第百九話「仕方がない」
「貴様がリザを戦わせたくないのは分かる。
当然だ。
貴様がリザを連れ出したのは戦いの道具にしようとした訳ではないのだからな。
だが、リザは己の意思で戦うことを決めた。
何よりも貴様は助けたいという理由でな」
「だけど……!!」
ウェニアは僕がリザを連れ出したのは戦わせるためではないことを言及しながらも、それでも彼女が戦おうとしているのは僕の為であることも突き付けてきた。
この世界に来てから分かったことだけど、いや、そもそも理解していたことだ。
戦いは辛いし、苦しいし、恐い。
僕が荒事なんて大嫌いだ。
そうじゃなかったら、どうして今まで平気で馬鹿にされてきたことを我慢できる。
そんな自分にとって嫌なことである戦いをリザを巻き込むことなんて僕には出来ない。
仮令、それが僕を助けたいという彼女の善意であってもだ。
「それ程までに貴様は誰かの助けを借りることを恐れるのか?
だから、貴様はいいように扱われるのだ」
「え」
突き放すかのような彼女の言葉に思考と共に葛藤や困惑といった感情も消えてしまった。
「貴様は他者を慮り過ぎだ。
他者を傷付けることも勿論だが、他者を利用と言うよりも……
そうだな、迷惑をかけることを必要以上に恐れているな。
それは貴様が凡人故か?
優れた者が周囲にいた故か?
だからこそ、『劣っている自分はこれ以上誰かの足を引っ張ってはならない』という自縄自縛の念に囚われているのではないのか?
そして、その行動すらもいいように踏みにじられてきた」
「!?」
『風香ちゃんは可愛いのに友樹くんはパッとしないわね』
『あの兄妹って本当に兄妹なのか?』
『本当、いいよな。
美人の幼馴染がいてな』
『というか、雪川って調子に乗ってるよな』
「ち、違っ―――
―――っう!?」
「お兄さん?」
「お兄ちゃん?」
「グル……」
―ユウキ……―
「………………」
ウェニアの指摘を衝動的に否定しようしたが、生まれてから親戚を始めとした大人たち、学生生活から始まった同級生たちの言葉が蘇って否定の言葉が出なかった。
そんなことを気にする必要なんてないのは既に理解していた。
それでも、幼い頃から妹や幼馴染と比べられて出来上がってしまった苦い記憶を消し去ることは出来なかった。
明らかに自分と生きる場所が違っているのに生まれた時から一緒にいた優れていた、いや、優れていても何も言われない人間たち。
自分とは明らかに違う人間たち。
そんな人間たちの傍に居ざるを得なかったのだから、せめて、足を引っ張らないように頑張ってきた。
少しでも目立てば、たちまち理不尽な嫉妬や悪意を向けられる。
だけど、それでも頑張るしかなかった。
「仕方ないじゃないか……」
何を言うべきかもう考えることも出来なかった。
「仕方ないじゃないか!!」
「「!?」」
「グル……」
「………………」
無責任に僕は叫んでしまった。




