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手を伸ばして握り返してくれたのは……  作者: 太極
第二章「森の魔女の聖域」
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第百五話「選択肢のない選択」

「リウンの母親の本も?

 どうして?」


 ウェニアが持ち出すことを決めたリウンの母親の全ての蔵書。

 確かに本は貴重なものではあることを理解していたが、それらを持っていくことが僕には予想外だった。

 その理由を知りたくて、いや、彼女の口から聞きたくて、僕はその理由を訊ねた。


「決まっているであろう。

 魔女が百年もの間、蓄えた叡知の結晶の数々。

 そして、我が眠っていてからの世の流れを知る一助になるものだ。

 それにな、あの魔女の日記。

 あれだけでも興味深いものであったぞ?

 ここで土に帰すことは愚かな行いであろう」


「え?あ、うん……」


 ウェニアの口から出てきた理由に僕は理解は出来たが、少し、自分が期待していたものとは異なっていたことに寂しさを感じた。


 そうだよね……

 いくら何でも、期待し過ぎだよね


 ウェニアの言っている理屈は全て正しい。

 リウンの母親が残したあれだけの本はきっとウェニアが眠っていた千年間の空白期間を埋める助けになるだろう。

 僕たちの世界の歴史で例えれば、平安時代の藤原道長が現代に蘇ったとしたら、高校生の僕の知識ですら彼にとっては死後千年間の知識を埋めるものになるはずだ。

 間違いなく、喉から手が出るほど欲しいだろう。

 加えて、今ウェニアが欲している本はこの森をほぼ支配していた「森の魔女」の魔導書を含めた知識の結晶だ。

 「超越魔法」という魔王クラスが保持している魔法を自らの死後も維持し続けた規格外の天才の所有物ないしは執筆物だ。

 それを持ち出さない理由がある筈がない。

 だけど、僕が求めていた答えは少し違った。


 少しは近付けたかなと思ったけど……

 やっぱり、高望みだったかな


 最近、色々と優しくしてもらっていたことから高望みをしていたのかもしれない。

 確かに「テロマの剣」を使って戦うことには踏ん切りがついた。

 それでも、僕自身はそんなに強くなどなっていない。

 そのことから、彼女にとっては僕が歯牙にもかけない存在なのかもしれない。

 だから、僕個人が抱いているこの感情はただの私情だ。

 そう何時ものように諦めを抱きそうになった時だった。


「それにだ。

 これらの本はリウンが魔法を学んでいく為に必要なことだ」


「!」


「え?」


 ウェニアが僕が望んでいた答えを言ってくれた。


「リウンは貴様は否が応でも外の世界で生きていかなくてはならない。

 いや、我らがそうさせた。

 故に貴様は母親が残した数々の魔導書を読み、身につけなくてはならぬ。

 それはわかるな?」


「………………」


 ウェニアはリウンにこれから外の世界で生きていかなくてはならなくなった現状をはっきりと突きつけた。

 その中で彼が魔法を身につけることは必要事項であることを伝えた。

 それらの事実をリウンは頭では分かっていても、恐怖や不安、悲しみから顔を俯かせた。


「それとだ。

 それはお前の母がお前に願った『誰かを助ける魔法』を使う人間になることに近づくはずだ」


「!」


 しかし、ウェニアが口に出した他ならないリウン自身が語った母親との約束を耳にして、リウンは顔を上げた。


「今はその道に進むかは迷っていてよい。

 だが、何時かはお前自身が決めよ」


「う、うん……」


 最後にウェニアはリウンに自らの意思に委ねた。

 それはほぼ他に選択肢のない選択だろう。

 少なくても、彼女はリウンが選ぶことが出来る最善の、そして、結果的に彼の望んでいるであろう願いを示したのだ。

 卑怯ではあるが、それは優しいと僕はそう思った。


「ユウキ。

 これで理解できたか?」


 僕の方を見て、ウェニアは訊ねた。

 それに対して、僕は


「うん!」


 理解どころか、納得することが出来た。

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