第百八話「自由の重みと痛み」
「何度目だ?
何度、貴様は己の出来ぬことを悔やみ続ける。
挙句、自分で全てを背負ったつもりになっているのだ」
「それは……」
ウェニアは不機嫌さを隠さずに僕がうじうじしていることを指摘してきた。
彼女の言う通り、僕は自分が出来ないことを恐れ、そして、何よりも失敗することで自分を責めてしまう。
初めて、魔法を使えるようになった時に、自分から行動することで自分の価値の無さを曝け出すかもしれないことへの恐怖はなくなった。
だけど、今度は逆に自分が失敗することへの恐怖が生まれてしまっている。
それもただ怖いのではなく、自分が行動することで生まれる周囲への悪影響や自分が失敗することで誰かを傷付けてしまうことがとても怖いのだ。
今まではただ自分が我慢すればよかったが、自分で行動することへの変化に伴う恐怖を初めて知ってしまったのだ。
だから、その責任をせめて取らないといけないと思うけれど、自分が何処まで責任を取れるかと疑問に感じて、それでも目の前で起きている現実への責任から逃げたくないと思い、うじうじと自己嫌悪、自傷行為に等しい罪悪感を抱いてしまうのだ。
「貴様はまだ歩み出したばかりだろう」
「え?」
僕がどうやっても抜け出せない責任と罪悪感の鎖に囚われそうになっているとウェニアはただそう言った。
「我の目は節穴ではない。
貴様が今まで自らの意思で歩み出すことを妨げられていたことなどお見通しだ。
貴様はただ、ようやく得た自由の重みに気付いただけだ」
「自由?」
当然のことながら、ウェニアには僕の今までの人生が理解できてしまっている様子だった。
当初、彼女はからかい半分で僕を復讐へと誘おうとした。
それは僕の自身のなさから見抜き、馬鹿にしていた連中を見返してやれと。
だけど、今、彼女は僕の今の状態を「自由」を得たばかりだと告げた。
ありふれた「自由」という言葉に何処か遠いものを感じていたが、その言葉に何故か響くものを感じてしまった。
「そうだ。
貴様は周囲と己が生み出した呪いに縛られ、前に進むことが出来ずにいた。
それを貴様は振り払い初めて一歩を踏み出した。
リザを助け、リナを救い、リウンを連れ出したのは紛れもない貴様自身の意思だ。
貴様は自由になったのだ。
ただ羽ばたくのが下手で地面を這いつくばりながら進んでいるのだ。
その重みと痛みを感じている。
だが、それは果たして間違った自由か?
いや、違うであろう!」
「!」
ウェニアは何時の間にか「出来損ない」というレッテルに慣れ、そこから少しだけ進みだすことが出来た僕の行動を羅列し、僕が自由に行動したことが間違っていたのかと疑問をぶつけ、そして、それを即座に否定した。
「事情を知らぬ者、そうだな。
かつて、貴様を縛っていた者たちの様な者は貴様を無能と嘲るであろう。
そして、それを貴様は貴様の心の中に作っていてしまっているのだ。
だが、貴様は本来ならば救われずにいた者たちを救ったのだ。
これ以上、望むつもりか?
貴様は神にでもなるつもりか?
ならば、貴様を蔑んでいた者たちは貴様を神同然に扱っていたと同じではないか?
それはそれでよい。
あの気に食わぬディウ教にとっては貴様はそれこそ目障りに映るであろう。
何せ、自分たちが呼び寄せた救世主たちが恐れる神がいるのだからな。
アッハッハッハ!!」
心の何処かで自分を責める自分がいる様に感じ自縄自縛に陥っている、それを彼女はかつて僕を縛り続けていたクラスの連中たちと重ね、彼女は僕にこれ以上出来ることはないのにそれを望むのは傲慢であると語り、僕にこれ以上のことを求める人間たちの嘲りが無駄なものであり滑稽なものであると笑い飛ばした。
「それとな、ユウキ。
貴様の方こそどうなのだ?」
「……何が?」
笑い終えると彼女は僕に何かを訊ねようとしてきた。
「貴様をリザは助けようとしているのに何故それを拒絶している?
貴様はリザが死にかけているのに本人が助けを拒絶したからと言ってリザを見捨てるのか?」
「!?」




