第百七話「輝きの前」
「ユウキ。
貴様は何処か、そうだな。
その木でも背にして座っておけ。
魔力の消耗で気を失う可能性もあるからな」
「わかった」
魔力を使うことで僕が倒れることを危惧したウェニアは僕に木に寄り掛かる様に指示を出した後、直ぐに本と食糧の収納作業に取り掛かった。
後はウェニアを信じるだけだ
彼女は誰かが必死に掴んだものを無駄にするようなことは絶対にしないはずだ
木を背にしながら、あの地下迷宮でウェニアが僕とリザが財宝を手に入れた時にした彼女の先を見据えた行動と対応を思い出して、信頼を込めながら彼女の行動を見守った。
「リウン。よく見ておけ、これが魔法だ」
準備が整うとウェニアはリウンに自分が行う魔法をよく見ておくように告げた。
どうやら、リウンは魔法の知識(それもかなりの高等なもの)はあるらしいが、一度も使ったことはないらしい。
『僕、魔法を使ったことがない』
この森の中心にいたら、使わないよね
今までリウンは母親の「超越魔法」に守られてきた上に、さらには魔法の性質上、魔法を使うことも不可能だった可能性もある。
ただあくまでも魔法の性質がリウンを傷付ける意思や可能性と言うことから、もしかするとリウンだけは使うこと自体は可能だったかもしれない。
けれども、「超越魔法」によって守られてきたことや、食べるものに困らなかったこと、そして、彼は僕たち以外の外から来る人間と関わることがなかったことで魔法を使う必要がなかったのだ。
母親が息子に願ったもう一つの願いはその母親の愛によって妨げられていたのだ。
「リウン。手短に言うが、今回の魔法は先程説明したようにユウキの魔力を使う。
ただもし貴様が自分の魔力で今回のような規模の大きい魔法を使うのは慣れてからにしろ。
知識とは力が伴ってこそ初めて真価を発揮するのだからな」
「う、うん」
ウェニアはまるで教師の様に、いや、どちらかと言うと弟子の修行を付ける師匠の様に魔法の初歩について語った。
確かにあんな痛みをリウンみたいな子供にさせるのは……
僕の時は彼女の悪趣味もあったにあったが、それでも緊急性の高さと僕がリザを連れて行きたいと言ったのが理由であった。
しかし、出来る限りはあんな激痛を経験させる必要はないだろう。
ましてや、あいてはまだ子供だ。
「では、始める。
見ておけ」
僕たちに二人に言うことを言い終えた後、ウェニアはリウンの家に身体を向け、そして、手を前に出した。
「うっ……!!」
突如として、僕の身体から力が抜けていく感覚とめまいを覚え、次第に意識が遠のいていくのが感じられた。
「綺麗……」
リウンのその声が聞こえてきたので薄れゆく意識の中でウェニアの方へと顔を向けた。
ああ、本当だ……
輝きを目の前にしてそこに佇む彼女の後姿。
それは優雅で、凛々しく、美しかった。
その姿を目に焼き付けながら、僕の視界はゆっくりと暗くなり、静かで安らかな眠りに誘われるかのように僕の意識は失われた。




