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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第百五話「突きつける現実」

(二人は打ち解けているな)


 リナを背に乗せリナから恐れが消えている様子から、あの短時間で二人の間にある程度の信頼が築かれたことを確認でき、少なくとも、これからの旅における二人の懸念点は解消された。

 恐らく、我がユウキを急かしている際にも魔獣の襲撃はあっただろうが、その間もリザはリナを守り続けたのだろう。

 加えて、背中に乗せたのもリザが進んで背を差し出しのだろう。

 それはまるで幼い妹に年長の姉が手を出して、手を繋ぐかのように。


(さて、問題は)


 二人の間に既に障害はなくなったが、残っている問題はもう一つある。


「リウン。さて、貴様はどうする?

 このままここで母との思い出に縋って魔物に襲われる恐怖に晒されるか、それとも、この様な理不尽な目に遭わせた我らに付いて着て母の願いのままに外の世界に飛び出すか?」


「っ!?」


 我はリウンに向き合い、一方的な選択肢を突き付けた。

 最早、リウンにとってはこの家は安住の地に成り得ない。

 それを破壊した人間の考えを否定しなかった我からの問いはさぞ厚かましいだろう。

 しかし、現実は現実だ。

 ここで何時までも母親の思い出の残滓に浸るということは生を捨てることに他ならない。

 何よりもリウンが森の外に出ることは母親である森の魔女の願いだ。

 あくまでも、この森の聖域は雛鳥を守る巣であるが、鳥籠ではない。


「リウン。

 我はユウキの様に甘くない。

 此奴は相手の意思を捻じ曲げてでも相手を救おうとするが、我は違う。

 相手の意思を尊重したうえで好きなままにさせる。

 その結果がどうなろうともな」


「………………」


 我はユウキと違うことを口に出した。

 ユウキは恐らく、相手が邪悪ではない限りは可能な限り手を差し伸べて救おうとする。

 それが相手の意思に反したものであってもだ。


(だが、いずれは……)


 リストの様にただ守れなかっただけではなく、救うことができない人間が出て来る時は彼奴はどうなるだろうか。

 リストは死んだが、その想いと願いは報われた。

 自覚はないが、ユウキはリストを救ったのだ。

 だが、そうではない時に彼奴はどうなるだろうか。


(あの時のテロマの顔は浮かぶな)


 我が最期に見たテロマの顔。

 救えなかったことへの絶望と悲しみを湛えたあの表情。

 あれをユウキは見せるだろう。

 だが、今はその時ではないだろう。


「さて、どうする?

 貴様はどちらを選ぶ?」


 リウンに答えを求めた。

 我にとっては人が自ら選んだ選択を否定するつもりはない。

 その果てに待ち受けるのがその者の破滅だろうともだ。

 だからこそ、我は魔王なのだ。


(それにな、ユウキ。

 貴様は捨てたが貴様の復讐は既に成っているのだ)


 ユウキは復讐よりも我を支えるという選択(物語)を選んだ。

 だが、ユウキは既に生きているという時点で彼奴を捨てた者たちよりも救いと報いのある道を得たのだ。


唯一人(ただひとり)だ。

 唯一、貴様だけが我の玩弄から逃げ果せたのだ)


 力に傲り、復讐の蜜の味に溺れ、己の醜さから目を逸らし続ける滑稽さは復讐劇の愉しみの一つだ。

 力のない者が力が齎す万能感に酔い痴れていき、破滅していくのはやはり王道だろう。

 ユウキも当初はそうなっていくものだとは思っていたが、そうではなかった。


(どちらにせと、飽き足りる物ではないがな)


 片や、その滑稽さに。

 片や、そのいじらしさに。

 そのどちらかの面白さに対象が変わるだけだ。


「……お兄さんは僕を助けようとしたの?」


「そうだ」


 リウンは少し、考え込んでからそう訊ねた。

 ユウキが自分を助けようとしている。

 だが、それが何からかは分からないのだろう。


「……うん。

 行くよ」


「!」


 すると、意外な答えが返ってきた。

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