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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第百二話「無知と無力への怒り」

『グルァアアア!!』


 真の姿となったリザ相手に魔獣たちは正に恐れを知らぬが如く迫ってきた。


『フンッ!』


『グギャ!?』


『ひっ!?』


 しかし、それは恐れを本当に知らない蛮勇にも劣る行動に過ぎなかった。

 その代償として、飢えを満たそうと先頭を単独で走っていた魔獣がリザの右前脚の横薙ぎによって、宙を舞い無残な姿と成り果てた。

 リザの前脚とこの森の魔獣の通常個体は大きさは同等だった。

 そんなものが突如として、横から強い力が加わったことで相手の前に進む力などお構いなしに吹っ飛んだ。

 つまりはこの時点で力の差など歴然だ。


『グルァアアア!!』


『グル!』


 だが、ユウキが話した通り、知性の欠片もない魔獣たちは戦うのではなくただ貪るために向かってきた。

 恐れを知らない集団。

 それは軍団や兵としてはある意味、理想的かもしれない。


『恐れを知らぬのも大概だな』


『グギャ!?』


『グルル……!』


『お前もか、リザ』


 またしてもリザに喰らい付こうとしていた先頭の二体がリザの前脚によって同時に一蹴された。

 我は目の前の魔獣たちが、いや、それらと同じ様な『恐れを知らない者共』への苛立ちを覚えた。

 そして、それはリザも同じだった。

 恐怖に立ち向かうものが美しいのには確かな理由がある。

 恐れを知る者が敵に立ち向かうのが美しいのはなけなしの勇気を振り絞るからだ、

 若しくは、恐れすらも忘れる激情や情熱を燃やすからでもある。

 だが、目の前の魔獣共のそれは奴隷を甚振る主人が見せる恐怖への無知と同等の見苦しさだ。


 この様な奴らがユウキの()()()()()とはな


 同時にユウキが初めて奪った生命ということに腹が立った。

 当初、色々と生意気さと意地、強がりという鎧を纏っていたユウキであるが、その本質はどこまでも利他的なものだった、

 そんな男の最初に奪った生命がよりによって、この様な見苦しい存在というのが気に食わない。


 何故、ユウキの心がこの様な連中のために傷付かなくてはならない


 ただ喰らうことしか考えない。

 最早、獣以下の存在の死にすらユウキは傷付く。

 そんな傷を心に残した。

 そして、それはリザも同じだ。

 難なく、3体ものの魔獣を倒したリザはユウキの心を傷付けたこの森の魔獣たちの変わらない在り方と己への怒りを見せていた。

 リザにとっては、この数日は煩わしいものであった。

 守られてばかりで大切な人間が心を苦しめながら戦い続ける。

 そんなものを見せつけられれば、目の前の敵と戦えなかった自分への怒りが溜まり続けるのも無理はなかった。


『グルァアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 その怒りと悲しみを込めてリザは咆哮を森中へと放った。

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