第百四話「いい兆し」
『どうした、リナ?
我の後ろに隠れて?
リザが怖いか?』
『う、それは……その……』
『グル……』
戦いが一方的に終わり、暫くは危険はないと判断したうえで我は我の陰に隠れているリナに対して少し悪戯混じりに訊ねた。
その様なリナの様子にリザは少し傷付いたような複雑な気持ちを抱いていた。
(無理もないか)
リナは初めてリザが魔物であることを知った。
加えて、この森に入ってから散々、魔物(リザと一緒にするのは遺憾ではあるが)の凶暴さと異常さ、そして、その狂気を目の当たりにした。
それなのに恐れを抱くなと言う方が理不尽であろう。
『本当にこの子があの子なの?』
『ん?ああ、そうだが』
その様に戸惑いと怯えを抱きながらもリナは本当に目の前の大蜥蜴がユウキに懐いているあの小さな蜥蜴であるのかを確かめた。
実際に我が魔法で本来の姿に戻したとはいえ、やはり、本当にそうなのかは俄かには信じられないらしい。
『そっか……』
我の答えを聞くと、リナは多少信じられなくても何とか納得しようとしていた。
『よし……!!じゃあ、そのトカゲさん』
『グル?』
『ん?』
間を置かずして何か決意したようにリナは我の背中から歩み出てリザに向き合い
『怖がってごめんなさい!
それと守ってくれてありがとう!』
『!』
『グル!?』
リザを恐れ、いや、魔獣たちと同じ様に見ていたことを謝罪し、そして、自分を守る為に戦ってくれたことへの感謝を純粋にリザへと伝えた。
それに我は少し虚を突かれ、リザはその言葉自体を不思議そうに受け取った。
『私……お兄ちゃんに色々と酷いこと言っちゃったから……その……
だから、今度は『ありがとう』て言えるようになりたかったから』
リナは自分がユウキにしてしまった振舞いを悔やむように告げた。
ユウキは確かにリナを守りはしたが、リナの父親の仇であるルズを埋葬するという、傍から、特に親を殺されたリナにとっては度し難いことを行っている
それに対して、ユウキを年齢もあってリナがユウキを責めてしまったのも無理からぬことである。
何よりも当の言われた本人であるユウキ自身がそれを納得している。
だが、リナはそれを恥じたのだ。
リナはリナなりに前に進もうとしているのだ。
『そうか』
リナのその姿に我は少し、ユウキも報われる予感がした。
ユウキは結局の所、甘さが抜けきれない。
それは彼奴が育った世界や環境が余りにも死と貧困から離れ、生命の一つ一つの重みへの価値が異なるからだろう。
だからこそ、悪人であろうと生命に重みを感じてしまうのだろう。
乖離した価値観との齟齬がこれからも彼奴を蝕んでいくのは目に見えている。
(やはり、レセリアとテロマは異常だったな)
最愛の妹であるレセリアとその息子はだからこそ異常だった。
あの二人は異邦の存在であるユウキと同じ感性を持っていた。
優しさ故の苦しみ。
どれだけ世界がそうであっても、失われない弱さ
余りにも美しく歪であった。
(だからこそ、ユウキがどの様になるのかが気になるのだ)
最愛の妹と宿敵とよく似た異邦の存在。
そんなものが歩む道の物語。
それが気になって仕方がない。
『ならば、リナ。
リザと一緒に居ろ』
『え?』
『グル?』
その物語に少しであるが、好転を及ぼそうとしたリナに我はこれからの旅において重要となる些細な変化をさらに求めてあることを命じた。
『我は今から、ユウキとリウンを迎えに行く。
その間にお互いに交流を深めておけ。
先程から分かると思うが、リザは人の言葉を理解できる。
その方がこれからの旅を共にするうえで良いだろうしな。
それに貴様がリザへの感謝の気持ちを抱くのならば、尚更よいであろう。』
『う、うん』
『よし。
リザ、リナを頼むぞ。
必ず、守ってやれ』
『グル!』
既にこの場の安全はリザが確保し、リナにとってはリザの傍にいる方がよいと考え、同時に旅を共にする仲間として、二人の交流を深めることへの都合の良さから我はリナには話し合うことを、リザにはリナの護衛を任せ、ユウキの決断の結末を見届けようと決めた。




