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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第百七話「行動の結果」

「っ……」


 あれだけの魔力を使った代償として、あの痛みが走って、少しだけ僕は意識を取り戻したようだ。


(何だろ……

 妙にざらざらしてるな)


 痛みによって、今が夢と現実の境界線だという認識を抱きながらも、木や石と言った素材で出来た床でも、草や土と言った地面でもなく、増してや毛布やシーツではないザラザラとした妙に生温かい非現実的な感触を夢現に僕は知覚していた。


「お兄さん!」


「お兄ちゃん!」


「!」


 微睡より少し浅い意識の中でその声は一瞬で僕を現実に引き戻した。


「リウン。リナ」


 目の前には僕が連れ出そうとした酷く傷つけた少年と僕に道を示してくれた少女がいてくれた。


(あれ?何か揺れてる?)


 二人が見たところ、怪我をしている様子もないことに安堵を覚えていると妙に体が揺れていることに気付いた。


「グル!」


―ユウキ!―


「え!?」


 最近、耳にしていなかった鳴き声の波長とよく耳にしていた声で僕ははっとした。


「リザ……?

 怪我は?何で?」


「グルル!グル!」


―良カッタ!起キタ―


(どうして、リザが元の大きさに?)


 その声がリザのものであったことと僕が今まで手に感じていた感触がリザの背中であり、同時に僕たちが彼女に運ばれていることを理解した僕は彼女が元の大きさに戻っていることに困惑してしまった。

 リザを小さくしたのは彼女が他の魔物と同じ様に恐れられ、人々に警戒されない様にする為だ。

 それなのにそのリザが再び恐竜と見間違えそうな大きさに戻っている。


「………………」


 いや、本当は彼女が何故、そうなっているのかその理由は気付ている。


「ようやく、起きたか。

 いや、半日で起きる辺り、気を張りすぎているな」


「ウェニア……」


 疲労が完全に取れていないのに目覚めた僕の精神状態を言及するかのようにウェニアが僕に声をかけてきた。


「どういつもりなんだ?」


 彼女の存在を認識して、僕はすぐに薄々察していたこの状況についての説明を求めた。


「……これが我の策だ。

 説明はこれだけで十分だと思うが?」


「!?」


 その一言を聞いて、一瞬感情的に彼女に心無い一言をぶつけそうになったが


「……っ!」


 それを口に出した瞬間、自分のことがさらに許せなくなると思って踏みとどまった。


(彼女を責める資格なんて僕にはない……)



 リザを元の大きさに戻すことが出来るのはウェニアだけだ。

 恐らく、ウェニアはリウンの母親の「超越魔法」が消滅したことで今まで堰き止められていた水の様に魔物たちが押し寄せるこの森の中央からの脱出手段として、明らかに人間の足よりも速いリザを車の様に扱うことにしたのだろう。

 いや、それだけじゃない。

 元の大きさになったリザは同時に戦闘力も取り戻しているはずだ。

 本来のリザの戦闘力は並の魔物では歯が立たないだろう。

 つまりはリザは巨大な装甲車両の様に戦力としても僕が眠っていた間も僕を含めた皆を守りながら運んでくれていたのだろう。


(戦わせるために連れ出した訳じゃないのに……!)


 僕がリザを連れ出したのは戦わせるためなんかじゃなかった。

 いや、むしろ、戦わせたくなんかなかった。

 彼女を連れ出したのは彼女があの地下迷宮に待ち受ければ間違いなく訪れたであろう末路を回避させたかったからだ。

 そして、何よりも彼女の悲しみと孤独を知ったことで彼女に外の世界を見せたかったからだった。

 それなのに僕は彼女を戦いに巻き込んでしまった。

 しかも、彼女には二度も守られ怪我を負わさせ、挙句、半ば彼女にだけ戦闘を押し付けてしまっている形だ。


「お兄さん?」


「お兄ちゃん?」


(僕が弱いせいだ……)


 リザが戦うざる得ず、ウェニアがリザを戦力として扱っている状況を生んだのは僕が弱いからだ。

 これが最善なのだろう。

 リザは僕を守ることに率先して力を貸すことに躊躇いなんて見せなかっただろう。

 実際、彼女は何度も力を抑えた状態の中で命を懸けて僕を守ってくれた。

 そして、ウェニアは僕の力を見てリザを戦わせるという判断を下した。

 魔王としての経験もあって、彼女は時として使える手は何でも使うだろう。

 それがどんなに冷酷な手段だとしてもだ。

 だけど、彼女たちのこの行動は僕が弱くなければなかったはずだ。

 二人の優しさと強さに助けられたのだ。

 それも僕の行動が招いた尻拭いの為に。

 そんな僕にウェニアを責める資格なんてなどない筈なのに、僕は彼女を責めようとした。

 その事実も僕を苦しめる。

 そして、何よりも自分が弱いという理由以外でこの状況を招いた僕の行動を否定すれば、僕は本当の意味で最低な人間だと自分を許せなくなる。


「はあ~……

 全く、この愚か者が」


 僕が自己嫌悪に駆られているとウェニアの呆れた声が聞こえてきた。

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