第百一話「獣そのもの」
『え?え!?な、何!?
一体!?』
炎の中から姿を現した本来の巨大さを取り戻したリザを見て、リナは困惑と恐怖により混乱した。
無理もないことだ。
魔物は絶対的な恐怖であるが、それ以前に人間をはじめとする生物にとっては己より巨大な獣は根源的な恐怖だ。
命ある者にとっては食うか食われるかは当然の営みであり、それは力の弱い者は強い者の糧となることも必然として付いてくる。
巨大な魔物となったリザはリナが幼な子であることを差し引いても恐怖だろう。
しかし、決して恐怖であっても脅威ではない。
『リナ。大丈夫だ』
『で、でも……!』
『リザを信じろ』
『え、リザって……』
だが、リザのことを恐れる必要などない。
そのことを彼奴に次いで理解している我はリナに安心するように言い聞かせた、
『グルルルル!!』
『うわ!?また来た!!』
巨大化したリザとそのリザに脅威がないことを言い聞かせている我に戸惑っているリナの前に本当の脅威が姿を現した。
相も変わらず、寸胴のな醜悪な狼の様な姿をしているものが八頭、そして、二頭のユウキが前に倒したものと同じ毛むくじゃら蛙の体躯をした大型であった。
『グルル……』
それに対して、リザはただ戦闘態勢を維持し、睨みつけていた。
(やはり、リザと此奴らは違うな)
最初にリザと出会った時と現在相対している魔物の行動の違いを比較し、以前、ユウキが言っていたこの魔物たちとリザとの違いを改めて理解した、
ユウキ曰く、リザは『憎い』という感情のままに暴れ、ユウキに倒された際には痛みの感情に苦しんでいたらしい。また、我との実力差を感じ取り逃走するなどの判断が出来ていた。
しかし、目の前の森の魔物たちは死ぬその直前ですら食べることにしか考えが至らないうえに、今でも理解できるが相手との実力差を弁えずに襲ってくる。
(まるで、「獣」そのものだな)
魔物は本能のままに動くと我は考えていたが、ユウキの話を聞く限り、目の前の魔物はそれに輪をかけたものだろう。
(ならば「魔獣」と呼ぶとするか)
リザと異なり、本能の赴くままに動くしかないこの森の魔物を区別するために「魔獣」と呼称することに決めた。
(だが、今すべきことは違うな)
魔物の生態の研究については興味深いが、今はそのことにかまけている場合ではない。
『リナ。
絶対に我の傍から離れるなよ』
『う、うん』
魔獣たちとリザを見比べた後、我はリナに傍から離れないように命じた。
『よし。リザ、思う存分暴れろ』
『グル!!』
守られてばかりであったことで悔しさをその身で味わい続けたリザは我の発破を受けて、咆哮した。




