様は」
「―――っ!?」
僕が諦めからでた習性を口に出そうとした瞬間、ウェニアは怒りを込めた言葉で遮った。




